編集/ 河西紀明 (@norinity1103)
DMMブロックチェーン研究室の開発メンバーで『試して学ぶスマートコントラクト開発』という技術書を執筆し、今年1月に無事に発行できました。
書籍の執筆にあたり、ご協力いただいた皆さまには感謝の意がたえません。レビューやテストを快く引き受けていただいた皆さま。本をご購入し、感想やフィードバックをお寄せいただいた皆さま。本当にありがとうございました。
本書は「スマートコントラクトを開発する」「DApps(分散型アプリケーション)を開発する」ということに対して、では実際にどのようなプロセスを踏み、環境構築や作業をすればいいのかを実際に弊社で開発していた『QUEST』というDAppsの事例を取り上げて記しました。
2019年3月14日現在も、実用的なDAppsが世の中に現れたり、実際にユーザーの手にとって触れる機会がまだまだ少ないのが現状です。
「技術」や「思想」単体では社会的な大きな課題を解決したり、既存価値に対してインパクトのある変革を起こすのはとても困難なことです。
その文脈もあって本書では「UXデザイン」についての基礎知識やデザインワークの協業、軽量で導入が開始できるユーザーテストの手法などにも触れている、珍しい構成になりました。
この本では、スマートコントラクトなプロダクトをつくったことのないエンジニアやデザイナーが、まずブロックチェーン技術における狭義のスマートコントラクトとはなんなのか? そしてその技術の特性を活用してどの様なプロダクトをつくってターゲットユーザーに「どの様な価値」を届けられるか? ということを、誰もが思案し、研究を始められるきっかけになればよいな、と思いながら書きました。
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包括する内容はプロダクトデザインから開発〜リリースと、若干詰め込み過ぎな気がしなくもないですが、我々にとってはこの書籍そのものも「プロダクト」といっても過言ではありません。執筆している最中でも環境やツールなどが絶え間なく進化していきましたので、それに対応しながら内容に反映していくことはけっこう大変でした(笑)
2018年も色々な事件でが世の中を賑わいましたね。暗号通貨や、ブロックチェーン業界もかなり市場が冷え込んでしまっているように見えますが、それでも我々開発チームはブロックチェーン技術自体の可能性や、未来、技術によって劇的に変化するというヴィジョンはあまり陰ったようには思えないのです。
本書でスマートコントラクト開発のプロセスを0~1まで記すことで、今後のブロックチェーン技術を活用したものづくりに参入できるエンジニアやデザイナーを一人でも多く増やしたいという思いがあります。
絵に描いた餅でなく、モノで語っていきたい
執筆やDApps『QUEST』の制作を通して我々も本当に多くの視座を得ることができました。本当にやってみないとわからないことだからこそ、まずはつくってみることの大切が身にしみた次第です。
ぜひ皆さんにも体感していただきたく思います。
■DApps『QUEST』の紹介とチュートリアル
https://speakerdeck.com/norinity1103/quest-tutorial
題材で取り上げた『QUEST』は、ブロックチェーン技術やスマートコントラクトを単なる手段としてでなくテクニカルで高度な知識を持たないユーザーでもサービスとしてなにか体験価値が得られるような設計を心がけました。
ブロックチェーン技術の一部の特徴を活用する、例えば「即時的な決済」「マイクロペイメント」「技術的な信用の蓄積」「貢献的な行動履歴の蓄積によるモチベーションコントロール」などです。
プロダクトの体験ストーリー
『QUEST』は学習的なコミュニティーの成長のために、主催者のみならず参加者(ゲスト)"全員"が学習的に能動的な行動を起こすことでインセンティブが得られる仕組みを作る(デザインする)ことで、コミュニティーを形骸化させずに継続的に成長させつつ学習価値の循環させようという教育のボトムアップなような思想としてスタートしています。
コミュニティーの設計モデルは、狭義の経済デザインの縮図で、色々なパターンがあれど簡易なインセンティブの設計や評価システムが人間のエモーショナルな部分だけでは不調和が起こっているという仮説のもと"ごく一部"にブロックチェーンらしさを組み込み検証してみようというわけです。
プロダクトは実際に、blockchaintokyo、Hi-Ether、Cryptobowlなど多くの学習コミュニティーに協力いただき、実験に協力していただきました。
実際に作って、実際の現場でユーザーに触れてもらう、改善する、課題を見つけ仮説をたてて、実行に移す。サービスとして当たり前のことをやっていくだけでもかなり大変ですね。
当たり前のことをやっていくのが、先進技術を題材とするだけそれだけ困難なことなのです。
我々は、ブロックチェーン技術、例えばEthereumだけとってしてもまだまだ発展途上の技術でありながらも、まずは実査の重要さと実装ナレッジの蓄積の重要さを説き、1年近くDAppsの開発に携わってきました。しかしながら、当然のごとく、ブロックチェーンアプリケーションを取り巻く事情、UXの悪さ、調査し作れる人財不足など課題は山積みです。
研究室が研究たる部分に注力スべく悩ましい時期ですが、これは業界全体に言えることかもしれません。
これから我々はアプリケーションレイヤーの部分は引き続き、開発対象として残しつつもプロトコルレイヤーの部分にも頂点をあてて取り組んでまいります。
上の図は、Joel Monegro氏が唱えたThe WebとBlockchainを比較した、アプリケーションレイヤーとプロトコルレイヤーのバリューの違いを表現したものです。
Webと比較して明らかにプロトコルレイヤーの割合が多く重要視される傾向はありつつも「まだまだの技術」を発展させたとて、実際に利用するユーザーが価値を感じたり、触れることができるのはアプリケーションレイヤーなくして語ることはできません。市場に対してインパクトをあたえるアプリケーションを生み出すことは現状難しいかもしれませんが、実際に技術を醸成させた先に実際に利用し・検証ができるプロダクトは無くてはならないでしょう。
つまり、どんどん「試してスマートコントラクトの開発を学び」ナレッジを共有できるエンジニアやデザイナーを生み出すことで、期待できる未来を作れる人財を育てたいということですね。
長くなりましたが、そんな開発チームの想いのこもった『試して学ぶスマートコントラクト開発』、ぜひ読んで試してフィードバックください。
よろしくおねがいします。
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