トリチェリの真空はご存じですか? 1643年イタリアの物理学者 “エヴァンジェリスタ・トリチェリ”が行った世界で初めて真空を作り出した実験です。
この実験でトリチェリは水銀を使いました。もし世の中に水銀がなければトリチェリは真空を作り出せたでしょうか?
トリチェリが行った実験は次のようなものです。
1.片側を密封したガラス管に水銀を入れる
2.水銀を入れた浴の上でガラス管をひっくりかえす
以上、簡単ですね。
こうすることでガラス管の上部に真空ができます。これがトリチェリの真空です。
トリチェリはなぜ水銀を使ったのでしょうか? 一見液体なら何を使ってもよさそうに思えます。
もちろん原理的にはどんな液体でも同じ実験は可能です。
でも水銀でなければいけない理由があります。「水銀は重いから」これが答えです。
浴にかかる大気圧をガラス管の中の水銀柱の重さを超えることで上部に真空ができます。
ですから重い液体の方が便利なのです。
水銀の比重は約13.6なので、水(比重:1)より13.6倍も重いのです。ちなみに鉄の比重が約7.9、鉛の比重が約11.3ですから、鉄はもとより重いことで知られている鉛よりも水銀の方が重いのです。
水銀柱の高さが約760mmになれば、大気圧に打ち勝って上部に真空ができます。1m(1000mm)くらいの長さのガラス管があればトリチェリの真空ができるということです。
もし水を使うとどうなるでしょう。水の比重は水銀の13.6分の1です。同じ重さにするためには水銀の13.6倍の高さが必要です。
760mmの13.6倍は10,000mm(10m)以上になります。もし水銀ではなく水を使って同じ実験をすると、ガラス管が10m以上なければ真空はできません。
10m以上のガラス管に水を入れてひっくり返す……とんでもなく大変です。そんな実験をしようとは思わないでしょう。
10m以上のガラス管なら真空ができることが分かっていれば、大変な苦労をしてでも実験したかもしれません。しかし当時はそんなことわかりません。何らかの成果が得られるとも思えない状態でそんな実験をすることはなかったでしょう。
ちなみに水銀ほどでなくともできるだけ比重の高い液体を使えばガラス管は短くなります。しかし水は液体の中でも比重は大きい方です。水より比重が大きい液体はありますが、水銀との比重差と比べると誤差程度の違いしかありません。
もし水銀がなければ真空の発見は大きく遅れたことは間違いありません。
大気圧を測定する方法としてトリチェリの実験と同じ原理が近年まで使われていたことを考えると、真空の発見は何百年単位で遅れていたかもしれません。