どの企業も何らかの形で「コールドスタート問題」に直面しています。何もないところからどのようにスタートするのか?どのように顧客を獲得するか?また、ネットワーク効果(製品やサービスが多くの人に使われることで、ユーザーにとってより価値のあるものにする)を生み出し、使われるインセンティブをどのようにデザインすればよいのでしょうか。
つまり、どのように「市場に参入」して、潜在的なユーザーに自社製品やサービスにお金や時間を費やすように説得力をもたらすのか、ということです。
web2(Amazon、eBay、Facebook、Twitterのような中央集権型の製品/サービスによって定義されるインターネット時代、価値はユーザーではなくプラットフォーム自体に生じる)組織による対応は、牽引力の生成と顧客の維持・獲得に焦点を当てた従来のGo to Market(GTM)戦略の一環として、営業とマーケティングチームに多額の投資をすることです。
しかし、近年、全く新しい組織構築モデルが登場しています。このモデルは、企業によってコントロールされるのではなく、消費者データや無料のユーザー生成コンテンツを使用する場合に、分権的なイニシアチブ形式によって製品やサービスに関する全ての決定が行われます。この新しいモデルは、分散型テクノロジーを活用し、トークンと呼ばれるデジタルプリミティブを通じてユーザーをオーナーの役割に引き入れるものです。
この新しいモデルは、web3と呼ばれ、従来のGTMの考え方全体を一変させるものです。従来の顧客獲得フレームワークもまだ有効ですが、トークンや分散型自律組織(DAO)のような新しい組織構造の導入によって、より柔軟なGo-to-marketのアプローチが必要になります。
この記事では、web3の文脈でGTMについて考えるための新しいフレームワークをいくつか紹介し、エコシステム内において、様々なタイプの組織が共存していく可能性があることを説明していきます。また、web3が進化を続ける中で、独自のGTM戦略を構築しようとする人々に、いくつかのヒントと戦術を提供していきます。
顧客獲得ファネルのコンセプトは、Go-to-Marketの中核であり、既存の多くの企業にとって非常に身近なものです。ファネルの上部で認知度とリードジェネレーションを行い、下部ではコンバージョンと顧客維持を行います。従来のweb2型のGo-to-Marketは、顧客獲得という非常に直線的なレンズを通して、価格設定やマーケティング、パートナーシップ、販売チャネルマッピング、セールスフォースの最適化などの領域を網羅することによって、コールドスタートの問題を解決する取り組みです。成功の指標としては、成約までの時間、サイトのクリックスルーレート、顧客一人当たりの売上などがあります。
トークンはコールドスタート問題に対する従来のアプローチに代わるものとなり、web3 は新たなネットワー クをローンチするためのアプローチを根本的に変えます。潜在的な顧客を誘引して、獲得するために従来型のマーケティングに資金を費やすのではなく、コア開発者チームがトークンを使って初期ユーザーを呼び込むことが可能になり、ユーザーはネットワーク効果がまだ明白でない、あるいは始まっていないサービスに対する初期貢献に対して報酬を獲得することができます。この初期ユーザーは、より多くの人々をネットワークに引き込むエバンジェリスト(同様に貢献に対して報酬を得たい人々)であるだけでなく、本質的にweb3における初期ユーザー自体をweb2におけるビジネス開発者や営業担当者よりも強力な存在にするのです。
例えば、レンディングプロトコルの Compound [情報開示:私たち(a16z)はこの記事で取り上げる複数の組織に投資しています] はトークンを使って初期の貸し手と借り手にインセンティブを与え、流動性マイニングプログラムに参加、つまり「流動性の立ち上げ」のために COMPトークンという形で報酬を提供しました。プロトコルのユーザーは、借り手であれ貸し手であれ、誰でもCOMPトークンを受け取ることができました。2020年にプログラムが開始した後、Compoundでロックされた価値の総額(TVL)は~$100Mから~$600Mに跳ね上がりました。注目すべきは、トークンのインセンティブはユーザーを惹きつけるものの、それだけではユーザーを「定着」させるのに十分ではないということです。この点については後述します。伝統的な企業は、株式を通じて従業員にインセンティブを与えることはあっても、長期的に顧客に金銭的なインセンティブを与えることはほとんどありません(割引クーポンや紹介料を除く)。
まとめるとweb2では、GTMの主要なステークホルダーは顧客であり、通常、営業やマーケティング活動を通じて獲得します。一方web3では、組織のGTMステークホルダーには、顧客/ユーザーだけでなく、開発者、投資家、パートナーも含まれます。したがって、多くのweb3企業では「コミュニティの役割」が営業やマーケティングの役割よりも重要であると考えられています。
web3企業にとって、GTM戦略は、組織構造(中央集権型と分散型)と経済的インセンティブ(トークンなしとトークンあり)によって、以下のマトリックスのどこに位置づけられるかに依存します。
Go-to-marketは各クアドラントで異なっており、伝統的なweb2スタイルの戦略から新興・実験的な戦略まで、あらゆるものにまたがる可能性があります。ここでは、右上のクアドラント(トークンを持つ分散型チーム)に焦点を当て、左下のクアドラント(トークンを持たない集中型チーム)と対比させて、web3とweb2のGTMアプローチの違いを説明します。
トークンありの分散型
まず、右上のクアドラントを見ます。ここには、独自のweb3 オペレーティングモデルを持つ組織、ネットワーク、プロトコルが含まれ、その結果として斬新な市場参入戦略が必要となります。
分散型モデル(通常はコア開発チームや運営スタッフからスタート)を採用し、トークン経済を使って新たなメンバーを集め、貢献者に報酬を与え、参加者へのインセンティブを調整するモデルです。
このクアドラントに含まれるweb3の組織と、伝統的なGTMモデルを使用している組織の根本的な違いは「製品とは何か?」という部分です。web2企業や左下のクアドラントに属する企業は、顧客を引き付ける製品から始めなければならないのに対し、web3では、目的とコミュニティという2つのレンズを通して市場参入にアプローチします。
製品や強固な技術基盤を持つことは依然として重要ですが、それが最優先である必要はありません。
ここで必要となるのは、自分たちの存在意義を定義する明確な目的です。つまり「解決しようとしている問題は何なのか?」ということです。コミュニティ主導やコミュニティ・ファーストであるだけでなく、オーナー、株主、ユーザーの区別をなくし、コミュニティが所有する強力なコミュニティを持つことを意味するものです。web3の長期的な成功を可能にするものは、明確な目的、熱心なコミュニティ、その目的とコミュニティに適したガバナンスの仕組みにあります。
では、右上のクアドラントにあるweb3組織の2つの大きなカテゴリー、(1)分散型アプリケーション、(2)レイヤー1のブロックチェーン、レイヤー2のスケーリングソリューション、その他のプロトコルにおけるGTMモーションを深堀りしてみましょう。
「分散型アプリケーション」は、分散型金融(DeFi)、ノンファンジブルトークン(NFT)、ソーシャルネットワーク、ゲームなどのユースケースを対象としています。
分散型金融(DeFi)DAOについて
分散型アプリケーションの主要なカテゴリの1つは、分散型取引所(DEX、例:UniswapやdYdX)やステーブルコイン(例:MakerDAOのDai)などの分散型金融(DeFi)アプリケーションです。これらは、標準的な非中央集権的アプリケーションと同様の市場参入の動きをとることになりますが、組織構造やトークン経済によって価値の発生が異なります。
多くのDeFiプロジェクトは、まず中央集権的な開発チームによってプロトコルが開発されます。プロトコルのローンチ後、チームはプロトコルの安全性を高め、その運用を分散したトークン保有者のグループに付与するために、プロトコルの分散化を図ることが多くあります。この分散化は通常、ガバナンストークンの発行、分散型ガバナンスプロトコル(DAO)の立ち上げ、プロトコル上の制御の付与によって達成されます。
この分散化プロセスは、多くの異なる構造とエンティティ形式を含むことができます。例えば、多くのDAOは関連する法的実体を持たず、デジタル世界でのみ機能し、DAOの指示で動作するマルチ署名(マルチシグ)ウォレットを使用しています。場合によっては、DAOの指示のもとで、プロトコルの将来の開発を監督するために非営利財団が設立されることもあります。ほぼ全ての場合において、オリジナルの開発チームは、プロトコルによって生み出されるエコシステムへの貢献者の一人として、補足的な製品やサービスを開発するために、活動を続けていくことになります。
ここで、人気のある2つのDeFiの例を紹介します:
MakerDAOは2015年3月にDAOとしてスタートしています。MakerDAOにはステーブルコインDaiが存在し、その目的はユーザーが安定した価値単位で、高速、低コスト、ボーダレス、透明な方法での取引を可能にすることです。これは、商品やサービスの購入、他のDeFiアプリケーションとの連携を通じて機能しています。また、ガバナンストークンとしてMKRも持っています。DAOは、様々なガバナンスの変更や、プロトコルがDAIをミントするために使用する担保比率など、プロトコルの運用に関する特定のパラメータを承認しています。
Uniswapプロトコルは中央集権的な企業によって立ち上げられ、現在はUNIトークン保有者が管理するUniswap DAOが所有し、ガバナンスを担っています。プロトコルの作成者であるUniswap Labsは、Uniswapプロトコルの1つのインターフェースを運営しており、プロトコルのエコシステムに貢献している多くの開発者の1人として機能しています。
では、ここでいうGo-to-Marketとはどのようなものなのでしょうか。
MakerDAOが発行し、統治するステーブルコインであるDaiの例を見てみましょう。MakerDAOのようなステーブルコインの発行者の1つの目標は、金融エコシステムにおいて自社のステーブルコインの利用率を高めることです。そのため、1) 個人・機関投資家向けの取引所への上場、2) ウォレットやアプリケーションへの組み込み、3) 商品やサービスの支払いとしての対応、というのが主な市場参入の動きとなります。現在では、400以上のDai市場があり、数百のプロジェクトに組み込まれ、Coinbase commerceなどの主要なコマースソリューションで支払い方法として受け入れられています。
これは、どのように実現されたのでしょうか?
MakerDAOは当初、より伝統的なビジネス開発チームを通じて、多くの初期のパートナーシップや統合を推進し、これを達成しました。しかし、分散化が進むにつれて、ビジネス開発機能は、成長コアユニット、つまりSubDAOと呼ばれるMakerトークン保有者のサブコミュニティが責任を担うことになりました。また、MakerDAOは分散型であり、そのプロトコルの運用はトラストレス、パーミッションレスであるため、誰でもそのプロトコルを使ってDaiを生成したり購入したりすることができます。また、Daiのコードはオープンソースであるため、開発者はセルフサービス方式でアプリに統合することが可能です。時間が経つにつれて、開発者のためのドキュメントや統合のためのガイドが充実し、プロトコルはよりセルフサービス的になっていき、他のプロジェクトはそれを基にして、規模を拡大することが可能になっていったのです。
DeFi DAOのGo-to-market指標
web3の新規市場参入戦略には、新しい成功測定の手法があります。DeFiアプリの場合、標準的な成功の指標は、前述のトータルバリューロック(TVL)となりす。これは、取引、ステーキング、レンディングなどのためにプロトコルやネットワークを使用している全ての資産を表します。
しかし、TVLは長期的な組織の健全性と成功を測るのには理想的な指標ではありません。新しいDeFiプロトコルはオープンソースのコードをコピーし、高い利回りを提供し、多額の資金流入とTVLを集めることができますが、これは必ずしも持続的ではありません。トレーダーは次のプロジェクトが現れるとすぐに去ってしまうことが多いためです。
したがって、追跡すべき重要な指標は、ユニークトークンホルダー数、コミュニティ参加やセンチメント、開発者の活動といった部分となります。さらに、プロトコルはコンポーザブルであり、相互作用し、構築するようにプログラムすることができるため、ここでのもう一つの重要な指標は統合性となります。統合の数と種類は、そのプロトコルがウォレット、取引所、製品など他のアプリケーションでどのように、どこで使用されているかを追跡するための指標となるのです。
ソーシャル、カルチャー、アート系のDAOにとって、Go-to-marketとは、特定の目的を持ったコミュニティを作り、同じ目的を信じる人々の参加を促すことでそれを有機的に成長させることを意味します。
しかし、これは「単なるグループチャット」であり、例えばKickstarterのような従来のクラウドファンディングと同じではないのでしょうか?
違います。従来のweb2クラウドファンディングのプロジェクトも明確な目的を持っているかもしれませんが、その目的を達成するための手段については、トップダウンでより明確にしなければならないからです。プロジェクトの発起人は通常、集めた資金がどのように使われるかの詳細な内訳、明確なロードマップ、タイムラインの概要を説明します。web3モデルでは、目的が最優先されますが、資金の使い道、ロードマップやスケジュールなどの方法は後から考えることが多いのです。
例えば、ConstitutionDAOの場合の目的は合衆国憲法のコピーの購入であり、Krause Houseの目的はNBAチームの購入とファン管理システムの構築であり、LinksDAOの場合はゴルフ愛好家コミュニティと仮想カントリークラブの作成、PleasrDAOの場合は文化的に重要なアイデアや運動を表すNFTの収集、展示、およびコミュニティへの追加/共有の実行です。
この目的のために集まった見知らぬ人同士によるコミュニティから4700万ドルを集めたConstitutionDAOの場合、全てのプロセスは数週間のうちにまとまり、明確な目的とその特定の目的のためのみの資金集めからスタートしたという経緯があります。ConstitutionDAOには、それ以外のもの、例えば明確なロードマップも実行計画も、その時点ではトークンさえもありませんでした。資金を提供した個人は、その目的に賛同し、コミュニティによって動機づけられ、単に貢献したいと思い、アクティブなコミュニティとしてミームとなったスクロールの絵文字でTwitterを埋め尽くしたのです。
また、Friends with Benefits(FWB)はトークンゲートのソーシャルDAOであり、Web3のクリエイターのためのDiscordグループとしてスタートしました。DAOのメンバーシップを表す$FWBトークンの最低保有条件に加え、メンバー候補は書面での申請によってFWBに申し込む必要があります。コミュニティが成長するにつれて、様々なDiscordチャンネルでつながり、IRLイベントを運営し、やがて自分たちが構築できる製品のひとつがトークンゲートのイベントアプリであることに気づきました。FWBのDAOフレームワークは、分散型ソーシャルグループによる大規模な調整を可能にし、予算の割り当てや、コンテンツの公開からイベント運営に至るまでのプロジェクトの達成を可能にしています。
ソーシャルDAOにおけるGo-to-market指標
DAOの健全性の主要な尺度の1つは、コミュニティの質の高い関与であり、それはDAOが使用する主要なコミュニケーションとガバナンスのプラットフォームを通じて測定することができます。例えば、DAOでは、Discord上の 各チャンネル活動、メンバーの活性化と維持、コミュニティコールへの出席、ガバナンスへの参加、および実際に行われている作業(有料コントリビューターの数)を追跡することができます。
他の測定基準としては、新規の関係構築、またはDAOコミュニティのメンバー間で開発された信頼の測定も挙げられるかもしれません。複数のツールやフレームワークがここに存在していますが、ソーシャルDAOメトリクスはまだ新しい領域であり、この領域が進化していくにつれてより明確な統計や指針が誕生していくでしょう。
ゲームDAO
現在、大半のweb3ゲームは、play-to-earn、play-to-mint、move-to-earnの形式を組み込んだ、web2対応ゲームに酷似したものを提供していますが、2つの重要な違いがあります:
従来型の有料ゲームや無料ゲームに見られる閉鎖的で管理された経済ではなく、オープンかつグローバルなブロックチェーンプラットフォームにネイティブなゲーム内資産を使用していること。
ゲームプレイヤーがステークホルダーとなり、ゲーム自体のガバナンスに対して発言権を持つことができること。
web3ゲームでは、プラットフォーム配信やプレイヤーの紹介、ギルドとの提携を通じる形で、市場参入戦略を構築しています。例えば、Yield Guild Games (YGG)のギルドでは、新規プレイヤーがゲームを始める際に、通常では購入できないようなゲーム資産を貸し出すことで、ゲームへの有利でスムーズな参加を可能にしています。ギルドは、ゲームの質、コミュニティの強さ、ゲーム経済の堅牢性と公平性という3つの要素を考慮して、支援するゲームを選択します。ゲーム、コミュニティ、経済の健全性は、全てが連動して維持されるものでなければなりません。ブロックチェーンベースのゲームの開発者は、所有者であるプレイヤーにインセンティブを与えることで、ゲーム経済全体の成長に貢献しています。
web2と大きく異なるのは、目的とコミュニティがリードするという部分です。例えば、ゲーム「Loot」はNFTの集合体で、それぞれがLootバッグと呼ばれ、アドベンチャーギア・アイテム(例:ドラゴンスキンベルト、怒りのシルク手袋、悟りのアミュレット)などをユニークな組み合わせで持っています。Lootは基本的に、ゲームやプロジェクト、その他の世界を構築するためのプロンプトを提供する基盤として機能し、Lootコミュニティは、分析ツールから派生アート、音楽コレクション、新規クエスト、Lootバッグにインスパイアされたその他のゲームまで、あらゆるものを作り出しています。
ここで重要なのは、Lootはユーザーが殺到するような既存の製品とは異なり、Lootが表現するアイデアと伝承、つまり創造性を歓迎し、トークンを通じてユーザーにインセンティブを与えるオープンで構成可能なネットワークによって成長したという点です。コミュニティが製品を作るのであって、ネットワークがコミュニティを引きつけることを期待して製品を作るのではありません。そのため、ここでの重要な指標は、デリバティブ数であり、これは従来の指標よりもさらに価値があると考えられるでしょう。
web3では、レイヤー1(L1)とは基盤となるブロックチェーンのことを指します。Avalanche、Celo、Ethereum、Solanaなどは全てレイヤー1のブロックチェーンです。これらのブロックチェーンはオープンソースであるため、誰でもその上に構築し、複製や改変を行い、統合することができます。そして、これらのブロックチェーンは、その上に構築されるアプリケーションが増えることで成長します。
また、レイヤー2(L2)とは、既存のレイヤー1の上で動作し、レイヤー1のネットワークが抱えるスケーラビリティの問題を解決するための技術を指します。レイヤー2ソリューションの1つにロールアップがあります。レイヤー2のロールアップは、トランザクションをオフチェーンで「ロールアップ」し、そのデータをブリッジ経由でレイヤー1ネットワークに戻すというものです。レイヤー2のロールアップには、2つの主要なカテゴリが存在します。1つ目のオプティミスティックロールアップは、詐欺の証明によって取引が誠実で詐欺でないと「楽観的(オプティミスティック)に」仮定します。もう1つは、zkロールアップで、「ゼロ知識」証明を使用して判断します。これらのレイヤー2ソリューションの大半はイーサリアム用に開発されています。これらの市場投入の成功指標がこのカテゴリの他のネットワークと類似しているため、ここで説明していきます。
さらに、プロトコルは他のレイヤー1やレイヤー2の上に構築することができ、例えばUniswapプロトコルはEthereum(L1)、Optimism(L2)、Polygon(L2)をサポートすることが可能です。
レイヤー1ブロックチェーン、レイヤー2スケーリングソリューション、そしてこれらの他のプロトコルの成長は、ネットワークが複製された後に変更されるフォークが実行される可能性もあります。例えば、レイヤー1のブロックチェーンであるEthereumはCeloによってフォークされ、レイヤー2のスケーリングソリューションであるOptimismは、NahmiiとMetisによってフォークされました。そして、UniswapはSushiSwapを作るためにフォークされています。これは一見ネガティブな動きに見えるかもしれませんが、ネットワークが持つフォークの数は実際に成功の指標となり得ます。
これらの例と考え方は、トークンを使用した分散型ネットワークの右上のクアドラントに当てはまるものであり、現在のweb3の最も高度な例です。 ただし、その種類によっては、web2 GTM戦略と新しいweb3モデルがかなりの割合で混合されています。
ここでは、市場開拓戦略の開発を開始する際にアプローチの範囲を理解する必要があります。web2 GTMとweb3 GTM戦略を融合させたハイブリッド モデルを見てみましょう。
集中型でトークンなし: web2-web3 ハイブリッド
この左下のクアドラント (トークンのない集中型チーム) に含まれるケースの多くは、ユーザーがweb3インフラストラクチャとプロトコルにアクセスするためのエントリポイントとインターフェイスを提供しています。
このクアドラントでは、特にSaaSとマーケットプレイスの領域で、Web2とWeb3の間でGo-to-market戦略が大きく重複していることがわかります。
ソフトウェア・アズ・ア・サービス(SaaS)
このクアドラントの中には、例えばNode-as-a-Serviceを提供するAlchemyのように、従来のSaaS型ビジネスモデルに従っているケースもあります。これらの組織は、必要なストレージ容量、専用ノードか共有ノードか、月間のリクエスト量などを考慮した上で決定されるさまざまなレベルのサブスクリプション料金を通じて、オンデマンドのインフラを提供しています。
SaaS のビジネスモデルは一般的に、従来型のweb2のGo-To-Marketの動きとインセンティブを必要とし、顧客獲得は、製品主導型とチャネル主導型の戦略の組み合わせで行われます。
製品主導のユーザー獲得は、ユーザーに製品そのものを試してもらうことに重点を置います。例えば、Alchemyのプロダクトの1つであるSupernodeは、Ethereum上で構築されている、独自のインフラを管理したくないあらゆる組織をターゲットにしたEthereum APIです。この場合、顧客は無料ティアまたはフリーミアムモデルでSupernodeを試し、その顧客が他の潜在顧客に製品を薦めることになります。
一方、チャネル主導のユーザー獲得は、異なる顧客タイプ(例えば、公共部門と民間部門の顧客)をセグメント化し、その顧客に対応する営業チームを持つことに重点を置いています。この場合、ある組織は、行政や教育機関などの公共部門の顧客だけに焦点を当てた営業チームを持ち、そのタイプの顧客のニーズを深く理解することになります。
この記事では、web2とweb3のGo-to-market戦略の違いに関する概要説明に焦点を当てていますが、開発者に焦点を当てたアウトリーチや開発者対応(開発者向けドキュメント、イベント、教育など)も、ここでは非常に重要であることに留意してください。
マーケットプレイスおよび取引所
このクアドラントに含まれる組織としては、ピアツーピアのNFTマーケットプレイスOpenSeaや暗号資産の取引所Coinbaseなど、比較的消費者に馴染み深いモデルに傾いています。これらの組織は、取引手数料(通常は取引額の一定割合)に基づいて収益を得ており、これはeBayやAmazonなどの古典的なWeb2マーケットプレイスのビジネスモデルと同様です。
この種の企業にとって、収益の増加は、出品数、各出品物の平均金額、プラットフォームのユーザー数の増加からもたらされます。これらは全て取引量の増加につながり、多様性や市場の流動性などの面でユーザーに利益をもたらします。
ここでの重要な市場開拓の動きは、他のプラットフォームと提携し、アイテムのセレクションを表示することで、チャネル・ディストリビューションを増やすことです。これは、ブロガーが自分の好きな商品にリンクを張り、そのリンクを通じて購入されるとブロガーに手数料が入るというAmazonのアフィリエイトプログラムに似ています。しかし、web2との大きな違いは、web3の仕組みでは、アフィリエイト報酬に加えて、クリエイターにロイヤリティを還元することができる点です。例えば、OpenSeaでは、ホワイトレーベルというプログラムを通じて、従来のアフィリエイトの販売経路を提供しており、紹介リンクから購入されると、その売上の一部がアフィリエイターに支払われますが、二次的な売上があった場合には、クリエイターが引き続き一定の割合を得ることができるロイヤリティも認められています。
クリエイターは、二次市場を通じて作品を継続的に収益化する機会があるため、以前はweb2のシステムでは捉えることはおろか、見ることもできなかった価値が、市場を継続的に促進するインセンティブとして機能しています。
つまり、クリエイターは、同時にエバンジェリストでもあるのです。
さて、ここまで主要な考え方とユースケースの概要を紹介してきましたが、次にweb3の組織でよく見られる具体的なGo-to-marketの戦術を見てみましょう。これらはweb3分野におけるコア要素であり、この分野に参入し、模索する参加者が戦術とオプションを理解するのに役立ちます。
エアドロップ
エアドロップとは、プロジェクトがユーザーにトークンを配布し、ネットワークやプロトコルのテストなど、プロジェクトが奨励したい特定の行動の報酬とすることを指します。これは、特定のブロックチェーンネットワーク上のすべての既存アドレスに配布することも、ターゲットを絞って配布することもできます(特定の主要なインフルエンサーなど)。多くの場合、コールドスタート問題の解決、つまり早期普及の促進、早期ユーザーの獲得やインセンティブなどに使用されます。
2020年、Uniswapは、プラットフォームを利用したことのある人に400UNIをエアドロップしました。2021年9月には、dYdXがユーザーにDYDXをエアドロップしました。このエアドロップは2021年11月に行われましたが、2021年10月31日以前にENSドメインを所有していた人は、ENSプロトコルに関するガバナンス権を保有する$ENSトークンを請求する資格がありました(2022年5月まで)。
ノンファンジブルトークン(NFT)分野では、より多くの人がアクセスできるようにすることを目的としたエアドロップが人気を集めています。最近の注目すべきエアドロップは、10,000のユニークなNFTを集めた「Bored Ape Yacht Club(BAYC)」のもので、2021年8月28日には対応するMutant Ape Yacht Clubをエアドロップを介して新たに創設しました。BAYCのトークン所有者はそれぞれミュータントの血清を受け取ることで、1万匹の「ミュータント」Apeをミントできるようになったのです。同時に同量の新規ミュータントApeも追加されています。
このMAYCの設立の背景には、「Apeホルダーに全く新しいNFT、つまり彼らのNFTの突然変異バージョンを付与する」という根拠があり、同時に新規参入者を低いメンバーシップティアでBAYCエコシステムに参加させる狙いがありました。これによって、オリジナルセットの独占性を薄めたり、オリジナルオーナーの貢献が格下げされたように感じさせることなく、コミュニティの拡大が可能になったのです。MAYCのフロアプライス、つまりMAYCの最低表示価格は、BAYCのフロアプライスより常に低くなっていますが、所有者は基本的に同じ特典を受けることができます。
これらのエアドロップは、(ENSのエアドロップと同様に)NFT保有者やネットワーク・プロトコル利用者に報いるために過去に遡及して行われましたが、エアドロップは、特定のプロジェクトの認知度を高め、人々に確認を促すためのGTM手法としても利用できます。ブロックチェーン上では情報が公開されているので、新しいプロジェクトは、例えば特定のマーケットプレイスを使用しているすべてのウォレットや、特定のトークンを保有しているウォレットに対して狙ってエアドロップすることができます。
いずれにせよ、プロジェクトはエアドロップを実施する前に、トークンの全体的な分配や内訳、計画などを明確に打ち出す必要があります。エアドロップが悪用されたり、失敗したりした例はたくさんあります。また、米国ではトークンのエアドロップは有価証券の募集とみなされる可能性があるため、プロジェクトはそのような活動に従事する前に弁護士に相談する必要があります。
デベロッパー・グラント
デベロッパー・グラント(開発者向け助成金)とは、プロトコルの改善に何らかの形で貢献している個人やチームに対して、プロトコル側から支払われる助成金のことです。開発活動はプロトコルの成功に不可欠な部分であるため、DAOの効果的なGTMメカニズムとして機能することができます。開発者向けのグラントプログラム持つプロジェクトやプロトコルの例としては、 Celo、Chainlink、Compound、Ethereum、Uniswapなどが挙げられます。
多くの場合、プロトコルの開発からバグバウンティ、コード監査、コーディング以外の活動まで、あらゆることに対して助成金が与えられます。Compoundには、ビジネス開発や統合に関する助成金もあり、Compoundの利用を拡大する統合に資金を提供しています。例えば、PolkadotとCompoundを統合するための助成金も存在しています。
ミーム
テキストをオーバーレイしたバイラルイメージも、web3におけるGTM戦術の一つです。暗号通貨エコシステムの複雑さと広さ、ソーシャルメディアユーザーの注意力の短さを考えると、ミームによって情報を迅速かつ視覚的に伝えることは有用です。また、ミームは情報密度が高く、帰属意識、コミュニティ、好意などを示すものとしても機能します。
NFTのプロジェクト「Pudgy Penguins」は、8,888羽のペンギンを集めたコレクションで、そのミーム性がきっかけで始まりました。一次販売では20分で完売し、大手メディアにも取り上げられるなど話題になりました。PFP(プロフィールピクチャ)コレクションのソーシャルディスプレイとコミュニティ要素(web3では、NFTがソーシャルメディア上のオーナーのプロフィールピクチャとして表示できる)も、このバイラリティを可能にする要素です。Twitterは最近、OpenSeaのAPIにリンクした六角形のプロフィール写真で、NFTの所有権を証明できる機能を展開しました。
ソーシャルメディアで多くのフォロワーを持つオーナーは、プロフィール写真をそのプロジェクトのものに変えることで、そのプロジェクトの認知度向上に貢献することができます。このような動きは、Crypto Covensや「web2 me vs web3 me」というミームのように、他のミームを派生させることもあります。
では、こうしたことはweb3プロジェクトの創設者にとって何を意味するのでしょうか?
最も大きな考え方の転換は、綿密な計画から、より園芸の管理に近いものへと移行することです。
既存のweb2組織では、創業者はトップダウンのビジョンを設定するだけでなく、チームを成長させ、そのビジョンに対して計画・実行する責任を負っています。web3では、創業者は庭師のような役割を担い、成功する可能性のある製品を栽培し、育てると同時に、全てが実現するために必要な状況を設定し、準備します。組織の目的や初期のガバナンス構造を設定することはできますが、ガバナンス構造そのものが、創業者の新しい役割につながるかもしれません。創業者は、貢献者数の増加や収益性の最適化に取り組む代わりに、プロトコルの使用状況やコミュニティの質の最適化に重きをおくことになります。また、創業者は、分散化によって階層的な権力構造の存在しない、プロジェクトの成功を支える多くのアクターの一人となる環境に適応しなければなりません。そのため、創業者は、分権に向けた委譲を行う前に、そのような環境下でプロジェクトを成功させていくための準備を確実に行っておく必要があります。
現在Amazon傘下にあるeコマース企業Zappos.comの前CEO Tony Hsieh氏のチーフスタッフは、このようなことを直接目撃しました。同社は2014年から「ホラクラシー」と呼ばれる自己組織的な管理システムを含め、より分散化された(トップダウンでない)ガバナンス構造を実験的に導入しました。ホラクラシーは、人の階層ではなく、仕事の階層を伴うもので、その結果はまちまちでした。しかし、Hsieh氏は自分の役割を、最高の植物になるのではなく、(ホラクラシーモデルにおける)その植物の温室の設計者であるという有益な比喩を提供しました。彼は、自分の役割は、他の全ての植物が繁栄し、成長できるように適切な条件を設定するにあるとしたのです。
また、ソーシャルDAOプロジェクトFriends with Benefits(FWB)の創設者であるAlex Zhang氏は、彼の仕事は「トップダウンのビジョンを設定すること」ではなく「コミュニティメンバーが承認し、その上に構築する枠組み、許可、規制の作成を促進することにある」と述べています。web2リーダーであれば、ロードマップの更新や新製品の立ち上げに注力するところですが、彼は、トップダウンのビルダーというよりも、むしろ庭師に近いと考えているのです。彼の役割は、FWBのDiscordチャンネルを監視し、牽引力の弱いチャンネルを引退させ、勢いのあるチャンネルのサポートと成長を支援することで、それをキュレーションすることにあるとしています。これらのチャンネルのフレームワーク、そしてチャンネルを成功させるためのプレイブック(活動の組み合わせ、明確なリーダーシップ、ガバナンス構造など)を作ることで、Zhangは教育者、コミュニケーターとしての役割を担っているのです。
NFTプロジェクトの創設者の場合、彼らの役割は主に知的財産(IP)の創始者と一時的なスチュワードとなります。Bored Ape Yacht Clubの開発組織であるYuga Labsは、「私たちは、ますます分散化する過程にあるIPの一時的なスチュワードであると考えています。私たちの野望は、これが世界クラスのゲーム、イベント、ストリートウェアに触手を伸ばす、コミュニティが所有するブランドになることです。」と記しています。NFTを所有することは、それが画像であれ、ビデオやサウンドクリップであれ、あるいは他の形態であれ、NFTに関連する全ての所有権を所有者に付与することを意味します。NFTが売買されることで、その所有権は移転し、NFTを中心としたエコシステムが成長するにつれて、その利益はNFTプロジェクトの創設チームだけでなく、NFTの所有者にももたらされるのです。
NFTの所有権は、(従来のIPフランチャイズとは異なり)コミュニティ主導のライセンシングとコミュニティ主導のコンテンツにもなり得ます。例えば、BAYCコレクション(特にApe #1798)のNFTアバターであるJenkins The Valetは、Creative Artists Agency(CAA)と契約し、様々なメディアで表現されるように派生を続けています。Jenkinsは、Ape#1798を所有するTally Labsによって制作されました。Tally Labsは、この猿に独自のブランドとバックストーリーを持たせ、NFTの統計的な希少性がその価格と成功を決定付ける主な要因であるという概念を覆すことを決定しました。そして、「ライターズルーム(作家の部屋)」と呼ばれるNFTを通じて、Jenkinsにまつわるコンテンツ作りに参加する方法を生み出しました。例えば、コミュニティメンバーはJenkinsを主人公とした本のストーリーの設定に投票することで、コミュニティ主導の小説の作成に作者の一人として参加できます。
ここでは、さらに多くのことが可能です。暗号や分散化技術、web3モデルを受け入れる人が増えるにつれて、さらにどんなことが可能になるかは、まだ全てが明確になっているわけではありません。従来のweb2のGTMフレームワークは有用な参考資料であり、役に立つプレイブックを提供しています。しかし、それらはweb3組織で利用できる多くのフレームワークのうちのほんの一部に過ぎません。覚えておくべき重要な違いは、web2とweb3の目標、成長、成功の指標は同じではないことが多いということです。
構築者は、明確な目的からスタートし、その目的に沿ってコミュニティを成長させ、成長戦略とコミュニティのインセンティブ、そしてそれに伴う市場参入のモーションを合致させる必要があります。私たちa16zは、様々なモデルが出現することを期待しています。
この記事を監修してくださったJustin Paine氏、Porter Smith氏、Miles Jennings氏に感謝します。
日本語版作成: Takeshi@Think Globally, Act Locally