三菱電機といえば、いわゆる総合電機の中でも早くから事業の選択と集中を断行し、FA(ファクトリーオートメーション)機器やパワー半導体など、強みのあるBtoB領域に経営資源を絞り込んできた企業である。少し前ならば、『優良企業』と迷わず表現していたが、労働環境を巡る問題の発覚で心情的に躊躇われるようになったのは残念だ。
考えてみると、テレビやパソコン、携帯電話など不採算事業を三菱電機は切り離してはきたものの、現在の収益を支えるFAもパワー半導体も昔から継続している事業であり、新規事業の育成によって企業の新陳代謝が劇的に進んだ過去を持つわけでは必ずしもない。旧態依然とした負の部分がオリのように溜まっていることを今回の労働問題が明るみにした。
旧態依然はIRにも認められる。決算説明会で配布されるのは基本的に決算短信のみ。それをCFOが立て板に水で読み上げる。最近の説明会ではついぞ目にすることのない天然記念物的な光景だ。
振り返ると2000年初頭にはこのスタイルが当たり前であった。今ではIRが優良な部類に属する富士フイルムも、昔は決算短信の文言を一字一句違わず読み上げていたことを思い出す。キヤノンの場合はさらに酷くて、短信のみの情報開示はもちろんだが、説明会となると大田区下丸子の本社まで投資家・アナリストは足を運ばなければならなかった。これだけではない。上には上がいるもので、大日本印刷や凸版印刷になると、決算短信上にセグメント情報の開示すらなく、当時のアナリストが強力に働きかけてくれたおかげで、出版・商業印刷、パッケージ、エレクトロニクスの数値をようやく分析できるようになった。
三菱電機はこの20年、ITバブル崩壊や金融危機に事業の面では果断に対応してきたにもかかわらず、ことIRに関しては旧来のスタイルを一貫して守り続けていることに、それはそれで何か同社の強固な意志を感じないでもない。決算説明会は文字通り決算数値を説明する場と愚直に考えているのだろうか。確かに、経営戦略説明会や事業説明会を別途、開催してはいるが、その説明とて投資家・アナリストにフレンドリーとは必ずしも言いがたい。
説明会資料の作成に過度なコストをかける必要はないが、三菱電機の企業クオリティに対する高評価に潮目の変化が感じられるだけに、なおのこと株式市場とのコミュニケーションを改善すべきではないかと思う。