怪談…ではないですが、昔すれ違ったものについて書き残しておこうと思います。
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オカルトでもサスペンスでも、恐怖(魅力)を感じるのは常識や日常とのズレだと思う。
死体が動いた、触ってもないテレビが消えた、後ろ向きで歩く人が近づいてきた…等々。
自らの理解を超えた事が起きた時、それをどう処理していいか分からず恐怖とパニックにやられてしまう。
だから昔は「そういう妖怪だから」で納得していたし、今は「科学」のおかげで「常識」の箱に収める事ができる。
それでもやはり不可解な出来事は起こり、そして、こわい。
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10年ほど前に仕事で広島県の三原という地域へ行った際、深夜の帰り道ですっかり迷ってしまった。
不慣れな土地、夜の暗さ、おまけに豪雨時々雷。
道すがらの公園は街灯も無く、木々に囲まれて中の様子もうかがい知れない。
カーナビは付けていたものの古い機種のせいか正しい道筋に辿り着けず、
延々と「次の角を右折して下さい」と繰り返している。
気が付けば公園の周りを車でグルグルと回っているような、そんな有様だった。
唯一の光源であるヘッドライトが、暗闇に落ちる雨を照らしている。
まるでその光の中にだけ雨が降っているようだった。
飽きもせず公園の周りを走らせるナビを切ろうとした時、ふと違和感を覚えた。
何度も同じ場所を回っていたせいだろうか。
ただ通り過ぎただけなら、気が付かなかったかもしれない。
雨が、“途切れて”いる。
曲がり角の一瞬だけ、ライトに照らされた雨が一部ぽっかりと消える場所がある。
気になった。
いや、早く帰りたい。
しかし。
…もう一周してみる事にした。
やはり、雨が“一部欠けている”
なんなのだろうこれは。何故消える?何かがあるのか?
降っていないのではない。屋根がある風でもない。
もう一周しよう。
雨で視界が悪い。次はもうちょっと速度を落として…目を凝らして…
と、そこでちょうど雷が鳴り、一瞬だが辺りを照らした。
そのおかげで…アッサリと分かってしまった。
怪奇現象でも、超常現象でも、ましてや幽霊でもなんでもない。
あぁ、なんだ。
真っ黒な女が一人、立っていただけか。
雨はソレに当たるからライトに映らなくて。黒いから周囲に、背景に、暗闇に溶け込んでいて。豪雨の中傘も差さず同じ場所にじっと立ち続けている人がいるなんて思わないから心理的な死角でもあって民家の塀に額をピッタリくっつける様にしてつまり道路に対して背を向けていてさらに長髪だから余計分かりにくくてナビはまだ同じ場所を回らせようとしていて
もう一周は、出来なかった。
その後は思考停止して反転しとにかく車を走らせた。
程なくして大通りに行き当たり、無事帰路につけた。
なんであんなに迷っていたんだろうと思うくらいスムーズに。
―――雨が当たっていたという事は、実体があるんだろうなぁ…
―――いや幽霊が雨に透けるかどうかは知らないが…
なんて事をぼんやりと考えながら。
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動くはずのないモノが動くと怖い、と同様に
動くはずの人が動かないのも怖い、という出来事でした。
オカルトに対しては
「あるはずない!でも、もしあったら怖い…」
という一番楽しめる(?)スタンスなのですが、
果たしてこの出来事はオカルトと言えるのか…なんか未だに幽霊って感じもしなくて…でも幽霊見た事ないから決め手に欠けるし…単に深夜に出かけてた黒コーデの人って線も…うーん…
そんな感じのモヤモヤとしていた荷物を下ろす事が出来て良かったです。
「ALISあなたの知らない世界」
素敵な企画をありがとうございました。