2020年のアナリストランキングが発表された。日経ヴェリタスが主催するこの人気アナリスト調査は、機関投資家へのアンケートをもとに証券会社のアナリスト、いわゆるセルサイドアナリストを担当セクター別に順位づけするものである。証券会社のアナリストにとっては、機関投資家に対するみずからの1年の働きが可視化される緊張の瞬間だ。
信託銀行をはじめとする機関投資家がインハウスで抱えるアナリスト、いわゆるバイサイドアナリストをランキングする試みも過去には何度かあった。たしか、みずほ総研が主催していたと記憶しているが、もっぱら事業会社へのアンケートをもとに、バイサイドの場合には業種を分けることなく、分析力や対話力に優れたアナリストを選出するものである。ランキングの上位には何人かの同僚が名を連ねていた。「じゃあ、あなたはどうだったんですか?」。そんな真っ当だが意地悪な質問はどうか『自粛』していただきたい。
証券会社のアナリストランキングに話を戻すと、各セクターにおけるトップアナリストの顔ぶれがここ7〜8年は大きく変わっていないことに複雑な感情を抱く。たとえば、エレクトロニクスセクターの場合、産業用電子機器、家電・AV機器、電子部品、精密機械・半導体製造装置の4部門でランキングされるが、いずれも野村証券や大和証券で長く活躍する50歳を超えたベテラン勢が、昔も今もトップの地位にちゃんと居座っている。アナリストの顔ぶれも変わらなければ、注目する銘柄の顔ぶれもまた変わらない。産業用電子機器では富士通、富士電機、家電・AV機器ではソニー、電子部品では村田製作所、太陽誘電、TDK、イビデンなどである。「古株アナリストのみなさん、まだご存命でしたか」と懐かしく思う一方で、まるでここだけ時が止まっているかのようなランキングを嘆かわしく思う気持ちもある。
ベテランの頑張りもあるのだろうが、むしろ若手の成長不足が大きいように思う。証券会社のアナリストにとって、決算説明会における質疑応答の時間は、その場に参加する機関投資家にみずからの存在をアピールする好機でもあるが、ベテランのお株を奪うような威勢とクオリティを感じさせる若手の下克上はほとんど見られない。ランキングの高いベテランから順番に質問するルーティーンが律儀に守られている。かといって、「これぞいぶし銀」と思わず唸りたくなるような奥行きのある質問をベテランが投じるわけでもない。
かつてはどの証券会社にもアナリストを育成する体制が整っていたように思う。わたしが最初に働いた証券系の経済研究所は、「教えられるものではなく先輩から盗むものだ」ともっともらしいことを言って組織的な人材育成を放擲していたが、それでも先輩アナリストによる鬼のような指導で新人を力技で育てるような風土が属人的ながらも担保されていた。しかし、そんな恵まれた時代はもう過去の話なのかもしれない。四半期決算に象徴される近視眼的な投資判断への時代要請が、証券会社から人材育成の時間的・精神的余裕を消し去ったのではないだろうか。あるいは、リーマンショック以降の継続的なリストラによる組織へのロイヤリティ低下が、「他者を育てたら自分の座を奪うかもしれない」といった殺伐とした雰囲気を生み出したのではないだろうか。
40歳も半ばを過ぎた今、自分のことばかり考えていないで、若手の人材育成にも微力ながら貢献できればと(少しは)思っている。それが、鬼のような先輩アナリストへの恩返しにもきっとなるのだろうから。