メスがオスを選択することによる性淘汰について主張したダーウィン。
特に鳥類においてその傾向が多くあることから、『人間の由来と性に関する淘汰(The descent of man and selection in relation to sex)』では、鳥類の章も昆虫同様に細かく分析しています。
中でも、きらびやかなオスと地味な色彩のメスとがよく分かる“クジャク”は性淘汰の良い研究対象となっており、現在でも研究の的です。
ダーウィンものこの不思議な鳥類を研究対象にしていましたが、同じくらい彼を惹きつけた鳥が“セイラン”です。
セイランはクジャクと同じくキジ科に属しており、マレー半島、スマトラ島、ボルネオ島に生息する絶滅危惧種の鳥です。
オスは長い尾羽や風切羽、青い皮膚が特徴的で、全長1.9mほどになります。
一方、メスにはオスのような長い尾羽や風切羽がなくやや地味で、全長も70㎝ほどです。
そんなセイランの特徴は、なんと言ってもオスの求愛行動です。
メスを囲むように羽を広げたオスが、羽の綺麗さを見せつけるようにダンスをします。
広げた羽には目玉模様が規則的に並んでていて、人間の目からは真珠が浮き出ているかのように立体的に見えます。
「セイラン 求愛行動」で検索してみると、その様子が分かる動画を得ることができるので、気になる方はその目で確かめてみてください!
さて、ダーウィンがこの鳥に注目した理由は、その芸術的な羽に比べて、頭部飾りが発達していなかったからです。
極近い種のキジ科であるクジャク(オス)は、羽の優美さに比例するように頭部の飾りも豪華なように見えます。
しかしセイランのオスはそうではありませんでした。
この謎を解くヒントをくれたのは、かつて進化論を共同で発表したアルフレッド・ウォレスでした。(参照:【チャールズ・ダーウィンの歴史⑭】先を越される進化論)
ウォレスも大陸や島を旅し、現地の生物を観察したことで進化に辿りついた人物です。
ダーウィン同様、種の枝分かれやマルサスの人口論など、進化論に共通する概念を持っており、二人は手紙で進化についての議論を盛んに交わしていました。
ウォレスは、「セイランが求愛するとき、オスは広げた羽によって頭が隠れてしまう」ということを指摘しました。
つまり、オスの頭はメスから隠れてしまうため、クジャクのような特別な飾りなどを持つように進化しなかったという説明がつきます。
しかしウォレスは、ダーウィンが唱える性淘汰を支持していませんでした。
ダーウィンは、メスがオスの美しさを選別することを前提に性淘汰を説明していますが、ウォレスは人間のような知能を持たない生き物に審美眼があることを否定していました。
そのためウォレスは、性淘汰を必要としない説明を求めました。
その結論として「メスは、天敵から逃れるために色が地味になり、オスとの差が生まれた」ということを主張しました。
こういったことからウォレスは『種の起源』で提唱された自然淘汰説(自然選択説)は肯定的でしたが、『人間の由来と性に関する淘汰』による性淘汰は否定的だったのです。
性淘汰が発表されてからおよそ150年が経った現代、見た目が派手な種類の鳥類のオスは性淘汰によるものと考えられています。
対してメスが地味な理由は、天敵から逃れるという自然淘汰の原理が働いたものとされています。
それぞれの理論が独立したものと考えると説明がしにくいですが、ダーウィンとウォレスの主張を合わせてみると違和感なく理論が成立するようです。
結局、ダーウィンが生きてるうちに性淘汰に関する議論に折り合いはつきませんでした。
しかし、生物の長き歴史を解き明かそうとした二人が、進化論を意欲的に発展させたことは事実です。