シュンペーター型とは競争や技術革新の頻度が多く不確実性の高い業界のことをいいます。「ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学」ではシュンペーター型の業界では戦略を立てることができない。なぜなら不確実性が高いので戦略を立てられない、もし立てたとしても環境の変化に対応できる柔軟性を失ってしまうと書かれている。しかし私はこの意見に異議を唱えたい。まず長期的な戦略は立てられないが短期的な戦略は立てられるはずであるということ。2つ目に情報革命によって不確実性が増してからまだ日が浅いこと、また研究対象となる成功企業、失敗企業が多く存在することで研究がまだ途中の段階であるということ。このような理由からシュンペーター型なら戦略を立てることはできないと結論を出すにはまだ早いはずである。そこで私は利用可能となりそうな戦略または戦術を紹介していく。
市場拡大戦略
アンゾフは既存製品と新製品、既存市場と新市場の組み合わせによって企業の成長ベクトルがどこに向いているかを表した。この分類に従ってシュンペーター型に必要な戦略は市場拡大戦略といえる。代表的なシュンペーター型の業界の大企業は市場拡大戦略を行ったことによって大きく成長することができたといえる。例えばゲーム業界であれば今まではインベーダーゲームなどゲームセンターやカフェでしかできなかったものをテレビに接続することで家庭内に持ち込んだ。これが初代ファミコンである。任天堂は言わずと知れた大企業となった。そして家庭内ゲーム機のターゲットを大人にするために画質向上、ゲームタイトルを子供向けから大人向けにシフトさせたのがプレイステーションである。ソニーは現在ゲーム事業で大成功を収めた。しかし任天堂はこれの上をいく更にターゲット市場を変えて成長を続けた。子供と大人が一緒に遊ぶことができる家庭内ゲーム機Wiiの登場である。爆発的なヒットを飛ばしたが3DS、Wii Uで一時的には低迷した。挽回のきっかけはポケモンGOである。これは市場をインドア派からアウトドア派にシフトしたことが大きな成功となった。このように市場拡大戦略は他社がまだ参入していない市場でニーズを高めることで製品自体のイメージの変化を引き起こすものとなる。製品自体のイメージが変われば必要とされる技術、品質も変わってくる。画質なのか、ゲームタイトルの充実度なのか、はたまた子供の視力低下を危惧した親がブルーライトを気にして目に優しいゲーム画面にしてほしいのか、必要とされる技術が簡単に変わってしまうのだ。これが不確実性を高める大きな原因ともなっている。しかしある企業が誘発して起きた大きな環境変化はその企業にとっては不確実性ではなくむしろ確実なものとなる。市場拡大戦略は企業の成長のためにも必要であるし業界内をかき回す大きな力ともなる。私はこの観点からみると現在のスマホゲーム市場はどうも個人、特に大人にターゲットを絞りすぎているように感じてしまう。なかなか金になりにくいのもわかるが新たな収益方法を考えればどうにかゲーム機を買う必要がなくてもスマホで十分という時代がきてもおかしくないのにと考えてしまうのですが皆さんはどうでしょうか?
ここでは市場拡大戦略のメリットしか話してこなかったがデメリットはないのか。もちろんあります。1つは新たな技術を必要とするために研究開発費がかかること、2つ目は当該市場が本当に収益を得ることができる市場なのかどうかということ、そして3つ目がその市場に対して製品の価値を明確に伝え購買につながるようにマーケティング戦略を練り広告費がかかるということである。
研究開発費に関しては対象となる製品がうまくいかなかったとしても今後違う製品での利用や業界内の変化によって必要不可欠なものになる場合もあり企業の変化対応力の向上につながるために直接的には損をすることもあるが間接的にはプラスとなることも多い。
問題は市場に製品が受け入れてもらえるかどうかである。これはやってみないとわからないものである。製品はよくても有効的なマーケティング戦略を立案、実行できずに終わってしまう場合もある。ここで重要な投資方法となるのがリアル・オプション理論である。
リアル・オプション理論とは?
端的に言えば少額投資でいったん試験的に行ったのちに万全の体制で一気に投資するという方法である。なぜこのようなことが必要になるかというとさらなる改良とリスクヘッジのためである。製品に問題があったのか、マーケティング戦略に問題があったのか、そもそも対象としている市場が間違っていたのかを判断するために行われる。例えば製品に問題があった場合であれば少量の製品であればすぐに改良、場合によっては廃棄することもできるが大量であればまず製品回収のための資金、改良の資金、廃棄の資金、生産方法変更の資金、改良後の製品イメージ、スペックを新たに消費者にプロモーションする資金、ありとあらゆる資金がその製品の量に応じて比例どころか加速度的に増加してしまう。ここ最近はインターネットにつながっている無形財であればアップデートによって簡単に改良できるが有形財であれば最悪の事態となる。またマーケティング戦略の改善も必要となる。消費者へ間違ったマーケティング戦略を広範囲で行ってしまえばそのイメージを変えるために追加でコストがかかってしまう。狭い範囲だからこそ攻めた企画も行うことができる。ここまでして対象市場が間違っていたなら撤退するしかない。その時の撤退コストは言わずもがな少額でスタートしたほうが少額で済むに決まっている。
このリアル・オプション理論をうまく使っていたのがあのポケモンGOなのだ。しかも2段階で行っているのだからあれだけの世界的ヒットになったのだ。
Ingressというアプリをご存じの方はいらっしゃるでしょうか?もしもいたらポケモンGOの古参の方かもしれませんね。ポケモンGOの運営は任天堂ではなくナイアンティックというアメリカのベンチャー企業によって運営されているのですがIngressはこの会社の主力アプリだったのです。つまりポケモンGOの対象市場であるアウトドア志向の消費者向けのゲーム市場はすでに存在していることはわかっていたのです。またこの市場向けのメイン技術もすでに開発済みだったのです。私のような愚者であればここから一気にポケモンGO のアプリを開発し世界展開するという判断を下すが任天堂はもう一段階ステップを踏む。それがアメリカ限定リリースである。世界の流行を作るのはアメリカでありここに集中的に広告宣伝費を投下すれば世界中に波及するはずとにらみかつマーケティング戦略の調整もすることもできるまさに一石二鳥である。任天堂の思惑通りアメリカで大ヒットを飛ばしその後全世界的ヒットとなった。しかも恐ろしいのが日本でこの当時CMを大々的に放映しないで大ヒットしたスマホゲームは見たことがなかった。メディアに取り上げてもらうことで広告宣伝費を節約したのだ。リアル・オプション理論の副作用は製品の価値が高ければ広告宣伝費も削ることができるのだ。これはコカ・コーラ社が檸檬堂を九州限定発売し全国展開したときにも発揮された。なぜならお土産としての全国にある程度名前が浸透していたからだ。
このようにシュンペーター型であれば市場拡大戦略とリアル・オプション理論が有効的な戦略・戦術となる。もしも皆さんの仕事がシュンペーター型に属しているのであればこのような視点で企画の立案、改善をしてみると良いかもしれません。その時は外部環境の分析を行わなければなりません。次回の投稿は外部環境分析の話をしようと思います。ではまた次回の投稿で!!!