最近、海底に溜まるプラスチックゴミやマイクロプラスチックが与える影響など、環境や生物とプラスチックに関係する話題が散見され、研究においてもそういった分野に注目が集まっています。
人間の健康に大きく関わってくる要素になるので、個人的にもそういった研究報告については優先的に目を通しています。
今回もそんな、マイクロプラスチックと人間の健康に関する研究のまとめです。
血管のプラークにマイクロプラスチックが見られた患者は、その後の死亡率との相関性が見られたようです。
参考記事)
・Plastic Found Inside More Than 50% of Plaques From Clogged Arteries(2024/03/08)
参考研究)
・Microplastics and Nanoplastics in Atheromas and Cardiovascular Events(2024/03/07)
ナポリのカンパニア大学では、血管中のプラークにプラスチック(マイクロプラスチックおよびナノプラスチック)が存在する患者の間とそうでない患者で、脳卒中や心臓発作、死亡のリスクがどのように相関しているのかについて研究を行いました。
研究では、血管のプラーク除去を行った257人の患者を対象に、およそ34か月間の追跡調査を行いました。
その結果、患者の約60%が動脈から採取されたプラーク中に測定可能な量のプラスチック(ポリエチレン)が存在し、その内12%にポリ塩化ビニル(PVC)も存在していることを発見しました。
また、34か月後に脳卒中、非致死性の心臓発作を起こすか、何らかの原因で死亡する可能性が4.5倍ほど高かったことも分かっています。
カンパニア大学の医学研究者ラファエレ・マーフェラ氏は、「この観察データは、ポリ塩化ビニルなどのプラスチックに曝露された人々において、心血管疾患のリスクが一般集団よりも高いことを示唆している」と述べています。
小さな粒子であるマイクロプラスチックやナノプラスチックは、熱分解ガスクロマトグラフィー質量分析法や大型の顕微鏡を使って測定され、マクロファージと呼ばれる免疫細胞内や脂肪斑内にギザギザのプラスチックの破片が観察されました。
組織サンプルを検査したところ、チームはプラーク内にマイクロプラスチックを有する患者の炎症マーカーのレベルが高いことも発見しました。
ただし、あくまで相関性が見られたという結果であるため、これらのマイクロプラスチックが心臓に対して直接影響を及ぼしているとは言い切れないこと注意が必要です。
また、この研究では、喫煙、運動不足、大気汚染などの心血管疾患に関係する危険因子は考慮されていません。
しかし、過去の研究結果から、マイクロプラスチックが人の血流を流れていることが発見されていたため、研究者らは心臓への影響について懸念していました。
マウスを対象とした研究では、マイクロプラスチックが心臓細胞の炎症や酸化ストレスを引き起こすことや、心臓の機能を損ない、心拍数を変化させ、心臓に瘢痕化(創傷や潰瘍などによる組織の欠損が、肉芽組織の形成を経て修復された状態)を引き起こす可能性があることが示唆されています。
ボストン大学の小児科医、公衆衛生医、疫学者のフィリップ・J・ランドリガン氏は「この研究では、どのようなメカニズムで患者に害を及ぼしたのかは分からないが、プラーク組織中のマイクロプラスチックとナノプラスチックの発見自体が画期的な発見であり、それをどのように減らすかなど新たな研究の助けになるだろう」と述べています。
ここ数十年でプラスチックの生産は爆発的に増えましたが世界の一部の地域では心血管疾患の発症率が低下しているため、この関係を理解するにはさらなる研究が必要としています。
この研究の詳細は、New England Journal of Medicineにて確認することができます。