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DXの定義を整理する

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  • ALIS DXブログ
  • 2020/06/08 09:03

こんにちは、ALIS CTOの石井(@sot528)です。

ALIS DXブログ、今回は急激にバズワード化しているDX(デジタルトランスフォーメーション)の定義について整理しようと思います。

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Googleトレンド

 

昨年、企業の支援事業を開始した当時、私はこのDXという言葉を浮ついたバズワードと認識していました。しかしクライアントのお手伝いをするうちに、なるほどこれはDX推進という形で取り組むのが最も価値を出せる手段だと認識を改め、今ではそれを支援事業の中核と位置づけています。

本ブログの主題でもあるこのDXですが、いかんせん多くの主語に対してありとあらゆる文脈・目的・立場で語られるため定義が非常に曖昧です。いろいろと"とっちらかっている"印象もあるので、ここで私の観点を交えて一度整理しようと考えました。

 

DXの定義の難しさ

前提として、DXをシンプルに定義するのは極めて難しいです。つまり、"これがDXだ"と言い切ると重要な観点が欠落しがちということです(抽象化の常ではありますが)。これが人生だ、とか、これが日本人だ、とか言い切り難いのと同様です。つまり複雑で込み入った概念はそう易々と単純化できないということですね。

 

"組織のもつれ" という強固な現実

では、なぜ私たちがこのDXという言葉を使っているかと言えば、それは必要に迫られた結果です。その経緯にはDXの複雑さ(=定義の難しさ)への示唆があるかと思いますのでご説明します。

元来、私たちはブロックチェーンを主軸としたチームです。なのでエンタープライズ事業としては、まずブロックチェーン導入支援を開始しました。しかしクライアントにお話を聞くと、極めて高い確率で「これは、ブロックチェーンよりも優先して取り組むべき課題があるのでは?」という状況に至ります。

ブロックチェーンの利用を検討されるクライアントは、ブロックチェーンにより「新規事業を作れないか」「業務改善できないか」「コストを削減できないか」といった期待をお持ちです。担当者様個人の期待はいろいろあるとして、組織としてはこれを「競争力を高めたい」という意図と抽象化できるでしょう。ブロックチェーンを使って競争力を高めたい

しかし端的に言って、今日のブロックチェーンは企業において、単独で問題解決を行う代物ではありません。よくある「とりあえずのPoC」ならともかく、実際の活用には明確な戦略と各種システムとの緊密な連携が必須です。

新興技術で戦略を描くのは難しいですし、たとえエクセレントな戦略を描けても、その実行時には巨大なハードルが存在します。それはレガシーシステムです。もっと言えば、そのシステムを作り上げた組織構造そのものです。年単位でDXに取り組む中で骨身に染みたことですが、これがとんでもなく強固な障壁です。これは、DXの青本ことDX実行戦略 デジタルで稼ぐ組織をつくるで「組織のもつれ」と表現された概念であり、いわば技術的負債を組織構造のレイヤーまで拡張した概念です。こればかりは実際に手を動かして取り組むまで肌感が掴めないかと思います。

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それなりの規模の組織はこんな感じ

 

詳細はKaizen Platformのスドケンさんが的確なエントリを書かれてますのでご紹介します。

2025年の崖の手前にあるDXの壁の話

 

DXは "組織のもつれ" を無視できない

この、組織のもつれという観点抜きでDXを語れば画竜点睛を欠きます。

なぜなら、ブロックチェーン等の新技術をまともに活用して企業が価値を生むためには、先述の通り既存システムとの緊密な連携が必要です。緊密な連携を行うためには既存システムが柔軟に改修でき、データを自由度高く取り回せる必要があります。そのためには良く組成されたチームにより技術的負債が適切に管理され、高いアジリティ(機敏に変化へ対応する能力)を実現している必要があります。

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DX実行戦略

 

そしてIT部門を軸に各部門間が組織のゴールへ向けて適切に連携する必要があります。しかしほとんど場合、現状は真逆です。まったくそれどころではない。

システムは外部ベンダーに丸投げでブラックボックス化しており、データはサイロ化し、属人性は高く、IT部門は社内で軽視されメンバーの士気も低い。当然、システムは言い訳ができないレベルで低品質であり、まともな情報セキュリティを担保できず可用性は低く、いつ個人情報流出が起きてもおかしくない状態です。けして誇張ではありません。特定の1社のお話でも無く、むしろこのような状態が一般的です。個人情報が表示されるページにTLS/SSLが効いていない、リスクのあるネットワークでtelnetを使用している、各種法律の更新にもまったく追随できていない、等々。。

このような状態では、ブロックチェーンや新技術の活用どころではない。たとえば個人情報流出リスクの放置などは、是も非も無く可及的速やかに対処すべきです。新技術活用のためにはシステムを見直し、データのサイロ化を解消し、部門間のしがらみを調整し...といった技術的負債の解消・組織のもつれの対処を行う必要があります。しかし現実としては、技術的負債はまったく管理されていない。可視化もされていない。もっと言えば、技術的負債という概念が認識すらされていないのが現状です。(組織のもつれについてはより認知度が低いです)

そのような問題意識を背景として、本ブログの1本目は技術的負債について記載しました。

 

詳細は上の記事を参照いただければと思いますが、結局のところシステムがそのような状態になってしまうのは組織構造が原因です(これはコンウェイの法則と呼ばれます)。競争力を高めたいという組織の要望に対して、ほぼすべてのクライアントにおいて、本当に有効な打ち手はブロックチェーンの利用よりもこの組織構造の変革(=DX推進)にあるという結論に至りました。これが私たちがDX事業を行う理由です。(もちろんDXはブロックチェーンを包含するので適材適所でフル活用してゆく所存です)

そして話が組織構造に及べば、自然と各論や個別最適化ではなく大きな話となります。というか全部です。DXは組織全体を巻き込んだ一大変革のお話となります。(DXには経営層のコミットメントが必須と随所で強調されるのは、このためです。組織変革はトップ層の全面的な協力無しではまず不可能です)

 

畢竟、DX推進を行う主体(主に企業)のそれぞれ個別な事情を膨大に含むこととなります。業界、ポジション、規模、文化、人材、経営陣、経営状況、ディスラプタの存在、その他ステークホルダー、etc...。10万人の組織と100人の組織ではまったく話が異なります。経産省のDX推進指標のスコアの高低で、同じDXでもまるで異なるアプローチが必要となります。何かのテンプレートがあり、そこにはめ込んでDone、という訳にはいかないのです。DXの定義が難しい理由はここにあります。

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組織それぞれのごちゃごちゃは抽象化し難い

 

DXをシンプルに定義すると、この抽象化し難い諸々、"組織のもつれ"はバッサリ削られます。しかしDX推進ではまず間違いなくこのドロドロと相対し、試行錯誤をしながら推進してゆくこととなります。そうでないなら、その組織はそもそもDXの必要性が低い優れた組織構造であったか、組織規模が小さいか、あるいはDXという名の表面的なおためごかしに過ぎません。この"組織のもつれ"は実際にDXを実行するのであれば中核に置くべき概念のひとつであり、抽象化や言葉の定義を行う際に削れるものではありません。

 

とはいえ。

定義の無い言葉を使うのは虚無なので、整理してみましょう。しかし、さらに厄介なことにその前にまず、そもそもDXという言葉がこれほど喧伝される背景を押さえる必要があります。前提を理解しないと、その言葉の背景にある危機感や重みが肌感として理解できないためです。

 

DXが喧伝される背景

昨今、DXが頻繁に言及される背景はざっと以下の通りです。


デジタル化できるものはすべてデジタル化される

デジタルと親和性の高い業種は既にディスラプト(破壊)されました。目下のところその第2波が訪れています(Amazonが海運業を脅かしていることをご存じでしょうか? このような例は無数にあります)。もはや、多くの企業にとってこれは対岸の火事ではありません。以下はMIT CISRの2015年時点での米国企業に対するリサーチですが、この段階ですでに企業幹部は今後、5年でデジタルディスラプション(IT企業による他業種への攻勢)により、収益の3分の1を失い得ると考えていることがわかります。

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デジタル・ビジネスモデル

 

DXに失敗すれば膨大な損失

経産省が、有名な「DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~」を発表した背景も、まさにこの危機感によるものでしょう。DXを成功させなきゃ毎年12兆円の経済損失を被るよとまで予測しています。先日、GAFA+MSの時価総額が東証一部上場企業全社の合計を上回ったことは象徴的であり、経産省のこの予測は決して非現実的なものではないと言えるでしょう。

 

顧客は皆、1社の強力なプレイヤーを好む

個人顧客も法人顧客も、各領域で唯一の、または2社程度の強力なエコシステムドライバーを好む傾向が顕著になりつつある。そして結果として、大幅な業界統合が起こるだろう / デジタル・ビジネスモデル

どこで電子書籍を買うか。動画サービスはどこと契約するか。検索エンジンはどこを使うか。特定の1社が思い浮かぶ人は多いはずです。重要なのは、その1社以外は駆逐され得るということです。

 

重要な前提をいくつかピックアップしました。詳細は本記事で紹介している資料や書籍などご参照いただければと思いますが、つまりDXがこれほどまでに喧伝されている背景には強烈な危機感があります。DXを成功させなければ組織が駆逐されるかもしれない。そんな、企業の存続を賭けた熾烈な生存競争の中核にDXは位置付けられているのです。企業が片っ端から淘汰され得るパラダイムシフトである以上、その先では国家の趨勢すら脅かされかねません。

 

DXの定義

さて。長々と書きましたが、ようやくDXの定義の整理に取りかかれそうです。まず、すでに様々な場所で定義が成されているので引用してみましょう。

DXという言葉の起源とされるErik Stoltermanの2004年の論文では以下のように定義されています。

デジタル・トランスフォーメーションとは、デジタル技術が人々の生活のあらゆる側面に引き起こす、あるいは影響を与える変化と理解することができます

The digital transformation can be understood as the changes that the digital technology causes or influences in all aspects of human life. 

Information Technology and the Good Life

この時点では情報技術起因で訪れる人々の生活の変化そのものと定義されています。しかし昨今では、DXを牽引するのはやはり企業である場合が多いためか、自然とこの言葉の主語を企業とする場合が多いように思います(国家や業界等について語られる場合もありますが本記事では割愛します)。そして、より能動的に企業が情報技術前提で組織変革を行うことというような趣旨で言及されています。

一例として、経産省が2025年の崖で引用している定義を見てみましょう。

企業が外部エコシステム(顧客、市場)の破壊的な変化に対応しつつ、内部エコシステム(組織、文化、従業員)の変革を牽引しながら、第3のプラットフォーム(クラウド、モビリティ、ビッグデータ/アナリティクス、ソ ーシャル技術)を利用して、新しい製品やサービス、新しいビジネス・モデ ルを通して、ネットとリアルの両面での顧客エクスペリエンスの変革を図ることで価値を創出し、競争上の優位性を確立すること

IDC Japan 株式会社

また、先述のDX実行戦略では、シンプルに以下のように定義されています。

デジタル技術とデジタル・ビジネスモデルを用いて組織を変化させ、業績を改善すること

他にもいろいろな場所で言及されていますがきりが無いので割愛します。

本記事の結論としては、今日の日本で、企業を主体として、DXという言葉が用いられた場合は、DXを実行する上での前提と重要観点をなるべく損なわないよう表現する意図のもと、概ね以下のような意味合いで語られるものと考えます。

存在を脅かされ得る外部環境の破壊的変化に対応し、情報技術とそれに適したビジネスモデルを活用して競争優位性を確保するため、まだ情報技術への対応が不充分な企業が、実践的で明確な戦略を描き、経営層のコミットメントを前提に全社巻き込む総力体制のもと、組織のもつれとレガシーシステムに対処し、徐々にアジリティを向上させ、継続的にコストを削減しUXを改善し続けられる組織構造へと変革すること

 

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本記事では、DXの定義で削られがちな、しかしDX推進において最重要概念の一つである"組織のもつれ"を中心に、DXの定義を整理しました。DXという言葉が机上の空論でなく、おためごかしでもなく、現実に即した血肉を伴う形で使われているかの判断の一助となれば幸いです。DXは不退転の覚悟と供に語られるべき言葉です。

昨今、流行言葉に便乗しろとばかりに、とりあえずDXと言いつつ中身はただのSaaS採用、クラウド利用、ECサイト開設、WEBマーケティング改善など、いわば非常に"バズワードらしく"言及されがちです。しかし経産省の定義や、その他真剣にDXへ取り組んでいるプレイヤーにとって、少なくとも以下の1点に限ってはコンセンサスが取れているのではないかと思います。

 

・組織が根本的に変革されなければ、それはDXではない

 

もっと具体的な話に置き換えると、例えば企業がDXに取り組みつつ経産省のDX推進指標を用いて定期的に組織の状態を数値化し、その数値が向上していればDXは推進されている、そうでなければ間違った施策をしている、と定量的に判断することができます。(弊社ではアプローチの一つとしてこの方法を採用しています。経産省のチームはDX文脈において素晴らしい仕事をされているので最大限活用すべきですね)。DXは腰を据える必要のある取り組みです。1年、3年、5年、あるいはそれ以上といったスパンで思考すべきでしょう。

弊社ではプライドを持ったプリンシプルに基づき、クライアントのDX推進を全力で支援しております。DXでまず何をすれば良いかわからない、とりあえず組織の現状や技術的負債を可視化したい、あるいは不退転の覚悟でDXを行うつもりであり一蓮托生で取り組む推進力のあるパートナーを探している、等々。どうぞ、お気軽にお問い合わせください。

 

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CC-BY 4.0

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