今では『回転寿司』も外食業態としてすっかり定着した。「わたしは回らない寿司しか食べない」、なんてスカした人は絶滅危惧種に近いだろう。それだけに飽和感があることも否めない。参入企業が揃って市場拡大の恩恵に与れる時期は過ぎた。創意工夫で違いを作る必要性が、回転寿司の業態にも強まっているように思う。
『銚子丸』といえば、回転寿司の中でも割と単価の高い店だろう。グルメ回転寿司とも呼ばれたりする。「『鮮度の追求』による鮮魚へのこだわり」、「注文を受けてから、お客様の目のまで握る」が会社のポリシーだ。加えてサービスにも特徴がある。「店舗は劇場、スタッフは劇団員、お客は観客」。エンターテインメント性を追求する姿勢は、『体験型消費』という流行り言葉が生まれる前から息づいている。接客に対する評価も高く、日経トレンディなど主要雑誌で顧客満足度ナンバーワンを軒並み獲得しているそうだ。
2020年5月期の業績見通しは、売上高199億円(前期比+3%)、営業利益7.3億円(同▲22%、営業利益率3.6%)。既存店の売上高は横ばいを見込む一方で、収益性の改善に向けた機械化や省力化の先行投資が短期的に利益を圧迫すると想定している。
外食業界を取り巻く環境は四重苦だ。食材費・建築費・人件費の高騰に消費税の増税。回転寿司の業界についていえば、市場成長率の鈍化による競争の激化も加わろう。数年前までは外食業態の中でも相対的に高い伸びを見せていたが、足元の市場規模は7,000億円程度で足踏みしているとみられる。そのなかで、スシロー、くら寿司、はま寿司の3社が全体の6割以上を占める構造となっており、しかも上位の寡占度は少しずつ大きくなっている状況だ。
市場環境の変化を受けて、銚子丸も自らの転身に力を入れる。セルフオーダーシステム(タッチパネルで注文できる)や皿会計システム(皿の枚数を自動で精算できる)の導入による効率化を推進中だ。スシローやくら寿司など上位の企業ではすでに珍しくない機械化や省力化が、銚子丸の大事にする顧客との接点を失わせることにより、同社の魅力が減じなければ良いと思う。ただ、電子決済の拡充だけは歓迎だ。現金のみ受け付ける従来の会計はいかにも時代に合わない。
新規顧客の開拓も重要な施策の一つだ。例えば、2019年から出張回転寿司サービスを始めた。老人ホームや企業懇親会など、2020年5月期上期(6-11月)は65件、3,085名の実績としている。前年同期が16件、845名だから好調と言っていい。売上高は1,200万円とまだ小さいが、『外販事業課』を新たに設けてさらに販促活動を強化する構えである。これは結構な需要があるのではないか。
個人的に感じるのは、集客のツールとしてSNSをもっと上手に活用した方が良い。Twitterはとりあえず開いているが、チラシの延長線といった内容にとどまる。各店舗の『劇団員』が、それぞれの『劇場』を面白く紹介する場として活用するのはどうだろう。もっとも、度が過ぎてバイトテロのような事態に陥らないよう気をつけねばなるまい。