シェーレとプリーストリーらによって発見された酸素は、生物のエネルギー生産に欠かせない元素として有名です。
かつては猛毒として原始的な生命の命を奪ってきたこの元素は、光合成を行う細菌や藻類(シアノバクテリアなど)の生物が現れたことで大気中に激増。
今では空気の構成要素の約21%を占め、私達生物の体内では食物を熱エネルギーに変換するなど生命活動に欠かせない役割を担っています。
今回はそんな酸素についての新しい姿の発見についてのお話です。
参考記事)
・Scientists Have Observed a Never-Before-Seen Form of Oxygen(2023/08/31)
参考研究)
・First observation of 28O(2023/08/30)
2023年08月30日、東京工業大学の研究者らは科学研究のデータベース"nature”にて、これまで我々が見たことのない2つの酸素同位体、酸素27と酸素28を発見したと発表しました。
原子核には陽子と中性子からなる核子と呼ばれる素粒子が含まれています。
元素の原子番号は"陽子(proton)の数”によって決まりますが、中性子(neutron)の数は変化することができます。
水素であれば、陽子(p)が1と電子(e)が1で釣り合い、中性子(n)が0のものが我々が良く知る水素。
pが1、eが1で釣り合い、そこにnが1つ増えたものが重水素(deuterium:デューテリウム)。
pが1、eが1で釣り合い、そこにnが2つ増えたものが三重水素(tritium:トリチウム)ですね。
同様に酸素も同位体を作ることができます。
私たち身近な酸素同位体は¹⁶Oと呼ばれ、存在比は99.762%です。
その他の同位体として存在比が0.038%の¹⁷Oや、存在比が0.200%¹⁸Oがあります。
酸素においてこれまでに観測された最大の中性子数は18であり、酸素同位体²⁶Oが最大でした。
今回、東京工業大学の研究では、その最大値を越える²⁷Oと²⁸Oを発見するに至りました。
研究は、不安定同位体を生成するために設計されたサイクロトロン加速器施設である理化学研究所放射性同位元素ビームファクトリーで行われました。
研究チームは、陽子9個と中性子20個を持つフッ素の同位体であるフッ素29を含むカルシウム48の同位体ビームをベリリウム標的に発射しました。
その勢いでフッ素29を分離させ、液体水素ターゲットに衝突させて陽子を1個飛ばすことで酸素28を作ろうと試みました。
この実験は成功し、酸素24と3~4個の中性子に崩壊するまでのほんの一瞬の間に存在する酸素27も酸素28を観測することができました。
酸素28は、酸素16の次の酸素同位体として長い間期待されていたが、過去に発見された試みは失敗に終わっていました。
それまで酸素の原子核は、16の中性子が埋まることで中性子の殻が閉殻するとされていました。
それが今回の実験によって20の中性子が入ることが分かり、中性子の殻が埋まっていなかったことが示唆されました。
20個の中性子の殻が閉じない現象はネオン、ナトリウム、マグネシウムなどでも確認されています。
この閉じない中性子殻を研究することで、酸素28の他の生成方法も明らかになるかもしれませんが、非常に困難ともされています。
しかしこの研究は、新たな原子の振る舞いや状態を発見する可能性を広げるものであり、さらなる同位体の発見が期待されています。