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ゆっくり茶番劇の提供者が今後とりうる措置について

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  • 連獅子
  • 2022/05/16 00:40

いやー、昨日、急にTwitterのトレンドに「無効審判」が入ってきたので、なんじゃこりゃと思って調べてみると、どうやら商標絡みでまた一騒動しているようですね。

まあ、ごく簡単にいえば、動画コンテンツのタイトルを第三者が商標登録して、そのライセンスを求めるという、よくあるやつ。動画コンテンツ自体が若者に人気の、一頭身キャラの電子音声のアレということもあって、いろいろと炎上しているようですし、昨夜は特許庁のサーバーがダウンするほどでした。迷惑なんですけど、、

 

まず、商標権の詳細を確認する

親切にも、商標権者がみずから登録証をアップしてくれているので手間がはぶけます。

Content image

商標は「ゆっくり茶番劇」という文字商標ですね。ですから、例の一頭身キャラ自体とは無関係ですね。また、指定商品役務は第41類だけですね。登録日は令和4年2月24日で、出願日は令和3年9月13日です。

 

専用権と禁止権を区別する

商標権者は、この権利をつかって、同一または類似の商標を使っている者に対して専用権と禁止権に基づいて差止請求をしたり、同一の商標を使っている者に対して専用権に基づいてライセンスを求めることができます。今回の場合はターゲットにしているのが同一の「ゆっくり茶番劇」なので専用権の範囲の話となりそうです。

なお、禁止権というのは「類似の範囲」ということになりますが、究極的にはどこまでが類似なのか、というのは裁判をしなければ決まりません。ただ、今回の商標権「ゆっくり茶番劇」においては、「ゆっくり」というのは単に速度だったり「ゆったり」といった態様を意味しているにすぎないと考えれば、同様の機械音声を使った動画コンテンツである「ゆっくり不動産」などは非類似といえるでしょう。類似の範囲としては「ゆったり茶番劇」とかが考えられそうです。

さてそうすると、第41類の「ゆっくり茶番劇」なる登録商標の専用権の範囲が、動画コンテンツである「ゆっくり茶番劇」を含むものかどうか、検討が必要です。

ここで考えなければいけないのは、第41類の例えば「電子出版物の提供(ダウンロードできないものに限る)」というのは該当しそうだな、と思う人もいるでしょう。でも、ゆっくり茶番劇という動画コンテンツは「電子出版物の提供」というサービスの名前でしょうか。サービスの名前はYoutubeだったりニコニコ動画だったりするのではないでしょうか。単なるコンテンツの名前は、サービスの名称ではない、と反論できそうですよね。そうなると、商標権に基づいてライセンスフィーを請求すること自体が「お門違い」ということにもなるでしょう。

ただ、これは裁判で争う話となります(権利濫用の抗弁)。

 

異議申立てはもうできない

上述のとおり、登録日は2月24日です。登録から2ヶ月の間は誰でも異議申立てができる期間ですが、この期間は過ぎてしまいました。

おそらく、商標権者側はこれをよくわかっていて、異議申立て期間が過ぎるのをじっと待って、2ヶ月が経過した5月になってから攻撃開始、というところなのでしょう。

よくあることです。

 

無効審判と先使用権の主張の合わせ打ち

動画コンテンツ提供者側が、裁判で権利濫用を指摘するか、「ゆっくり茶番劇」の使用をやめるか、というところまで説明しましたが、それ以外の道としては、自ら相手の商標権をつぶすか、自分には継続使用できる権利があると裁判で主張することができます。

では、どのような反撃(無効理由等)が考えられるでしょうか。

 

商標法4条1項10号が適用できるかもしれない

商標法4条1項10号には、「他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であつて、その商品若しくは役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの」については商標登録を受けることができない、とあります。

いわゆる「未登録周知商標」を保護する規定ですが、ゆっくり茶番劇という商標が商標登録出願時点(令和3年9月13日時点)で需要者の間に広く認識されていると証明できれば、無効理由として使えそうです。無効審判は利害関係者のみが提起できますので、ゆっくり茶番劇の提供者が自ら無効審判を提起する必要があります。

なお、周知性の判断については証拠を提出する必要がありますが、その証拠は以下のようなものがあればよい、と審査基準にあります。ネットコンテンツなので、アンケートなどが手っ取り早いかもしれません。令和3年9月13日より前に「ゆっくり茶番劇」が雑誌などに掲載されていたら、有力な証拠として使えそうです。

(3) 証拠方法について
本項に該当するか否かの事実は、例えば、次のような証拠により立証する。
① 商標の実際の使用状況を写した写真又は動画等
② 取引書類(注文伝票(発注書)、出荷伝票、納入伝票(納品書及び受領書)、請求書、領収書又は商業帳簿等)
③ 出願人による広告物(新聞、雑誌、カタログ、ちらし、テレビCM等)及びその実績が分かる証拠物
④ 出願商標に関する出願人以外の者による紹介記事(一般紙、業界紙、雑誌又はインターネットの記事等)
⑤ 需要者を対象とした出願商標の認識度調査(アンケート)の結果報告書(ただし、実施者、実施方法、対象者等作成における公平性及び中立性について十分に考慮

(以下略)

同時に、令和3年9月13日時点で需要者の間に広く認識されているのであれば、商標法32条のいわゆる先使用権が主張できます。

32条の逐条解説にはこの条文について次のような説明があります。

本条は、いわゆる先使用権についての規定である。すなわち、他人の商標登録出願前から不正競争の目的ではなくその出願に係る指定商品若しくは指定役務又はこれに類似する商品若しくは役務についてその商標又はこれに類似する商標を使用していて、その商標が周知商標になっている場合は、その後継続して使用する限りはその企業努力によって蓄積された信用を既得権として保護しようとするもの

32条の適用にあたっては、以下の5つの要件を全て満たすことが必要となるのですが、「ゆっくり茶番劇」はこの要件を満たしていると自ら主張し裁判で証明することで、商標権者からの攻撃をかわすことが可能となります。

① 他人の商標登録出願前から使用していること

② 不正競争の目的でなく日本国内において使用していること

③ 他人の出願に係る商標及び指定商品・役務と同一類似の範囲内であること

④ 他人の出願の際現に、その使用している商標が自己の業務に係る商品・役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されていること

⑤ 継続してその商品・役務について、その使用をする場合であること

いずれにせよ、結構な費用がかかってしまう

無効審判をおこすにしろ、裁判で戦うにしろ、弁理士や弁護士を雇うことになるでしょうから、結構な費用がかかりそうです。

 

なので、標章を用いて商売をしている場合には特に、自分が使っている標章について商標登録をしておくのが結局安上がりで良いのです(これが私がこのエントリで一番言いたいこと)。

 

今回は動画コンテンツなので意識が甘かった部分があるのだと思いますが、このコンテンツで収益を得ていたのなら特に、自らの使用している標章(屋号と言っても良い)については、予め保護しておくべきだったのではないかと、知財屋としては思いますし、やはり若いうちからの知財教育によって、自分の財産をいかにして守るかという意識醸成が必要だと思うことしきりです。

 

本件、どのような経緯をたどるか、ゆっくり見ていきたいと思います。

 

では、今日はこのへんで。

 

(2022.5.16追記)

本件商標登録出願の代理人弁理士がコメントを出しています。内容は至極当然のことを書いておられますので、私も法的な側面についてツッコミを入れる部分はありません。これが知財の常識です、としかいえません。

ただ、事務所に「爆破予告」があったりなどして、焦って書いたと思うのですが、クライアントに対して不利となる無効理由をコメントに書いてしまうのはいかがなものかと思いますよ、、、

 

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弁理士資格、1級知的財産管理技能士資格等を持つ知財系ゆとり。現在は某政府機関に所属。FXやポイントサイトなど、国家公務員でもできる副業を模索中。

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