(場面1)
大砲や銃声の音。武士同士の斬り合いや叫び声。
西郷隆盛と勝海舟が江戸城で話をしている。
(勝 ) 「西郷さん、江戸を焼いたらエゲレスとフランスが喜ぶだけだよ」
(西郷)「しかし、薩摩も振り上げた拳(こぶし)を下ろすわけにはいきもはん」
(勝 )「じゃ、新撰組に北に逃げるように言う。それでいいですね」
(西郷)「勝さん、おはんコワイ男でごわすなぁ」
(勝 )「時代の変化についていけないことは悲しいことです」
(西郷)「いくら新撰組が剣の達人でもガトリング砲にはかないもはん」
(勝 )「じゃ、近藤と土方(ひじかた)の死でお終いということで」
(場面2)
(桜 )「先生はどうして授業をしない個別指導をしているの?」
(高木)「コロナでオンライン授業になったでしょう?」
(桜 )「え?何の話ですか?」
(高木)「実は、学校の授業がオンラインで家庭に流れたら保護者がそれを見ていたんだ」
(桜 )「で?」
(高木)「Youtube に無料でアップしてある予備校の授業の方がクォリティが上だってバレた」
(桜 )「塾も高額でDVDを見せるスタイルは支持されてません。動画の授業の方がクオリティが上だしタダなんだから」
(高木)「塾の役割も変わったんだよ」
(桜 )「そっか!授業は動画で済みますもんね。時代が変わったんだ」
(高木)「私はイケメンではないからオンライン授業など誰もみてくれないよ(笑)」
(場面3)
(生徒)「おい、お前は京大の英作文の対策に何を使っている?」
(生徒)「オレは、『ドラゴンイングリッシュ』を使ってる」
(生徒)「オレは、『英作文講義の実況中継』がいいと思う」
(生徒)「で、夏期講習会は河合(かわい)か駿台(すんだい)か東進(とうしん)かどれにする?」
(生徒)「河合の講師が評判いいけど」
(生徒)「いや、噂では東進が河合の講師を引き抜いたと聞いたぞ」
(生徒)「うーん、迷うなぁ」
(生徒)「おまえは朝型か?おれは夜型だけど」
(生徒)「受験にあわせて朝型が有利と聞いたけどな」
(生徒)「あ、それとバナナ。あれが頭の冴えに効くって」
(生徒)「よし、帰りにバナナ買ってこよう!」
(場面4)
(桜 )「先生、クラスの人たちが参考書や塾の話ばかりしているけど本当のところ何をすれば合格できるのですか?」
(高木)「何って、赤本(あかほん)か青本(あおほん)つまり過去問をやって信用できる人に質問したり添削してもらう以外に方法があるの?」
(桜 )「参考書とか予備校とか朝型・夜型とか」
(高木)「なんだ、そんな下らないことで時間をつぶしているのか。その子たちは落ちるな」
(桜 )「そうなんです。私は何かを読めば、誰かの話を聞けば英作文が書けるようになるなんて思えないんです」
(高木)「そのとおりだよ。私は英検1級、通訳ガイドの国家試験、国連英検A級、ビジネス英検A級、観光英検1級に合格しているけど、個別に対策などしなかった。英語は英語だよ」
(桜 )「そうですよね」
(高木)「私が指導させてもらって京都大学に合格していった子はシンプルに赤本だけをやっていた」
(桜 )「喜ぶのは参考書を売っている出版社や予備校だけですね(笑)」
(場面5)
喫茶店で友人と話しをしている高木先生。
(友人)「上位2割くらいしか旧帝に合格できない」
(高木)「志望する子はもっと多いから募集対象は上位の3割はいるんじゃないか?」
(友人)「アホはあっちに任せて自分は上位だけを教えるってか」
(高木)「少数しか合格できないから京大なんか希少価値があるのは事実だが。大量に落ちてくれないと価値が維持できない」
(友人)「おまえ、恐ろしいこと言うな」
(高木)「現実をありのまま言っているだけだよ。怠け者は退塾率が高いから相手にしたら倒産してしまう」
(友人)「でも、お前でも指導しきれない生徒はいるのじゃないか?」
(高木)「もちろん、いるよ。京大医学部の特色化選抜に合格するようなレベルの子だと私より学力は上だろうね」
(友人)「そんな優秀な子を対象に英語のチャットを始めたって。本当に月額1000円なのか?」
(高木)「もう年金を受け取る歳だし、娘たちは独立して養育費も要らないからね」
(友人)「そういうところが30年も潰れずにきた秘訣か(笑)」
(場面5)
塾の教室で桜と高木先生が話をしている。
(桜 )「高木先生はどうして今も勉強しているのですか?」
(高木)「プロでいたいからね」
(桜 )「先生はプロじゃないのですか?」
(高木)「私はそう思っていないよ」
(桜 )「どうしてですか?プロの塾講師をやってみるのに?」
(高木)「私の中学校の同級生に歌手はいない。プロのアスリートもいない」
(桜 )「え?どういうことですか?」
(高木)「高校の同級生には公認会計士や弁護士、教授になった子もいる」
(高木)「どの分野でも上位の1%以内に入らないとプロにはなれない」
(桜 )「食ってはいけますよね?」
(高木)「子供用の英会話講師の募集要項には英検2級程度と書いてある。食っていけます」
(高木)「文科省の統計によると高校の英語教師の半数が英検準1級以上だそうです」
(桜 )「京大、阪大、名大(めいだい)レベルの生徒指導はそれでは無理ですね」
(高木)「だろ?だから、勉強しているんだよ」
言われていること以外に自分で何をするかです。それを苦痛と感じるかどうかが、一流になるかならないかの分かれ道。
=井村雅代=
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