米国を代表するコメディドラマ『ビッグバン★セオリー』のシーズン9エピソード20で、このような会話がありました。
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ペニー「いまの仕事嫌いなの」
レナード「マジで?なんで?」
ペニー「薬を売るために医者に媚びを売るのがイヤ。おカネは確かに必要よ。でも楽しくないわ」
レナード「なんで今まで言ってくれなかったの?」
ペニー「だってあなたとしては、私に成功してほしいわけでしょ」
レナード「そんなことないよ」
ペニー「じゃあ、また女優を続けるために、ウェイトレスに戻ってもいい?」
レナード「それがキミが望むならね」
ペニー「そんなこと望んでないわ」
レナード「だろうね」
ペニー「私が何をやりたいかは重要じゃない。今の仕事を続けていれば、カードのローンは支払える。それが大人ってもんでしょ」
レナード「そうだね、それが大人だ」
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明らかに、ペニーとは「資本主義の代弁者」としてのキャラクターであり「資本主義のイデオロギー」を全米の視聴者に伝える役割にあります。
例えば、ペニーは「私に成功してほしいわけでしょ」と言っています。彼女にとっては、楽しくない苦痛だらけの毎日を送っていても、それで賃金をもらっていれば、それは「成功success」なのです。
またペニーは「今の仕事を続けていればローンを支払える」と言っています。彼女にとって、人生を送るということ、大人になるということは「やりたいことをやる」のではなく「モノを消費するためにカードを使える」ことを意味するのです。
ボクは大学の講義でよく指摘するのですが、資本主義国家においては「多くのモノを常に購入し続けよ」というイデオロギーが流布されます。政府や企業としては、労働者に常に消費してくれないと困るわけです。
実際、資本主義国家では、より多くのモノを持てば持つほど、その人間は幸福だと周りが認めてくれます。30歳を過ぎれば住宅ローンを組んででも住宅を購入する。子供ができたら、大金を払ってでも有名私立校に通わせて、学歴という商品を購入する。とにかく、モノを所有せよ。モノを消費せよ。その向こうに、いつか幸福がやってくるというわけです。こうした考え方を物質主義(materialism)といいます。
物質主義のメリットは、自分が幸福か否かについて、単純に数量で確認できる点です。自分が幸福な人生を送っているか否かは、自分の年収と資産で測ればよいのです。あなたが他人より多くの年収を稼ぎ、他人より多くのモノを所有し、他人が持っていないモノを消費していれば、どれだけ精神的身体的につらく苦しい人生を送っていようと、あなたは間違いなく幸福なのです。
逆に、周りの人々が持っているモノをあなたが持っていない場合、あなたは、どれだけ自由な人生を満喫していても、物質主義者たちから「不幸な人間」とみなされます。
こうした現象は、政府や企業から見れば、実に好都合です。彼らからすれば、労働者にはより多く労働してほしいし、消費者にはより多く消費してほしいからです。こうして、今日も資本主義国家は、無数の労働者=消費者=カモに向けて、モノを買わせるように仕向けるのです。「もっと働け。もっとモノを買え。それが唯一の生きる道だ」と──。