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地域通貨とは?地域通貨とブロックチェーンとの未来を考察する #1

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  • Economies2.0
  • 2018/11/21 12:12
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“既存の価値を再定義・再発見し、新たな経済圏を産み出す”

ブロックチェーン技術を用いたクリプトエコノミクス(トークンエコノミー)の価値はこのように捉える事もできます。

しかし、サトシ・ナカモトによるビットコインの論文が発表される30-40年ほど前から、資本主義貨幣経済に代わる、オルタナティブな経済圏を作ろうとする動きは、実は世界の各地で存在していました。その1つが“地域通貨”です。

今回は、この地域通貨×ブロックチェーンにまつわる取り組みを、全3回の連載を通して紹介・解説し皆さんにお届けします。


そもそも地域通貨(補完通貨)とは?

まず、そもそも“地域通貨”とは一体どのようなものなのかを、一度確認しておきましょう。

地域通貨の話に入る前に、最初に大きい前提から確認します。“通貨を発行する”ということは、それによって“債務と債権を産み出す”ことと、ほぼ同等の意を持ちます。

誰かから何かを入手したいと願った(=債権)としたら、代わりに何かを提供しなければいけません(=債務)。我々は普段、物と物ではなく債務と債権の取引をして生活しています。遠い昔から現在においてまで、この債務と債権の取引は国が発行する“法定通貨”というメディアを通じて行われていました。このシステムは、国の発行する法定通貨の価値をお互いに信用しているからこそ成り立っているシステムです。

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しかし、法定通貨の適用される“信用”の範囲は絶対的なものではありません。最近ではベネズエラのハイパーインフレーションが話題ですが、「国」を信用できない人たちの間では法定通貨への信用は相対的に低くなります。また、債務を果たせると認められないような「人・団体」に対して、法定通貨における信用は適用されないことが多いです。ここまではブロックチェーン領域に興味関心のある皆さんにとっては、もう既に馴染みのある話かと思います。

これらの諸問題に対し、法定通貨に依存せず独自のシステムで“信用”を担保しようと用いられる通貨を“補完通貨”と呼びます。地域通貨も、また仮想通貨もその内の一種と言えます。

言い換えれば、補完通貨の役割は、法定通貨によって担保されていない“信用”を、違う“信用”をもって解決し取引を行うこととも言えるでしょう。

我々の暮らす日本においては、上記に挙げた問題は少し縁遠い話のようにも思えます。しかし、日本においても数多くの地域通貨が今も存在しており、さらに、この地域通貨にブロックチェーンを掛け合わせた取り組みが世界中でも今じわじわと注目を浴びるようになってきています。その理由は何故なのか、以下で事例を紹介していきます。


信頼を担保にする地域通貨

あらためて地域通貨とは、限られた特定の地域内やメンバー間だけで利用できる法定通貨ではない通貨のことを指します。地域通貨自体は1980年代から世界中で行われていた取り組みであり、日本でも1999-2000年時にブームを迎えました。ピーク時には600種類以上の地域通貨が存在していたとされています。現在も日本国内だけでも300以上、世界に目を向ければ観測できないほどの地域通貨が存在していると言われています。

地域通貨と一口に呼んでも、その用途・目的はそれぞれ多岐に渡りますが、一つ代表的な例として、現在でも神奈川県の藤野市にて用いられている地域通貨「萬(よろづ)」を例に挙げてみます。この地域通貨は、法定通貨である日本円との交換や他の金融資産を担保にするのではなく、当事者同士の“相互信頼”を担保に取引をしているところに最大のユニークさがあります。まずは仕組みを紹介します。

・対象は会員登録をし通貨を発行された人。

・通貨と言っても、貨幣は発行せず1人1つ手帳を保有する。

・取引は相互の取り決めによってその価格を判断し、単位を萬としてお互いの手帳にそれぞれ収支を記入し、確認してサインをする。

・コミュニティ内で要望を投げかける際にはメーリングリストを使用する。

・1萬=1円として扱い、地域の加盟店の各種サービスにも部分的な使用可能。円への換金はできない。

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地域通貨「萬」が実際に使用されている様子

実際の取引では、農家で作られた野菜や使い古しの衣類を渡したり、終バスを乗り過ごした際の送迎や旅行中の植物・ペットの世話など、あらゆるものが対象として取り扱われています。萬は地域通貨の代表例として取り上げられることも多く、地域のモノの循環への潜在ニーズを掘り起こすことに成功しています。言い換えれば、法定通貨が比較的安心して使われる日本において、この通貨は国に対する不信ではなく、これまで法定通貨がリーチできていなかった、“コミュニティへの信頼”を担保とした取引を掘り起こしていると言えます。仮想通貨にも精通する経済学者の斉藤賢爾教授は著書の中で以下の図を用いて説明しています。


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引用:『これでわかったビットコイン[生きのこる通貨の条件]』(太郎次郎社エディタス)


萬を使用するにあたって、マイナス・負債が増えることは悪いこととは捉えられず、“地域の価値を発掘する貢献をした”と捉えられています。斉藤教授は地域通貨を“人間関係を深めるメディア”と称しています。藤野市では、地域通貨により住民同士の繋がりが促進され、地域での地産地消や、電力発電を地域で賄おうとするワーキンググループが生まれてきています。自律分散的生き方をコミュニティとして取り組んでいる事例です。


ブロックチェーンを活用した地域通貨事例

しかしながら、地域通貨の多くは定着がなされることなく活動を終えてしまうものが大半でした。要因として挙げられていたのが大きく分けて3つあります。

1. 導入コスト

2. 利用者へのインセンティブ設計

3. 法律上の課題

の3つです。そこで今新たにブロックチェーンの技術が注目を浴びているのです。

実際に、ロシアにブロックチェーンを活用した地域通貨の事例があります。ロシアでは多くの銀行が10%を超える高金利であり、EUからの経済制裁や法定通貨ルーブルが安定しないことも相まって、インフラの行き届いていない地方の小さな農村の貧困問題があります。

そんな中、モスクワ郊外のコリオノボという農村に住む、シュリャプニコフという1人の農家の男が、2017年4月にKolion(コリオン)という仮想通貨を発行しICOで国内外から約50万ドルを集めました。遡ること2014年、国への信用を失っていた彼は、ある日酔った勢いで印刷会社に電話をかけ最初のKolionを紙幣として発行します。しかし、1年後政府によりKolionは強制没収され、シュリャプニコフは逮捕されることになります。それでも彼は取り組みを諦めず、ブロックチェーンという技術に出会い、ICOを成功させることになるのです。

この通貨の運用法もまた独特なものです。まずシュリャプニコフがヒヨコと孵化器を農民に貸し付け、農民はヒヨコを鶏に育てまた新たなヒヨコを産ませます。その新たに産まれたヒヨコを半分シュリャプニコフに返し、残り半分は自分の自由に他の農民と取引が出来ます。その取引にKolionを使うことを義務づけることで、シュリャプニコフは仮想通貨を地域に普及させることに成功しました。マイニングは行わず、法定通貨と結びつけてもいません。その代わり、地域の農家を耕したり、建築を手助けするなどの“Plowing(耕作)”をすることによってKolionを手に入れることが出来ます。自給自足と自由を求め作られたKolionは、法定通貨の債務・債権システムから離れ、地域の循環を回すための独自のメディアとして約100人の農民に現在使われており、今後行政にも使われていくことが期待されています。

今はロシア政府も、仮想通貨を活用した貴重な事例としてこの活動に規制をかけることなく見守っています。ロシアに限らず地方と都市の分断は世界各地で起きている事象です。シュリャプニコフが起こしたKolionの事例は、今後の地域通貨、ひいてはブロックチェーンにおける世界的に貴重なユースケースになるかもしれません。


まとめ

連載の第1回となる今回は地域通貨の概要をお伝えしました。地域通貨、その運用思想はブロックチェーンの産み出すクリプトエコノミクスに高い親和性があります。第2回以降では、現在ケニアにて行われている地域通貨プロジェクトと、それの基盤となるBancor(バンコール)プロトコルについて取り扱っていく予定です。これらの領域からブロックチェーン、暗号通貨の価値が社会により浸透していくことを期待しながら、今後もリサーチを続けていきます。

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参考


https://www.dir.co.jp/report/research/policy-analysis/regionalecnmy/20180423_030004.pdf 


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