それはある夏の昼下がり。
MALISは巨大なラム肉と奮闘していた。
「それひっくり返して!」
わかってる、けど私の手先はそう器用じゃない。
ついでに握力もない。
トングで肉、つかめねーよ。
ここはマンハッタンのミッドタウン地区にあるマンションの一室。中には10人弱の女性がエプロン姿で集っている。
そう、MALISはお料理教室に来ているのだ。
異常に料理センスのないMALISだが、料理自体が嫌いというわけではない。1回くらいニューヨークのお料理教室にでも行ってみるか!そんな軽い気持ちで参加してみたのだ。
が、慣れない道具に困惑の連続だ。
「交代しよっかー?」
え?
ええ! お願いします!!
結局、ラム肉は綺麗なお姉さんが焼いてくれた。
「ねえ、せっかくだからお茶しない?」
ラム肉お姉さんが話しかけてくる。
みんなさっさと帰ったのか、気が付けば教室内にはMALISを含め3人しか残っていない。何か学びはあったかと聞かれると困るところだが、肉はおいしかった。いいお料理教室だったといえるだろう。
「この近くに素敵なカフェがあるの」
日本人の友達ほしかったしね。
行ってみようかな。
ラム肉の人はアッパーイースト在住の富豪だった。
何せハンプトン(ニューヨークの高級エリア)にある別荘にヘリコプターで行くらしい。日本だと高須クリ〇ックくらいしか聞いたことがない。
本当は別荘を本宅にしたいが、仕事の関係でマンハッタンにいるのだとか。夫婦ともに金融関係、実家もお金持ち。もうそろそろ引退かなーってやつだ。
「すごーい!ペントハウスに住んでいる人、はじめて会いました!」
かわいらしい声で称賛するのは、アッパーウェスト地区在住の女性。ニューヨークではおおよそ見ない、ふんわりスカートにボレロカーディガンのコーデ。日本人の格好はガーリーすぎるとはよく聞くが、確かにこの格好、小学生くらいの子ども以外で見たことないな。。。
って、US OPENのTシャツにユニクロの短パンで参戦している私に言われたくはないだろう。お料理教室、汚れるかと思ってカジュアルで来たのに、みんなおしゃれしてて焦ったからな。
「あ、私、ひとみって言います。夫は日系商社勤務です」
駐妻といっても、みんながみんなヨガに勤しみお茶会でディスりあい海外すげーブログ書いているわけではない。あれはバイアスだ。
とはいえ典型的駐妻は存在する。だから、見分けるコツを伝授しよう。
名前の次に、夫の職業を述べるーー。
これはガチモンだ。
「このお茶はね、少しミルクを入れたほうが美味しいのよ」
富豪が教えてくださる。
煌びやかなティーサロンの内装。
他愛もない会話を繰り広げる女3人。
当時のMALISは、図書館で「WhichとThatって何が違うの?ねぇ!?」と深夜まで泣き叫ぶ英語暗黒時代にいた。因みに今でもよく分かっていない。
そんな私に素敵なお茶会タイム。
楽しい!日本語最高!
ひとみさんはニューヨークにきて2年弱。英語もあまり得意でなく、駐妻コミュニティで苦労しているとのこと。
「最初はよくホームパーティしてたんですけど、段々疎遠になっちゃって」
そういうもんだよねー、と一同うなずく。
「あ、もうこんな時間!私ちょっとアポ入ってて」
富豪が切り出す。
わかりましたーまた集まりましょうねー、にこやかに手をふり解散。ここでハグをしないのが日本人と集まった時の微妙な距離感で、何とも言えず好き。
最寄りの地下鉄まで、ひとみさんと話をしながら歩く。今週は夫が出張に出ていて時間があるらしい。
「私のお友達も誘うから、ご飯行きません?」
ええ、もちろん! 明後日なら学校もないですし行けます!
こうしてMALISの楽しい日系コミュニティ入りが始まった。
、、、かのように見えたその夜、
LINEメッセージが届く。
ひとみさんからだ。
(次へ)
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません
<今日の舞台>
「Afternoon Tea at The Whitby Hotel」
少しエキゾチックさ漂う美しい空間で、かわいらしいアフタヌーンティがいただけるミッドタウンの穴場的ティールーム。お料理も提供している。
住所:18 W 56th Street, NY 10019
MALIS
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