武田鉄矢のCM起用で『マルちゃん 赤いきつね』がギネス世界記録に認定された。同商品の発売は1978年。それよりひと回り早く登場した『サッポロ一番』と共に、わたしの成長を支えてくれた食品と呼ぶのは大げさだが、幼い頃から慣れ親しんだ定番商品である。
浮沈の激しいエレクトロニクス業界において、最も代表的な定番商品のひとつに挙げられるのが『G-SHOCK』であろう。1983年3月に発売を開始したカシオの代表作は、「落としても壊れない丈夫な時計」をコンセプトに、当時20代の若き開発者3人がスピード感を持って作り上げた製品である。奇抜なマーケティング手法も功を奏し、G-SHOCKは2017年8月に累計販売1億個を突破し、2018年度は950万個で過去最高を更新している。ちなみに2018年におけるコンパクトデジカメの世界市場は870万台。G-SHOCKはまさにお化け商品と言っていい。
カシオはなぜG-SHOCKを生み出すことができたのか。個人的に思うのは、カシオには他の電機メーカーにはないノリの良さや遊び心が息づいているということだ。G-SHOCKの場合、開発チームの一員で設計を担当した伊部菊雄さんが、愛用の腕時計を落として壊してしまった1981年に物語が始まった。「落としても壊れない丈夫な時計、いいじゃんそれ、とりあえずやってみようよ」と上司が言ったかどうかわからないが、同じ年に開発チームが早速作られ、2年後の春にはG-SHOCKの初号機が発売されている。マーケティングにおいては、たとえアイスホッケーのパック代わりにされても、また20トントラックの下敷きにされても壊れないという、およそ時計の使用環境としてはありえない状況をみずから嗜虐的に作り出し、唯一無二の「タフネス」な腕時計として強烈にキャラを立たせることに成功した。
さらに踏み込んで考えると、世の中にないものを出すことへの異常なまでの熱量をカシオには感じる。一昨年亡くなった樫尾和雄さんがまだ社長のころ、カシオがまさかの下方修正を発表したことがあった。決算説明会に参加した投資家・アナリストは、当然ながら減額の理由を聞きたいと集まっている。ところが社長の口から飛び出したのは、「みなさん、過去は過去です。それよりも聞いてください。画期的なデジカメを開発しました。スーパースロー再生ができるのです。競馬でゴールの瞬間を連続撮影すれば、なんと鼻差までしっかり撮れるのです。鼻差ですよ、すごいでしょ」。ある意味で確かにすごい、すごすぎる。
「チープカシオ」と呼ばれることもあるが、G-SHOCKが象徴するカシオはエレクトロニクス業界において確かに特異な存在であり、キヤノンやソニー、パナソニックとはまた違う趣のある会社である。他社との違いを作ることが上手なカシオは、今後も世の中をワクワクさせる製品を生み出してくれることだろう。日本の電機メーカーの中でも個人的にファンな企業の一社である。
ところでみなさん、赤いきつねと緑のたぬき、そしてサッポロ一番の塩味、みそ味、しょうゆ味、それぞれ好きなものはどれですか。緑のたぬきとサッポロ一番しょうゆ味。わたしならこのふたつを選びます。