慢性的な炎症が原因で発生するとされる大腸がん。
イギリス医師会誌(BMJジャーナル)にて発表された新たな研究によって、この炎症は、特に不健康な油脂を多く含む超加工食品の摂取と深く関連している可能性があることが明らかになりました。
これにより、日常の食生活ががんリスクにどのような影響を与えるのかについて、より深い洞察が得られています。
本記事では、研究の内容とともに、炎症に関係が深い“脂肪酸”についてまとめていきます。
参考記事)
・https://gut.bmj.com/content/early/2024/11/26/gutjnl-2024-332535(2024/12/20)
参考研究)
世界保健機関(WHO)の統計によれば、大腸がんは世界で3番目に多いがんであり、がんによる死亡原因としては2番目に位置しています。
主に50歳以上の人々が罹患していますが、近年では若年層(40代以下)においても診断例が増加しています。
これは遺伝的な要因だけでなく、生活習慣や食事内容が重要な影響を与えることが確認されており、その関係性の解明が医学界での大きな課題となっています。
本研究は、そんな大腸がんと食事の内容を解明すべく、南フロリダ大学が行ったものです。
研究の前に、前提としてがんと炎症についてのメカニズムについてまとめます。
大腸がんは、腫瘍の発生メカニズムにおいて「炎症」が中心的な役割を果たします。
体が自然に持つ炎症のプロセスとその機能がうまく働かなくなると、免疫システムが抑制され、細胞が過剰に増殖しがんが発生します。
ここで抑えておけば良い事柄は以下の二つです。
• 慢性的な炎症: がん性腫瘍は「治らない慢性の傷」と例えられるほど、持続的な炎症により形成される
• 免疫の抑制: 超加工食品の摂取により、炎症が加速し、免疫機能が低下することで、腫瘍細胞(がん細胞)の増殖が促進される
高度に加工された食品には、炎症を引き起こす要因が多く含まれています。
その要因として、主に以下の点が挙げられます。
1. オメガ6脂肪酸の過剰摂取
• 植物油(キャノーラ油、ひまわり油、コーン油など)に多く含まれるリノール酸が体内でアラキドン酸に代謝されます。
アラキドン酸は炎症を引き起こす主要な分子の一つです。
• オメガ6脂肪酸が多い食生活は慢性炎症や大腸がんと強い相関を持っています。
2. バイオアクティブ脂質の欠如
• 自然食品に含まれるオメガ3脂肪酸は、炎症を解消するバイオアクティブ脂質に代謝されます。
しかし、超加工食品はこれらの脂質を欠いており、逆に炎症を促進する傾向があります。
3. 食物繊維の不足
• 食物繊維は腸内の健康維持に重要ですが、加工食品ではほとんど取り除かれています。
この欠如は腸内環境の悪化を招き、炎症リスクを高めます。
以上を前提に研究について見ていきます。
研究では、腫瘍内の脂質バランスが大腸がんに与える影響が詳細に分析されました。
液体クロマトグラフィーとタンデム質量分析(LC-MS/MS)を使用し、81人のがん患者の腫瘍内脂質と、健康な人々の腸内粘膜を比較したところ、がん性腫瘍には、アラキドン酸由来の炎症促進分子が豊富に含まれ、炎症を解消する分子がほとんど存在しないことがわかりました。
また、炎症を制御するための脂質が不十分または機能不全であり、これががんの進行に寄与していると考えられます。
研究者たちは、この炎症バランスを回復させるための食事改善を提案しています。
オメガ6脂肪酸が豊富な西洋食は、慢性炎症をはじめ大腸がん(結腸がん・直腸がん)の発達と進行に強く関連しているため、ピザや揚げ物、お菓子(ポテトチップス)などの油(脂)分を控えることが大切です。
リノレン酸をはじめ、オメガ3が豊富な食事は抗炎症作用を持つことが提案されています
推奨摂取量は性別や年齢によって変化しますが、成人男性(30代)のオメガ3脂肪酸の目安摂取量は、およそ1.6〜2.2グラムとされています。(厚生労働省 より)
サバ100グラムに含まれるオメガ3脂肪酸(DHAやDPA)が2.2グラム程度なので、サバ缶(正味150グラム)でも推奨量オーバーのようです。
オメガ3脂肪酸の摂取についての上限は設定されていませんが、過剰に摂りすぎると免疫異常によってアレルギーや炎症を引き起こしてしまうことが分かっているため、普段意識せずに食べている場合はほとんど過剰となっていると考えていいでしょう。
以下にオメガ3、オメガ6、オメガ9脂肪酸それぞれの特徴と、過剰摂取時の主なリスクをまとめます。
【オメガ3脂肪酸(目安摂取量1.6~2.2グラム)】
効果
• 抗炎症作用
• 心血管疾患リスクの低下
• 脳機能の改善(記憶力や集中力向上)
• 目の健康維持
過剰摂取の害
• 出血リスクの増加(血液が固まりにくくなる)
• 胃腸障害(下痢や吐き気)
• 免疫力低下
【オメガ6脂肪酸(目安摂取量12~17グラム)】
効果
• 肌や髪の健康維持
• 血糖値の調整
• 免疫機能のサポート
過剰摂取の害
• 炎症促進(摂取バランスが悪い場合)
• 心血管疾患リスクの増加(オメガ3との比率が重要)
【オメガ9脂肪酸(目安摂取量=設定なし)】
効果
• LDL(悪玉コレステロール)の低下
• HDL(善玉コレステロール)の増加
• インスリン感受性の向上
過剰摂取の害
• 肥満、高血圧、高脂血症
• 冠動脈疾患
バランスの目安
• オメガ3とオメガ6の比率を1:4以下に保つのが理想的です。
研究を主導したTimothy Yeatman氏は、「人間の免疫システムは非常に強力で、腫瘍の微小環境に大きな影響を与える可能性がある。正しく活用すれば健康に役立つが、加工食品由来の炎症性脂質によって抑制される」と述べ、加工食品の危険性について言及しています。
また、患者にオメガ3脂肪酸や魚油由来の「特異的炎症解消メディエーター(SPMs)」が豊富な未加工食品を摂取させることで、腫瘍を燃料とする慢性炎症から身体を解放する手助けができるかもしれません。
腫瘍微小環境(がん細胞を取り巻く環境)の免疫系を開拓することで、大腸がんの治療法が開発される可能性があります。
さらに研究が進めば他の腫瘍タイプにも応用できる可能性があるため、今後の研究に期待がもたれます。
・超加工食品の摂取によるオメガ6脂肪酸の過剰とバイオアクティブ脂質の欠如が、大腸がんの慢性炎症を悪化させる
・大腸がんの腫瘍には炎症促進分子が豊富で、炎症を解消する分子が不足していることが確認された
・オメガ3脂肪酸を豊富に含む未加工食品の摂取が炎症を抑え、がん治療に役立つ可能性がある
本文では、サバを例にオメガ3脂肪酸の量を紹介しましたが、日本人の主食であるお米には以下の量の油が含まれているようです。(Dietary Neurotransmitters: A Narrative Review on Current Knowledge より)
・玄米
リノール酸(オメガ6脂肪酸): 約1.1グラム
オレイン酸(オメガ9脂肪酸): 約0.4グラム
リノレン酸(オメガ3脂肪酸): 約0.02グラム
・白米
リノール酸: 約0.1グラム
オレイン酸: 約0.05グラム
リノレン酸: 極微量
こう考えると、推奨基準に無理があるような気がします。
とは言え、油の過剰と病気との関連性が示唆されている研究は多いため、油を控えるという考え方は必要だと感じます。