その日は深夜に大雨だと言われていたので、夕方、といっても8時頃だが、近所をウロウロしていた。8時だと少ないとはいえ、まだ人がちらほら歩いている。
ところでドラクエウォークにはメガモンスター討伐というイベントがある。複数人のプレイヤーで協力してデカいモンスターを倒すのである。
たまたま歩いていたところ、公園にトロルがいるのを発見した。
誰もいねえ、しかし推奨レベル15だ、レベル29の僕なら一人でやれるかもしれない。
一人でトロルをボコすの図。
まあ余裕で倒したのだが、さて帰ろうか、と座っていたベンチから腰を上げようとしている時に、公園の入り口に不審な男性が現れる、手に持ったスマホを眺め立ち止まっている、この怪し気な行動、仲間である可能性が高い。
さっさと立ち去ろうと、男性とすれ違い公園を出た時に、背後で男性に声を掛ける女性の声がする、「いたの?」すると男性が応える「いや、おらん、あの人が倒したんだよ。」あの人とは僕のことだ、どうやら夫婦でトロルを倒しに来たようである。
夫婦で討伐なんて甘いことをしているから孤高に挑む僕の後塵を拝することになるのだ、戦いとはいつだって孤独なものだ、それに耐えられない君達は、そうやって並んでいつまでも僕の背中を眺めていると良い、失礼、僕は先に行かせてもらおう。
と男として背中で語ってみたのだが、僕の背中はちゃんと読み取ってもらえただろうか、僕の背中を持っていたスマホのARカメラで撮影してもらえれば今の台詞が浮かび上がっていたはずだ。なんて男らしい、流石勇者だ、僕たちとは物が違う。
彼らから見てトロルを倒したのはスマホの中の勇者達ではない、リアルの僕なのである、つまりこれがリアルの僕が勇者になった瞬間だと言っても過言では無いだろう。
しかしせっかく勇者仲間に出会ったのだから挨拶でもすれば良かったのだろうか、だが何と挨拶する「あ、どうもこんにちわ、貴方もですか?」「あ、そちらも、奇遇ですね。」こんな会話全く勇者らしくない、こんなものは休日家から追い出されて仕方なくパチンコ屋に来たら隣の旦那に会ってしまった時の会話だ。
こんな会話をしてしまっては勇者感が台無しである、やはり勇者たるもの黙って立ち去り背中で語るくらいでなければならない。今後、もし誰か見つけるようなことがあっても、即座に踵を返し背中を見せていこうと思う、決して話しかけられるのが嫌だから逃げているのではのない、孤独と向き合い背中で語る、それが真の勇者の姿だ。
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