警察署に行った。
犯罪に関わったわけではない。
私は町内会長である。
地蔵盆の道路申請に来たのだ。
事前に必要書類などは聞いていたので、準備はできていた。
しかし、書類は自分で記入しなければならない。
なぜか同じ書類を2枚記入しなければならなかった。
全く同じことを書くのである。
警察といえども、お役所に違いないので、煩雑なのは仕方がない。
煩雑なのが、全て無駄とは思わないが、面倒に変わりない。
面倒だけれども、投げ出したくなるほど面倒というほどでない。
まぁ、仕方がないな、とできる程度のことである。
それなら、無駄ということでもないのだろう。
その煩雑で面倒だが、投げ出すほどではない書類2枚の記入を終え、窓口で説明を聞いていると、突然の夕立である。
家から出る前に、雷がなっていた。
危ないかなと思ったが、傘など持たずに、自転車で出かけた。
僕は、傘を持ちながら自転車を運転するのが嫌いである。
法を遵守するという気持ちからではない。
単に怖いのである。
雨でどうしても自転車で出かける必要がある場合は、カッパを着るか、濡れていくのである。
しかし、今日はカッパはない。
濡れて行くのでも構わないが、書類がある。
これを濡らしてはならない。
僕のものなら、良いと思う場合もあるが、僕のものでない。
仕方がないから、新しくなったオフィスビルのような警察署で、よく効いたクーラーを浴びながら、雨宿りすることにした。
新しいので、綺麗である。
空調も効いていて、快適である。
タバコは当然世間の波に押されて、禁煙であろうと思う。
確かめたわけではない。
特に何も持って行かなかったので、することがない。
警察署の入口あたりのソファーに座って、あたりを見てみる。
今日はあまり事件などないのか、年配の男性警察官と、若い婦警さんが、楽しそうに話している。
そんなに人はいない。
出入りもあまりない。
僕の他に、4、5人の来訪者が雨宿りしている。
一人は、外の様子が見えるところに、どんと座り、じっと外の様子を伺っている。
体格もどんとしている。
服装はカジュアルであるが、少し根の張りそうなもの、それから高級そうな皮の書類カバンを持っていた。
もうひとつ、バイオリンか何か、楽器が入っていそうなグレーのケースがカバンと一緒に置かれていた。
天気予報でも見ているのか、しきりにスマホを見たり、カバンにしまったり、また外をじっと見たりしている。
そのほかは、中年カップルがいたが、自動販売機に行った後、どこに行ったか見失った。
私は特にすることもないから、指名手配写真、行方不明者の写真、大麻草の写真などを見ていた。
特に知っている顔、似た顔も見当たらなかった。
意外にわからないものだなと思った。
あらかた写真も見、ポスターも見、人間も見終わったので、再びすることがなくなった。
僕はスマホ持っていなかったので、チャットをして時間を潰したり、ゲームをしたり、ニュースを見ることもできなかった。
自動販売機で、飲み物など買おうかとも思ったが、空調は本当にちょうど良いもので、特に時間潰しのためだけに、飲み物を買おうとも思わなかった。
封筒があった。
A4の書類が入る、少し大きめの茶封筒である。
ペンがあった。
何か描くためと、出先においてあるペンが気に入らないことが多いので、いつも持って出てくるのである。
茶封筒、ペン、暇な時間。
何か描き始めた。
妙な絵になった。
場所が場所なのと、それまで見たものの影響なのだろうと思う。
気味が悪いというか、妙なものが出てきた。
こんなものが自分の中にあるのかと思った。
絵を描いていると、雨が小降りになったようで、先ほどのドンとした人がいそいそと出ていく。
それでも、まだ少し降っているのだろうと思ったので、描き終わるのを待って、外に出た。
まだ雨は少し残っていた。