モンスター缶コーヒーブランド「BOSS」について振り返る全三回も最終回。
と思っていましたが、矢沢さんシリーズ以降を改めて振り返ってみたところ、思いのほか出てくる出てくる(CM本数が半端ない)。
そこで広告会社勤めというアドバンテージを活かしてリソースを使わせて頂き、過去のクリエイティブを時系列に観直してみました。そうするとどうでしょう。まるで自分の子ども時代から大人になるまでを振り返っているかのような錯覚に陥り、大げさにいえば「BOSS」と共に人生を歩んだ人生とも思い始めました。
これだけ歴史の長いブランドです。
せっかくの機会なので、2回に分けてBOSSのCMを振り返っていきたいと思います。
【今後の公開予定】
・1/8公開 第1夜(1998年~2006年)
・1/9公開予定 第2夜(2006年~現在)
様々なフレーバーがぞくそく発売されるので、その度に新表現を考えていたら死んでしまうんではないかと思うくらい、とんでもないCM本数を作っていらっしゃるブランドです。掲載しているのは一部なので、興味がある方は探してみて下さい。
商品:ボスセブン(1998年発売)
「俺だったら~しちゃうよ」シリーズ
味の特徴としては、7種の豆をブレンドしており基幹商品として投入された。(2004年に終売、レインボーマウンテンに取って代わられる)。観て頂くと分かるがコアとなるメッセージは「俺だったら〇〇しちゃうよ~」
「この人イキってんなー」というよくいる大人を揶揄する内容で、そんなにイキってどうすんですか。落ち着いて缶コーヒー飲みましょうよ。という優しさを感じる。
「プラスワン(2002年に終売)」では矢沢永吉さんを起用したCMを使っており、矢沢さんの方はそれまでと世界観を引き継いだシリアスな展開を継続して描いている。2路線が混在している時期だったのだろうか。
ちなみに、本編には流れないので一般の方の目には触れないのだが、CMにはそれぞれタイトルがついている(管理用につけている便宜的なものだ)。YouTubeでCMを観たりする場合にはタイトルが記載されていることもあるので、是非一度注意してみてみて欲しい。
ボス・セブンのCMタイトル(正式な素材名ではないかも)は以下のようなものだ(括弧内表記は出演者)
・大統領前に現れる男(伊藤正之)
・リング上がる一般人(佐竹雅昭、アーネストホースト)
・世界を敵にまわす男(神田うの)
・年末テレビ批判する男(小林幸子、志賀廣太郎)
・新人研修指導する男(L'arc~en~Ciel)
・相撲取りの肩叩く男(貴乃花光司、八嶋智人)
・サルに髪掴まれる男(香取慎吾)
【津田寛治シリーズ】
・流行物を批判する男(津田寛治、國村隼)
・電車待つ男たち(津田寛治、並樹史朗)
・会議中に音楽聴く男(津田寛治)
慎吾ちゃんもいますね。ちなみに、クリントン大統領風の人がいますが、そっくりさんらしいですよ。
CMは時代の鏡というが、その当時のそうそうたる出演者が揃っている。津田寛治さんとかBOSSのCMで私ははじめて知りました。「ボス電」に「ボス漫」、キャンペーン系のCMは津田寛治さんが担当していたということでしょうね。
・ボス漫当たるキャンペーン
ボスジャンのキャンペーンが大成功したことは前回述べたが、その派生型キャンペーンということで「ボス電」「ボス漫(画)」というキャンペーンが展開された。今考えても先進的なキャンペーンだったなぁと思う。
実は、同時並行的に新シリーズも展開されていました。
その名も「人間動物園」
出演者:永瀬正敏、布袋寅泰
布袋さんってターミネーターだよな絶対。
HGとはHigh Grown、高地産の豆を100%使った商品である。今でこそシリーズもののCMって定番化してありますが、既に2000年代からあったんです。永瀬正敏さんってサントリーのCMでは無双してたよな。カクテルバーの「愛だろ、愛」のコピーって誰でも知ってますよね。
ちなみにこのシリーズはEpisodeが12まであるのでじっくり観て下さい。
全部ご覧になりましたでしょうか?もはやドラマです。ところどころ、他企業やアーティストとのタイアップがありましたが、シリーズの認知度、好意度が高ければそういったコラボも可能になる好事例ですよ。作ってる側はものすごく大変だと思います。。。
ブラックコーヒーの商品というのはどのメーカーも尖った表現になりますよね。UCCとかその代表格ですが。
出演:永瀬正敏、布袋寅泰
シリーズとしてはHGの後継的な扱いです。
これは特定の商品に特化したものというよりは複数本、あるいはブランドにまたがるキャンペーンとして展開されました。
新基幹ブランドであるレインボーマウンテンが発売されました。旧基幹商品のセブンは終売になりました。
余談ですが、広告代理店にとって担当AE商品の終売というのは一大事です。来期の売上がゴソッと無くなってしまう訳ですから。。だからという訳ではありませんが、我々広告代理店の人間は一般の方よりも商品愛が強く、スーパーやコンビニにその商品が売っていなければ、その店で買うのを諦め次の店に行きます。無ければ次へと。お酒を担当しているときは、その商品を置いている飲食店を探すのに苦労しました。余談でした。
レインボーマウンテン、今でこそ缶コーヒーの定番ブランドになりましたが、発売当初は色々と試行錯誤が続いていたようです。それは、以下のCMを観て頂ければ感じて頂けるかなと。
今私がやっていることは、あとの時代になって後出し的に考察をしているので「あーこの時期迷走してたのかな・・」とか思うわけですが、当時その場にいらっしゃった方はその時のベストな(あるいはベターな)解だったわけです。
そして2006年からはいよいよ「この惑星の住人は~」で始まる「宇宙人ジョーンズ」のシリーズが始まります。それについては、次回に回したいと思います。
レインボーマウンテンが発売された2004年というと、私大学生でした。そしてリーマンショックを迎える前の時代でした。だから、ちょっとネアカな、ともするとバブリーなクリエイティブというのが印象かもしれません。
個人的には、世の中的に勢いがあるときって消費者も勢いがあるわけですが、そういう時にあまり印象に残る(つまり効く)CMというのは生まれないような気がしています。ほっといても売れるというか、ノリで買うというか。特に心で深く共感して買う、というような内省的な消費は起こりにくいように思う。しかしながら、ひとたび不況に入って鬱々と考える時間が増えていくと「俺は何を買うべきか?」「本当にこれでいいのか?」とか余計なことを考えだすから、適切なメッセージを返していかないと選ばれないだろうというのがある。
次回触れる部分に少しはいりますが、「宇宙人ジョーンズ」を作った福里真一さんは、競合コカ・コーラの基幹ブランド・ジョージアの「明日があるさ」シリーズを作った人でもあります。それが2000年~2003年にかけてです。
福里さん著の「電信柱の陰から見てるタイプの企画術」にはこう書いてあります。
バブル崩壊後、元気をなくしていた人々が、新世紀をむかえて少しづつ前向きになってきている。そんな人々の背中を押すような広告を、というオリエンテーションでした。(同書より)
結果はご存じの通り、歌を歌っていた「Re:Japan」は紅白歌合戦にも出場するほど日本中で大ヒットとなりました。いちCMキャンペーンが日本中を勇気づけたといえた瞬間です。
だからというのも乱暴かもしれませんが、人々の気持ちが暗いときこそテレビCMというのは消費者の方々の気持ちに刺さるのではないかと思います。
さらに面白いのは福里さんがこうも書いていることです。
「『世紀などという、人為的な区切りで、前向きになったり、盛り上がったりするのはおかしい』という気分とか、『二十一世紀という言葉の響きだけを考えても、自分にとってはますます生きにくい時代がやってくるに違いない。あーやだやだ。』という気分とか、そんなろくでもない気分ばかりしか発見できない・・・」(同書より)
そんな気分も抱えつつであのキャンペーンを作られたかと思うと、ホッコリしますな。
それは、働く大人の気持ちに寄り添う。ということです。
CMを色々みてきて皆さん(というか人が読んでるのかこれ?)どう思いましたでしょうか。私は子どもの頃も含むので覚えてるところ、覚えてないところがありますが、時代を追体験した気持ちになります。CMは時代を映す鏡とはよくいったものです。
CMと時代の関係については、福里真一さんがこう答えてくれています。
「缶コーヒーは働く人が休憩時間などに飲むものなので、その時々の働き方や気持ちをすくい取る必要があります。そういう意味では自然と時代を反映するCMになるのかもしれません」(※1)
「宇宙人ジョーンズ」がスタートするのは2006年、リーマンショックが起きたのは2008年です。人々の気持ちが沈んでしまうまで2年間ありますが、08年以降、暗く沈んだ日本人とともに歩んでくれたのが「宇宙人ジョーンズ」だと思っています。
各社ともに独自技術や独自製法を用いて、自社にしか出せない味というのを試行錯誤して出していますが、どれだけの人がその味を判別しているでしょうか?
以前飲料メーカーの担当をしていた時、「効き茶コンテスト」を忘年会か何かの余興としてやったことがあります。各社メーカーが出しているお茶をブラインドで試飲して当てるという単純なゲームなのですが、それが殊の外難しい。さすがに担当しているブランドは当ててましたが、お茶は比較的味の特徴が出やすくてよいかもしれません。しかし、缶コーヒーとなるとどうでしょう?さすがに、各社が「微糖」と謳っている商品だけを集めたとしても、判別できる自信はありません。
そんなだからこそ、日ごろのコミュニケーションだったりで商品とユーザーの間にどれだけ強いブランドを築くかというのが重要になってくるはずです。その点において、BOSSが日本人に寄り添って歩んできたということが消費者に浸透しているからこそ、ここまでのモンスターブランドに成長しました。
広告会社の人間として、何より有難いのは「宇宙人ジョーンズ」をこれだけ継続しているということです。毎年クリエイティブを変えて”しまう”。変えずに継続することが望ましいと分かっていても、何か変えたくなってしまって、変えて”しまう”。それが多くの企業においてあるあるだと思います。
しかしサントリーは、そこで積極的姿勢で継続するという判断を下し続ける。非常に強い意志や自信を感じます。それはCM好感度が良かったり、実売に繋がっているという事実があるのかもしれませんが、仮に同じ状況だったとしても社内都合でクリエイティブを毎年変えてしまう企業は世の中に沢山あります。
時代とともに語られるCMシリーズというのが、どう生まれたのか次回はその点を見ていきたいと思います。
【参考文献】
・「電信柱の陰から見てるタイプの企画術」福里真一著 宣伝会議
※1:引用元