論理思考の実践のためのレッスン。
中編は、正しい論理の使い方と、起こしやすい間違いについてです。
「こうだからこう」という結論と筋道を作ること。「論理展開」とは「言葉を使って理屈を作って結論に展開すること」です。言い換えれば、「ある結論を導くために、その結論が言える理由を、事実や前提を使って組み立てていくこと」です。
社外の顧客への提案の場面、社内の会議やプレゼンテーション、他部門への協力依頼、上司や部下への説明や説得など、口頭や文章などスタイルにかかわらず、コミュニケーションが発生するところでは、相手が納得するような「正しい論理展開」を心がける必要があります。
・いろいろな「結論と理由のつなげ方」を活用して相手を説得しやすくなります。
・人の話を聞いたり文章を読んだりするときに、相手の主張や意見の構造を理解しやすくなり、賛成や反論をスピーディに実践できます。
・ある主張や意見に対し、その根拠となった事実や前提が何かということを相手が言わなくても推し量ったり、その矛盾や間違いを指摘したりすることができます
前提(ルール、一般論、あるいは信じる価値観)に、観察事項(具体的事実)を当てはめて(関連づけたり、照らし合わせたりして)、必然的に帰結される結論を出す思考パターンです。
「BならばCである」(前提)→「AはBである」(観察事項)→ゆえに「AはCである」(結論)というように、2つの情報を関連づけて結論を出します。三段論法、連鎖的論理展開ともいいます。
演繹的論理展開のポイントは「観察事項」を関連付ける「前提」です。
4つの類型に大きく分けられるが、1の真理以外は、人や集団によって変わるので「当たり前」や「暗黙の了解」には留意する。
1.真理
自然科学の法則や数学の公理など、「絶対に正しい」としてよいもの
例:万有引力の法則
2.人が作った取り決め
法律や規則・ルール、判例など、集団がそれを認める範囲で「正しい」もの
例:「投資効果が高いプロジェクトが採用される」
3.定石(経験則や仮説などさまざまな一般論)
(1)
社会科学の法則・定石や経済原則
例:経験曲線(累積生産量がふえると単位当たりのコストが下がる)
(2)
経験則・慣習・一般常識・教訓
例:「新技術開発の事実が喧伝されると株価が上がる」、「急いては事をし損じる」
(3)
実験や観察結果から言える仮説など(「前提」としての「正しさ」の程度や適応範囲はさまざま)
基本的には、仮説→経験則→法則の順で、より「正しい」レベルに上がる
4.価値観、信条
個人や集団が「主観として」もつ暗黙的・明示的な価値観、主義、持論、好みなど
例:「競争こそ組織活性化の潤滑油だ」、「人は放っておかれても育つものだ」
複数の観察事項(具体的事実)の共通点に着目し、ルール・一般論・法則を導き出す、または、無理なく言えそうな結論(解釈)を導き出す思考パターンです。
演繹法と違い、結論が自動的に導き出されるというものではありませんし、結論も1つではなく、当事者の知識や想像力、解釈によって、さまざまな結論が出てくる可能性があります。観察事項を包含し、かつ、例外(反証例)ができるだけ少ない妥当な結論を導き出すことが必要です。
帰納的論理展開
帰納法の類型は下の表のようになります。「ソクラテス」の例のように、同種のものをくくり「これらの事象の共通項は何か」という抽象化 する「単純な帰納」から、「ブランドの価値と価格の関係」の例のように、異質なもの同士の関係性の普遍的法則を見出す「複雑な帰納」、さらに、複数の異質な情報群を総合してとらえ、「要するに何が言えそうか」というような、エッセンスを引き出すものまであります。
帰納法の類型と例
同質のものを帰納して、共通点を導き出す。
同種のものを集め、一般的な法則に落とし込む。
・
述語が同じものを集め、主語の共通項をくくり出す。
例:
「ソクラテスは死んだ」「始皇帝は死んだ」「ダーウィンは死んだ」
→「人は必ず死ぬものである」
・
主語、あるいはテーマが同じものを集め、目的語や述語を一般化する。
例:
「Aさんはキムチが好きだ」「Aさんはインドカレーが好きだ」「Aさんは麻婆豆腐が好きだ」
→「Aさんは辛いものが好きだ」
例:
「B社には豊富な金融資産がある」「B社の株価は割安になっている」「B社の経営者には後継者がいない」
→「B社は買収・合併のターゲットになりそうだ」
異質のものを組み合わせ、それらの関係について法則(ルール)を導き出す。
違う(複数の)種類のものを集め、その間の関係を見つけて一般法則にする(普遍化する)。
例:
「温度」と「圧力」と「体積」の関係の法則(ボイル=シャルルの法則)
(気体の体積は、圧力に反比例し、絶対温度に比例する。)
例:
「ブランド価値」と「価格」の関係の経験則
(ブランド価値が高いものほど価格の値崩れは小さい。)
複数の情報・メッセージ群から言えることを総合し、高次のメッセージを引き出す、解釈する。
複数の情報・メッセージを並べ、組み合わせて、あるいは比較考量して、そこから言えることを総合的・要約的にメッセージ化する。
例:
「(市場)A地域のネイルケアの市場(需要)は今後の成長率が高い」
「(競合)A地域では有力なネイルケアサービスの競合はいない」
「(自社)自社はネイルケアビジネスのノウハウと設備がある」
→「A地域における自社のネイルケアビジネスの経営は成りたつだろう」
例:
「Cさんは英語力はあるが、実務能力はDさんよりも劣りそうだ」
「Dさんは実務経験が長く即戦力になりそうだが、英語力は未知数だ」
→「実務能力を期待してDさんを採用しよう」
帰納法は演繹法と違い、必然的に結論が導き出されるわけではありません。当事者の知識や想像力、解釈によって、さまざまな結論があり得ます。大切なことは、導き出した結論が、使われた事象のみではなく、「より一般的に通用するか、つまり、反証例ができるだけないものになっているか」を吟味することです。容易に反証例が出てくるような結論ではまだまだ思考が不十分ということになります。
とはいえ、例外を 100 %排除することは不可能であり、スピードや実践を意識した「熟慮のうえでの割り切り」が必要なのです。めやすは、結論とその理由を説明したときに「たいていの人が納得できる(正しいと思う)レベル‼
落とし穴を知っておくメリット
「落とし穴」のパターンを知っていると、私たちが論理的に物事を考えたり、コミュニケーションをしたりする際、とても強力なものになります。たとえば、相手との交渉が不調だったとき、結果を悔やむだけでなく、「相手が理解してくれなかったのは、もしかしたら自分が論理展開の○○の落とし穴にはまっていて説得力がなかったからではないか」という「プロセス」の振り返りがしやすくなります。これは次の成功確率を上げることにつながります。また、会議で主張が合わないとき、「我々の主張(結論)がくい違っているのは、お互いに論理展開の○○の落とし穴に陥ってしまっているからではないか」との認識合わせがしやすくなります。つまり、表面的な「結論(主張)」の違いやそのよしあしにこだわるのではなく、論理展開の「メカニズム」に目を向けることで、客観的かつ冷静な議論や判断がしやすくなるはずです。
演繹法と帰納法に共通する落とし穴。使っている情報が正しくなかったり、適切な使われ方でなかったりすれば、どれだけ論理展開が正しくても、結論も間違ったもの、あるいは、説得力のないものになります。したがって、正しい論理展開の条件としては、できるだけ事実、あるいは、信憑性の高い情報を根拠にすることです。
1「見えない前提への無関心」
表面的な主張を繰り返すだけで、自分の主張の根拠となる前提を明らかにすることも、相手の主張の前提を問うこともしていないと話は食い違ったままに。お互いの主張の前提に関心をもつことは極めて重要。
前提を明らかにすれば、お互いに相手の主張の構造が理解でき、次はそれぞれの前提の真偽や位置づけについての建設的な議論をはじめることができます。思考はより深まり、納得感もずっと高くなる。
ルールや価値観を共有しているような集団や相手であれば、「あうんの呼吸」「暗黙の了解」で前提を説明しないほうが、スピーディで効率的なコミュニケーションになる場合も。ただ、その場合も「本当にこのルールは今も通用するのか」「本当に自分の論理の前提は、周囲の人に理解してもらえているのか」と、問い直すことはとても重要。前提をふくむ自分の真意が相手に伝わらないと、誤解を招いたり、期待と異なる結果につながったりすることも。
2「前提の当てはめ違い」
前提が本来結びつかない、または、結び付けてはいけない前提を観察事項に強引に結びつけてしまうことによって、間違った結論を誘導してしまう。
この例の展開には無理があります。前提で使われている「平等」という言葉は、「基本的人権の平等(個人の価値の平等)」を表しているのに対し、結論では「平等」の示す意味がすり替わっています。基本的人権の平等は、なにも「会社の中で同じ待遇を受けるべき」とまで言っているわけではないでしょう。
ある集合にしか当てはまらないルールを別の対象(集合)に安易に適用したり、極めて広い概念的な一般論を、個別・特殊なケースに強引に当てはめたりして主張するのはよくありません。途中で言葉の定義が微妙にすり替わることもあるので、聞き手は「どこかおかしい」と感じても、流れとしては筋が通っているため納得してしまうこともある。間違ってしまうというより、故意に行われることもあるので注意が必要です。相手の主張に違和感をもつときは、そこで使われている言葉の、より具体的な意味を意識しながら、論旨(議論の筋道)を注意深く解釈する。
3「論理展開の省略・飛躍」
演繹法は、「前提(ルール・一般論)」→「観察事項」→「結論」という展開です。
私たちはふだんコミュニケーションするとき、このセットをすべて伝えたり、記述したりすることはしません。なぜなら、すべてを伝えると冗長になったり、かえって話が複雑になったりすることがよくあるからです。つまり、演繹法は省略が必然的な論理展開であるといえます。
しかし、(1)論理展開を省略しすぎたり、(2)間違った論理展開をする(起こる確率が低い前提を使ったり、無理な結論を導いたりする)ことによって、相手が論理を追えず結論が理解できなくなることは避けなければなりません。
【例】
最近、我が社の業績が低迷している。
業績低迷を打ち破るカギは顧客満足度を高めることだ。
顧客満足度を高めるには、社員の満足度を高めることをすべきだ。
では、我が社は『現場マニュアル』を廃止しよう。
例の省略と飛躍を紐解くと・・・
確かに話の筋は見えてきます。
ただし、ここで使っているそれぞれの前提(一般論)である以下の事柄はすべて、本当に一般的に通用しそうな、「蓋然性 」の高いルールなのか、このファストフード店に当てはめてもよいルールなのかは少し疑問が残ります。
たとえば、「社員満足度の高い会社は顧客満足度も高い」というのは、「相関関係」だけでなく、本当に因果関係があるのか、つまり、社員満足度を高めれば顧客満足度も上がるのかを検証する必要があるかもしれません。また、「我が社の現場社員は自発的な裁量がしにくい『現場マニュアル』に従って働いている」も、本当にマニュアルを使っていることで現場の自発的な裁量が難しいのかなど、やや疑問の余地はあります。この点も実際に現場に聞いて確認する必要があるでしょう。
相手の論理が飛躍していると感じたら・・・
「なぜそう言えるのか」「その前提は何か」「この途中結論から何が言えそうか」をひとつひとつ問いながら、抜けている部分をていねいにひも解き、「論理展開の見える化」をしていく。と同時に自分の論理展開も常にチェックする姿勢が必要です。
先入観からおこる落とし穴
たまたま見聞きしたことや身の回りで起きた出来事から一般化して出した結論は、物事をスピーディに決めたり、複雑なものを単純に示したりするメリットがありますが、注意したいこともあります。それは、無意識のうちにしてしまう、ある決まったものの見方や考え方である、先入観です。
先入観のある見方、考え方を一度してしまうと、その見方を否定するような情報を無視してしまい、その考えを強めるような情報のみに目を向けてしまいます。
その結果、観察事項の数と質が偏ることで落とし穴がおこります。そこにはまらないためには、できるかぎり客観的、批判的に自分の考え方を見て、先入観や偏見を排除する姿勢が大切です。
1「少ない観察事項からの軽はずみな一般化」
観察事項の数に起因。あまりに少ない観察事項(事象)から全体を推し量ってしまう
例
米国や日本ではすでに経済が成熟しており、自由な投資環境が整備されているといった共通項は見られますが、中国では必ずしもまだそのような環境とはいえないので、日米と中国には隔たりがあります。2つの事例しか出していないにもかかわらず、中国も経済大国になりつつあるというステレオタイプ的な見方で安易に一般化しています。十分な根拠に基づいて結論を出しているのか、常にチェックすることが必要です。
論理展開の厳密性
妥当な「結論」を言う根拠となる「観察事項」はいくつ必要なのでしょうか。これについては、いくつと定めることはできません。2つでよい場合もあれば、100 個調べても疑いの余地が残る場合もあります。私たちはビジネスで「論理」を使う以上、自然科学の法則を追究するような厳密さ、精緻さを求めるのではなく「理由や根拠を説明したときに、たいていの人が納得できる正しさ」を求め、「人が納得できる十分なサンプル数か」「事実に基づく情報か」を客観的に検証することが大切なのです。私たちは「論理」を構築することが目的なのではなく、「論理」を使って周囲の人を納得させ、仕事を進めること、問題を解決することが目的なのです。
2「偏った観察事項からの軽はずみな一般化」
観察事項の質に起因。都合のよい観察事項や、ある特定領域に偏って選び出した観察事項がそのテーマの全体集合を代表するようなものになっていないために、その観察事項から抽出した結論が一般論として適切なものにならない。
例
この結論には疑問の余地があります。「液体を扱うメーカー」としては、たとえば、ワイン製造業者は?、日本酒製造業者は?、牛乳の製造業者は?、と見ていくと大企業ばかりとは言えず中小業者も多く存在しそうです。
このように、全体集合を反映しない偏った観察事項を拾ってしまうと、誤った一般化になってしまいます。この場合は、「大規模な広告投資や設備投資が必要な消費財 メーカーは大企業が多い」や「差別化が難しくブランド認知が重要な消費財メーカーは大企業が多い」というような結論がより適切でしょう。
インターネットを使った調査やマスコミが行う調査など、たとえサンプル数は十分であったとしても、対象サンプルが偏っていたり、調べたいテーマとずれていたりすることがよくあるので、注意が必要です。
「論理展開」とは
ある結論を導くために、その結論が言える理由を、事実や前提を使って組み立てていくこと。言い換えると「今もっている情報、見えている事象から、何が言えるのかメッセージを抽出すること」
ここで大切なことは、「メッセージを抽出するタイミングと頻度」です。ビジネスを取り巻く環境は日々変化しています。昨年は有効だった施策が今年も有効とは限りません。下の図の「完璧思考」のように、情報を時間をかけて十分収集し、完成度の高い(と思われる)思考をしてから実行するというスピード感では、実行するころにはすでに状況が変わってしまい、考えた施策が有効でなくなってしまうことが多いのです。そこで、キーになるのが「仮説思考」です。
「仮説」とは
限られた時間、限られた情報の中で、想像力と理論力を最大限駆使した、その時点でもっとも確からしいと考えることができる、判断(意思決定)や行動に結びつく「仮の結論」のこと。
「仮説思考」とは
1.今手もとにある限られた情報、わかっている情報から「たぶん、こういうことが言えるのではないか」「おそらく、ここが問題ではないか」「きっと、こういう方法が効くのではないか」と、その時その時で判断やアクションに結び付く「仮の結論」をもつ。
2.「仮の結論」の立証に必要な情報をねらいうちで収集する。
3.仮説・検証・実行のサイクルを繰り返しながら仮説を磨き上げていく。
キーワードは「ロケットスタート」です。手もとの情報から、思い切った問題仮説・原因仮説・行動仮説を作る。そして、すばやく検証し、集めた新たな情報から最初の仮説に無理があったら、どんどんその仮説を変えていく。そしてまた検証・試行していきます。常に仮説をもって、それを磨く仮説思考によって、判断や意思決定のスピードが上がり、むだな情報収集作業が減ることでしょう。
「仮説」を出すための思考の方法は、なにも新しいことではなく、論理展開の方法にほかなりません。仮説を立てるということは、複数の観察事項や前提(既知のルール・一般論)を結びつけたり、解釈したりして、意味のあるメッセージを出すことです。演繹法や帰納法を念頭に、「 So What? (だから何だ? だからどうなる?)」という問いを投げかけ、「言えそうなこと」を導き出すことといってもよいでしょう。もちろん、「仮説」は単なる「思い付き」とは違います。思い付きではない、根拠に基づいたものでなければ「仮説」とはいえないのです。
仮説は何通りもある
同じ情報(群)を解釈する場合でも、そこから立てられる仮説は1つではありません。たとえば、次の情報からどのような仮説が立てられるでしょうか。
「西の空からの雲の動きがはやい」
「さっきツバメが低く飛んでいった」
「朝方うちのネコがひげを整えていた」
たとえば、人によって次のように考えるでしょう。
・ ビジネスパーソン
仮説:営業先で雨にあうかもしれない
判断・行動:傘をもっていこう
・ 漁業関係者
仮説:海がしけるかもしれない
判断・行動:船を出すのはやめよう
・ 日焼けを気にする人
仮説:日差しも強くなさそうだ
判断・行動:日傘は家に置いていこう
「空・雨・傘」
これは、マッキンゼー・アンド・カンパニー社で生まれた「空・雨・傘」と呼ばれるフレームワークの1つです。具体的には次のような考え方です。
空が曇ってきた → 状況認識=事実
営業先で雨にあうかもしれない → その状況が引き起こす事柄=仮説
傘をもっていこう → それに対して取るべき方策=判断・行動
「 So What? (だから何?)」で深める。
ただの実況解説ではない、意思決定やアクションに結び付くメッセージ。
「考える人の立場」や、「考える目的」によって、状況認識は同じでも、仮説や行動への示唆は何通りもあるということです。大切なことは、「考える目的」に沿い、意思決定や行動を示唆する仮説づくりを意識することです。単に、「雨が降るだろう」という一般的で実況解説的なメッセージは、アクションを前提とするビジネスにとってほとんど価値がありません。意思決定や行動に結び付く「意味のある仮説」づくりを心がけましょう