「分散 (decentralization)」はブロックチェーン業界で最も頻繁に使われる単語の一つであり、ブロックチェーンの最大の特徴でもあります。ですが、みなさんは「分散」の意味をはっきりと理解していますか?多くの人はぼんやりと理解した気になっているだけではないでしょうか。
本記事では曖昧な意味で使われがちな「分散」という言葉を再定義します。
Ethereumの創始者Vitalik Buterin氏によると分散性には以下の3つの側面があります。
構造的分散 (architectural)
システムがいくつのパーツで成り立っているか、そのパーツのいずれかの機能が停止したときに全体が機能するか。
政治的分散 (political)
何人が、またはいくつの組織がその組織を管理しているか。
論理的分散 (logical)
その構造自体が単一の物や集合体として機能するものかどうか、ある構造を二つに分けたときにそれぞれが独立しているか関係しているか。
それぞれの分散性は独立した概念ですが、2つ以上が同時に成り立つこともあります。
それでは具体例と共にそれぞれの分散性のイメージをはっきりさせていきましょう。
一般的な企業
- 構造:集権 = 本社が機能を停止したら全体の機能が停止する
- 政治:集権 = CEOが一人
- 論理:集権 = 分割して機能しない
国家
構造:集権 = 行政・立法・司法などの権力が数少ない機関で行われ、いずれかが欠ければ機能が停止する
政治:集権 = 実際に運営するのは少数
論理:集権 = 国家という一つの集合体として働く
言語
構造:分散 = 話者が機能を停止しても全体に影響はない
政治:分散 = 文法などを決定する機関がない (エスペラント語を除く)
論理:分散 = AとBで話される英語とCとDで話される英語は独立している
ブロックチェーン
構造:分散 = 複数のノードで構成されており、一部が機能を停止しても全体は停止しない
政治:分散 = 管理する中央機関がない
論理:集権 = 全体で一つの大きなコンピュータのように機能する
BitTorrent (P2Pファイルシェアプロトコル)
構造:分散 = 複数の参加者で構成されており、一部が機能を停止しても全体は停止しない
政治:分散 = 管理する中央機関がない
論理:分散 = ピアAとピアBでシェアされるファイルはピアCとピアDでシェアされるファイルと関係しない
分散性のそれぞれの側面のイメージはつかむことができたと思います。それでは、そもそもなぜ分散性が必要なのかを見ていきましょう。一般的には3つの理由があります。
- 障害耐性 (fault tolerance)
- 攻撃耐性 (attack resistance)
- 共謀耐性 (collusion resistance)
障害耐性 (fault tolerance)
中央集権システムが持つような単一障害点 (single point of failure) がないため、分散化されたシステムは多くの別々の部分・部品によって成り立っているため故障するリスクが低くなっています。
しかし、分散性は完璧な故障耐性をもっているわけではありません。共通モード故障 (common mode failure) といって、それぞれの部品が共通の故障原因を持っている場合、分散されていたとしても故障により機能を停止してしまう可能性があります。例えば、4つのエンジンによって動いている状態は1つのエンジンで動いている状態よりも故障するリスクは低いですが、その4つのエンジンが同じ工場で作られていた場合、4つのエンジンが同時に故障するリスクは高くなります。
これはブロックチェーンにも言えることです。例えばブロックチェーンのノードが同一のクライアントソフトウェアで動いていたり、マイナーのほとんどが一つの国に集中していたりする場合です。分散性の利益を最大化するためにはこのような状態を避ける必要があります。
攻撃耐性 (attack resistance)
攻撃耐性は攻撃するのに必要なコストと利益によるものです。分散されたシステムは一つの弱点を攻撃するのではなく、多数の部分を同時に攻撃しなければならないため攻撃のコストが極めて高く、攻撃されづらくなっています。
共謀耐性 (collusion resistance)
共謀耐性とは全体の利益を犠牲にしてあるグループのみにとって都合のいい行動をとることを防ぐことができるということです。独占などがその例です。分散されたシステムでは全体の利益を犠牲にして自分たちの利益を追求することは難しくなっています。
ブロックチェーンの理解に必要不可欠な「分散」という言葉の意味とその利点は理解できましたか?
主にブロックチェーン界隈で使われる分散性のなさ (中央集権的との批判) という批判はそれぞれ側面が違うことがわかります。EOSなどのプロトコルのガバナンスへの批判は政治的分散性と共謀耐性に関する批判、仮想通貨取引所などへの批判は構造的分散性と障害耐性・攻撃耐性に関するものです。
曖昧に使われている「分散」という言葉の意味をきちんと理解し、分散の重要性を考えていく必要があるでしょう。
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