断食は、良くも悪くも人体に影響を与えることがこれまでの研究で明らかになってきました。
一方では長寿遺伝子の活性化を、もう一方では早期死亡リスクの増加を……。
試験管の中での細胞による実験、マウスや線虫による実験、人間の長期的な観察による分析などなど…、研究の仕方によって見解が分かれることが多く、まだまだ未知なことが多い分野です。
今回紹介する研究テーマも、そんな断食についての効果を分析した内容です。
参考記事)
・Fasting-Style Diet Seems to Result in Dynamic Changes to Human Brain(2024/04/08)
参考研究)
・Dynamical alterations of brain function and gut microbiome in weight loss(2023/12/20)
中国の第二医療センターおよび国立老年病臨床研究センターによる研究では、断食を伴う断続的な食事制限(Intermittent Energy Restriction)が、人間の脳や腸に影響を与えることを示したと報告しています。
研究では肥満に分類される参加者を対象に、個別に設定された食事プログラムを実施。
体重や腸内の変化を分析しました。
食事プログラムは以下の通り行われました。
【食事制限(IER)の内容】
・対象
肥満と分類された25人のボランティア
・フェーズI
被験者は4日間、カロリーや食品の種類を制限せずに通常の食事をする
4日間の食事から各被験者の1日の平均エネルギー摂取量を定義する
・フェーズII(食事の制限スタート)
被験者ははじめの32日間(ステージ1、2、3、4の各8日ずつ)、それぞれの基本エネルギー摂取量の2/3、1/2、1/3、1/4が与えられる
患者は、自宅で他のすべての無制限のエネルギー摂取日に制限なく独立して食べた
・フェーズIII
次の30日間、特別な食事は参加者に提供されない
彼らは自宅でエネルギー制限(男性の場合は600Kcal/日、女性の場合は500Kcal/日)が決められ、55%の炭水化物、15%のタンパク質、30%の脂肪で構成された食事のリストを与えられ、一日中おきにリストの食事を行うよう指示される
・計62日間の食事コントロールにてプログラムが完了
・途中、糞便と血液サンプルを採取し分析を行う
機能的磁気共鳴画像法(fMRI)スキャンによって脳の活動領域を分析したところ、下前頭眼窩回など、食欲と依存症の調節の領域の活動に変化が見られたことが分かりました。
さらに、便サンプルと血液測定によって分析された腸内微生物叢の変化は、特定の脳領域と関連していました。
例として、腸内細菌のCoprococcusとAnaerobutyricum halliiは、食物の摂取に関する行動をコントロールする領域である左下前頭眼窩回の活動と負の相関がありました。
これらの結果から、被験者は平均して体重の7.8%に相当する7.6kgの減少がみられ、脳の肥満に関連する領域の活動に変化が見られたことがわかりました。
また、腸内細菌の変化も見られたことから、脳の活動領域の変化はこれら腸内環境の変化に伴ったものと推測されています。
中国の第二医療センターおよび国立老年病臨床研究センターの健康研究者Qiang Zeng氏は、「今回、IER食が人間の脳・腸・マイクロバイオームの状態を変えることを示した。減量中および減量後の腸内微生物叢と脳領域の活動の変化と関連がみられ、時間の経過とともに連動していることが分かった」と述べています。
現時点では、こうした変化の原因が何なのか、腸が脳にどのように影響を与えているのかは明らかではありません。
しかし、腸と脳が密接に関係していることは分かっているため、食べ物をコントロールすることは、脳の特定の領域の治療に有効である可能性があるとしています。
現在、世界中でおよそ10億人以上の人が肥満とされており、この肥満ががんや心臓病をはじめ様々な健康上のリスク増加に繋がっています。
私たちの脳と腸がどう相互に関係しているかを知ることは、肥満の予防と軽減に効果的な手段を発見する可能性があります。
Liming Wang氏は、「次に解き明かすべき謎は、減量時の腸内微生物叢と脳がどのようなメカニズムで影響し合っているのかということだ」と述べ、研究の発展に期待を寄せています。
この研究の詳細は、Frontiers in Cellular and Infection Microbiologyにて確認することができます。