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3/6 拝啓、野次馬だった皆さんへ

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  • toyo
  • 2020/03/06 07:22
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もし、あなたが過去にこれから私が書くような体験をしたことが無いのなら、それは余程気の優しい人たち(気の弱い人たち)に囲まれて過ごせていたに違いありません。それは、あなた方にとってはラッキーなことであり、また一方では不幸だったことと思います。

私は「あんた頭おかしいよ!」罵られたことがあります。実際に私は頭がオカシイのかもしれない。それは一面の真実かもしれないし、また一方ではそうではないかもしれない。それは是非皆さんに判断頂きたいことです。

この文章で言いたいことはただ一つ。
「他者への想像力を持って人には接して欲しい」
それだけです。

前置きが長くなりました。
こんな私の身に起こった話を聴いて下さい。

============
先日義理の祖父が亡くなりました。齢89歳。大往生といえばそうかもしれません。知り合ってから約5年ほどの短い付き合いではあったけれど、あれだけ優しくて、人に慕われてて、仕事もできて、多くの人に囲まれて生きていた人を知りません。そんな義理の祖父が、独り暮らしていた家で息を引き取りました。最後の瞬間を看取る人は誰もいませんでした。それも独りで亡くなった祖父が発見されるまでに1日半ほど掛かってしまった。本当にごめんなさい。

義理の母から連絡があったのは月曜の夕方。たまたま早く帰れた私は家でその連絡を受けました。「ここ2日おじいちゃんと連絡がつかない。家電にも出ないし、携帯にも出ない。こんなことは無かったのに」心配だから急いで様子を見に行こうと車を走らせました。「きっと携帯忘れたまま外出してるんだよ」そう独り言のように妻はずっと呟いていました。

家の前に車を止めて急いで玄関に向かいました。外から家を覗き込んで嫌な予感がした。リビングだけ電気が付いている。家に人がいる気配がある。郵便受けには新聞が2日分たまっている。嫌な予感ばかりでした。鍵が開かない。ガラスを割って入ろうとも思ったが、冷静になって救急車を呼んだ。

間も無く救急車と消防車が到着した。玄関が開かないことを伝えると、家の周囲を見渡して鍵をかけ忘れているところを探しはじめた。”鍵が開いてるわけがない、戸締りをしっかりする祖父だぞ”、内心そんなことを考え、”一刻も早くガラスを割って中に入れよ!”、そう口にしてしまいそうになるのを抑えて、グッと堪えていた。少し経って長いハシゴを救急隊員の方が持ってきて、二階に向けて立てかけた。2階の窓に鍵が掛かっておらず開いた。そこから隊員の方が侵入「とにかく玄関の鍵を開けてこい」若い隊員はそう指示を受けていた。

ようやく玄関の鍵が空いた。隊員が次々中に入っていく。どれくらい時間が経っただろうか、ほんの数分待っただけかもしれない。しかし、とてつもなく長い時間に感じた。「おじいちゃんは?どうなんですか?早く病院に運んでください。」そう叫んだ。まず祖父の孫である妻が救急隊員の方に呼ばれて家の中に入って行った。取り残された私は立ち尽くして、遠くにいる人だかりを見ていました。

5分ほど経って妻が出てきた。泣いている。私はまだ何がなんだか分からず、とにかく家の中に入ろうとした。そこを救急隊員の方に静止され、こう言われた。

「もう救急車に乗せて病院に搬送できる状態ではありませんでした。ここからは警察に引き継ぎます。現場を保持しなければならないので、中には立ち入らないでください」

どういうことだよ?何で警察?え?。そう救急隊員に詰め寄る私に妻がこう言って泣き崩れた「もう亡くなってた」

警察がくる前、現場を荒らさないという約束で家の中に入れてもらった。そこで目にしたのは、目を開けたままリビングに横たわる祖父の姿だった。手をお腹の前でくみ、とても苦しんでのたうち回ったようには見えない。その姿をみて、後に妻はこう言った。「こういう表現が正しくないのは分かっているけど、おじいちゃんらしいカッコいい最後だった」。

祖父の最後を想像していなかったというと嘘になる。なぜなら大晦日には毎年、義理の祖母が眠るお寺に言って年末の法要を一緒に聞いていた。既に祖父もそこに自分のお墓を用意していたのだが、祖母の墓参りをするたびに冗談ぽく「俺がいなくなっても毎年お参りにきてくれよな」と言っていたからだ。そんなことを言われたら嫌でも祖父の死について考えてしまう。だから、少しは覚悟をしていた。でも少しだけだ。我々に毎年そのような気持ちの準備をするよう仕向けてくれていたのかと思うと、祖父の優しさが辛くなる。だからこそ、祖父には家族に囲まれ、暖かいベッドの上で最後を迎えて欲しい、それが当然だと思っていたし、そうならないなんて微塵も思っていなかった。しかし現実は全く違った。

なぜ祖父が独りで人生を終えねばならないのか。それも、亡くなって1日と少し放置されてしまうなど全部許せなかった。何であの週末に祖父に会いに行っていなかったのか、電話をしなかったのか。どうすれば祖父は助かったのか考え続けた。でもどうにもならなかった。

その憤り、悔しさ、哀しさの行き場がなかった。

そんな我々親族の気持ちとはよそに、依然として多くの人だかりがあった。
救急車に消防車、警察車両まで集まったとなれば「何が起きたんだ?」と思うのは当然だ。もし近隣で火事が起きていたら自宅にも被害が及ぶかもしれないから。しかし状況が次第に分かるにつれ、少しずつ見物人は去って行った。しかし、1組の家族だけが残っていた。彼らは大勢と同じく遠くから眺めているようだったが、徐々ににじり寄るかの様に我々の側まで近づいてきた。

私はそもそも野次馬が嫌いだ。自分をマスコミやなんかと勘違いしているのか、単に翌日の話のネタにでもしようと思っているのか、当事者たちがどんな気持ちであるかなんてお構い無しに無断で近づいてくるような輩に映るからだ。

その家族が、祖父の遺体が救急車に運び込まれるのが覗ける角度にまで近づいてきたとき、私はもう我慢の限界を超えて彼らに近寄り「見せ物ではないので帰って欲しい」と伝えた。できる限り落ち着いて。しかし父親はこの様に答えた。

「あれだけ緊急車両が集まっていたら火事かと思って誰でも見にくるじゃないですか」

確かにそう思う。私だって隣近所が火事になったら燃え移らないか不安に思うから見に行ってしまうかもしれない。その点は理解出来た。だから丁寧にこう答えた。

「火事ではないことは分かって頂けたと思うので遠慮して頂けますか?」

これで帰ってもらえるだろうと思ったのだが彼らは帰ろうとしなかった。しきりに奥を覗こうとしている。どうしてここにい続けるのか聞いた。

「子どもに救命救急について学ばせているんです。だって親として子どもにそういったことを教えるのは当然でしょ?」

その後にも何か言っていたのだが、正直その一言で頭が一気に真っ白になりそれ以上何を言っていたか覚えていない。こういう機会でないと消防士や救急隊員の動きを間近で見ることが出来ないとか何とか言っていたように思う。私にはその父親の意図が目的が全く理解が出来なかった。

親族が目の前で亡くなった人の前で何を子どもに学ばせるというのだろう?無神経にもほどがある。私の祖父の死はお前の子どもの教材ではない、そう伝えた。ちょっと声を荒げたかもしれない。全く見当違いの方向から殴られたような気がしたから。子どもは中学生と小学生だろうか2人いた。彼らには申し訳ないとは思ったが、冷静に話せる心境ではもはやなかった。

「彼は(子どもは)救急隊員になりたいのか?」と聞いてみた。そういうことではないと父親は言う、「こういった場面を実際に見せて勉強させるのは親の役目である」とか何とか父親は言っていた。こいつは何を言ってるんだ?依然として私の頭は真っ白なままだった。

「分かりました、そんなに勉強したいというのならどうぞ。祖父の遺体を見てやってください、祖父が倒れていた現場を見てあげてください、中に行けば彼らの動きが見えますよ。救急隊員の方にもインタビューしましょう。さぁ、こっちへどうぞ。」

それまでのやり取りを見ていた警察官に「構わないでください」と間に入って静止されたが、もう自分でも自分を止められず父親に掴みかかってしまいそうだった。静止されなければ掴み合いになっていただろう。

「勉強したいんだろ!いいから、来いよ!!」

「別にそこまでとは言ってねーよ!あんた頭おかしいよ」

そこからの私は壊れた人形みたいに泣いた。

他人の人生に土足で踏み込む覚悟もないのに、勉強とか何とか言ってんじゃねーよ!何なんだよ、何が学べたんだよ。子どもにあんたは何を伝えたいんだよ。あんたの卑しい好奇心を子どもへの教育とか偽りの大義で隠そうとすんなよ。ふざけんなよ。泣きながら叫んだ。

母親だろう女性が「もう帰ろう」と行って父親と子ども2人を連れて行った。

その後、私は泣くしかなかった。30を過ぎたいい大人がだ。おじいちゃん、ごめんなさい。ごめんなさいって。祖父の最後を汚してしまった気がして、情けなくて、悔しくて、泣いた。

他人から向けられる無遠慮な視線というのがどれだけ人を傷つけるか、もはや誰も気に留めなくなったのか、想像すらしないのだろうか。

あの後寝付けずにずっと考えていた。他人が人の死から学べることなんて何があるのだろうか?救命救急について学びたいのであれば、直接消防署なりに問い合わせて活動の様子をインタビューすれば良かったのではないか?テレビ番組や本から学ぶのではダメなのだろうか?なぜ、私の祖父の死から学ぼうとするのか?あなたには祖父はいないのか?

この親子は、例えば地震や水害の被災地の住民が避難している避難所に行って「緊急時の生活」について学ぼうとするのかもしれないと思った。「まさか、そんなことする訳ない」と答えるかもしれない。しかし、どうだろう。被災地の住民の避難所と、私の祖父が亡くなった自宅、どう違うというのか。どちらも他人に易々と立ち入って欲しくないとてもデリケートでセンシティブな領域じゃないだろうか。

そんなことも想像出来ないくらい、人間は劣化してしまったのだろうか。

せめてもの願いは、あの一連のやり取りを見た彼らの子どもが想像力を持った大人に育ってほしいということだ。あの父親が「世の中にはあんなキチガイもいるんだから気をつけなさい」と教えるかもしれないが、母親が伝えるのか、それとも子どもが自分自身で気づくのか「家族を亡くした人の悲しみに思いを馳せる」ということを学んでくれていないだろうかと心から願う。それが出来ない親なら、お前のような親を量産するくらいなら、親なんてやめてしまえと思う。

私はますます野次馬という存在が嫌いになった。そして想像力が欠如した人間も嫌いになった。自分が大人気ないことをしたことは分かっている。しかし、あそこで野次馬に自由にさせておくほどのお人好しにはなりたくないし、彼らを許さない。

大切なものを守るためなら、私は喜んで闘おう。どんなに自分が傷ついても、仮に他人を傷つけることになったとしても闘おう。私はそういう覚悟を持って生きている。

どうかこの思いが少しでもいいので届いて欲しい。もう辞めましょう。他人の物語に入り込もうとするのは。その前に自分の物語を充実させてください。お願いです。

お願いです、野次馬になったことがある皆さんへ。

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