その日私は隣の県へと車を走らせていた。
隣の席には勤め先の上司で定年間近の専務。男二人の移動時間。
何とも言えないむさ苦しさが漂う車内が容易に想像できると思う。
安心してくれ。その想像の2倍は気まずい。
コンサル業を生業としている私であるが、この業界に入ったのは丁度一年前。
何でもないようなことが幸せだったと思わないが、生活様式の変化に伴い転職した。
さて、本日は長丁場だった、半年掛けての案件の納品業務で先方へと向かっていた。
それは突然起こった。
始めに感じた違和感はお尻だった。それは徐々に違和感から確信へと変わっていく。
別に糞を漏らした訳ではない。
振動だ。明らかに走行中に感じる振動を超えた、タイヤの異常を告げる揺れだ。
冒頭で伝え忘れていたがこの日の移動は高速道路である。走行速度は約時速100Km。
そんな状況下でのイレギュラー。
そう、高速道路の路上でタイヤがパンクしたのだ。
早朝だったことが幸いし、走行中の前後には別車両もなく、非常電話機がある路肩へと車を停車させ、ハザードを点灯させる。携帯からJAFへと連絡し、救援を呼んだ。
パンク発覚からJAFへの電話までの一連の流れにおいて、安全上の間違いが2点ある
のですがぁー、、、それは一体どこでしょうか?トゥルルル トゥルルル ルーン♪
草野「さて、日常時で起こり得るアクシデントからのクエスチョンです。
本日のゲストの中から、見事パーフェクトを達成される方は現れるのでしょうか?」
草野「本日のゲストの皆様です。」
草野「どうぞよろしくお願いします。」
アナ「それでは皆さんの回答を一斉に見ていきましょう。」
黒柳:
① 電話を掛ける前に車内から出て安全を確保する
②ハザードランプに加え、三角停止板の設置と発煙筒を焚く
百田:
① 電話を掛ける前に車内から出て安全を確保する
② 車内から出たら上司の背中をさすり、大丈夫ですよとなだめる
高橋:
① ハザードランプを焚いて三角停止板の設置と発煙筒を焚く
② 上司の太ももをさすり、ロマンスが始まる
草野「これは意見が同じ部分も見受けられますが、、、まずは百田さん。」
百田「は~い。安全を確保するのは勿論ですけど~、専務さんは高齢の方なんですよね?それなら不安で心臓がきゅーってなってると思うんですよ~。だから背中をさするのが正解かな~って。」
草野「なるほど、なるほど。それでは続いて黒柳さんの回答ですが。」
黒柳「えぇ。アタクシィもね、百田さんと少し被るんでシュがね、安全を確保する時にでシュね、車のハザードランプだけではでシュね、えぇ不十分なんですよ。後続車両にでシュね、危険をね、ワァーーー!!って知らせなきゃでしょ?ですからね、車内から出てハザードと、三角停止板、そんでもって発煙筒も焚く、これが正解でございまシュわね。」
草野「はい、補足の必要もない解説ありがとうございます。最後に高橋さん。」
高橋「私、こう見えましても若い頃は大変にモテました。モテ橋でございました。百田さんの妙齢の専務のメンタルへの配慮にですね、深く共感致します。何なら背中ではなく、太ももを擦っちゃおう、なーんて私ならば考える次第ですけども。ええ。さしずめ、太ももが恋のサイドブレーキと言ったところでしょうか。ええ。何やら急に会場の空調が不調をきたしている様ですが。私からは以上です。」
草野「はい、大変ユーモラスなご解答ですね。では皆さんの回答が出揃ったようなので、正解のVTRをご覧頂きましょう。どうぞ。」
高速道路での車でのアクシデント、焦ることなく正しく対処したいですよね。
ただ、実際にトラブルに見舞われると、どうしても人間は焦りから誤った行動を起こしてしまいがちです。
今回の場合、正しい行動を行うとなると・・・??
早朝だったことが幸いし、走行中の前後には別車両もなく、非常電話機がある路肩へと車を停車させ、ハザードを点灯させる。
→素早く路肩に停車させて、また非常電話機も念頭に置いた緊急停車はお見事です。
但し、車のハザードだけでは後続車両が停止車両の異常に気付きにくく、また非常
事態か否かの判断が付かない場合があります。ここでの正解は、ハザードランプに
加え、注意喚起で車両の後方に三角停止版を置き、発煙筒を焚く、となります。
また、
携帯からJAFへと連絡し、救援を呼んだ。
→こちらも連絡を早急にする点は素晴らしいのですが、車内に居残ってしまうと、万が一の場合、後続車両からの追突による被害が想定される為、路肩のガードレールの外、または開けた場所へ避難して救助を待つ、が正しい行動となります。
スタジオの皆さ~ん!解答は如何でしたか~??
正解は黒柳さ~ん!!
他の方は惜しくもヒトシくん人形、没収となります~。
黒柳さん以外の方々もおひとつずつは正解だったのですが・・・
惜しい所でしたね。
それでは、納品業務の一日、その続きをご覧頂きましょう。どうぞ。
・・・
・・・
・・・
おっと、危ない危ない。
JAFを呼んで約一時間、路肩で専用車両の救助を待っていた私と専務。時期は1月末。
当然車外は寒い。ちょうど関東地方に寒波が到来していた頃だったと想像して頂くと股間が寒くなって来るのではなかろうか。ブルッ。
話が脱線しまくっているが、何だったか。そうだ、高速での車両トラブルだ。
緊急時は人の本性が出る等と言われているが、ここで明らかな違和感を感じた。
尻に?いや、糞ではない。頭に?いや私のおつむの話ではない。
専務だ。専務が明らかに狼狽しているのだ。
いつもは言動がやや高圧的で、テンプレートな「昭和」感を醸し出す専務なのだが、
どうやら危険を伴うトラブルには弱かったようだ。一方の私は、避難訓練を体験している様な感じだったと思う。楽天主義。東北ゴールデンイーグルズである。もとい、
事態を重くは受け取っておらず、非常時にしては焦らず、粛々と対応していた。
そこに専務が一言、「かませ君は落ち着いとるなぁ。俺はぁ肝が冷えたぞ。」
おっととっと、冬だぜ。いやはや、パワハラ・モラハラ上司が弱腰ではないか。
あれあれあれ~?年相応のおじいちゃんになっちゃてる感じ~??ウケる~。
トラブルでTo Loveるじゃねーんだわ。私はアンタに優しくはせんぞ。
まぁ冗談はさておき、寒さで手先が冷えに冷え切った頃、ようやくJAFの提携業者らしき車両が到着。そして何故かネクスコ西日本の巡回車両まで到着。
こんな車両。
降りてくるネクスコの若いスタッフ。
ネクスコ警備員「大丈夫ですか~?車両が止まってるのが見えたもので。お怪我等はありませんか?救助車両は・・・あぁ到着が同時だったみたいですね。何事もないようなので良かったです。それではこの後の道中も気を付けて走行されてください👮」
あーこれが、、、
最近会社や家庭で厳しくされることが多くて、どうやら忘れていたようだ。
この暖かさ。やべぇ。ぬくい。室内の暖房なんかよりもぬくいわー。
凍えてた手先?そんなもん既にポッカポカだわ。身体の芯が温まったわ。
声掛けを終えると、私の乗る車両のタイヤ交換と再発進が終わるまで、車両後方で交通誘導をしてくれる逞しい背中。あーこれがTo Loveるだわ。私の股間がキラリン・デビルークだわ。
今までネクスコの車両を高速で見つける度に、「チンタラ走ってんじゃねーよ。パトロール?体のいい税金泥棒かよ。」とか思ってごめんね。本当にもうジャンピング土下座。温かさに触れて私ゃ見方が変わったよ。これからは青い車両を見かける度、笑顔になれそうだ。モッコリ。
そうこうしている内に、車両のタイヤ交換は終わり、車は再発進。
笑顔で見送ってくれるネクスコお兄さん。
ただ走り出したのは良いが、妙に後ろ髪を引かれる。
ここは高速道路だ。しっかり目的地まで運転しないと。でも・・・
ところで、専務はと言うと・・・助手席で大人しゅうしとるわ。
まるで借りてきた猫のようじゃのぅ。話題を振ってもYes・Noが基本の返しだ。
さて目的地まであと2時間。隣には不愛想な専務。
偽りの笑顔を顔面に貼り付けたかませいぬの運転はつづく。頑張れ、かませいぬ。
次回、
「激闘!?荒ぶる納品先の担当者!熱戦・舌戦・超激戦!!」に続かない。
おわり