これ、どこから入ればいいの?
大学図書館を前にして立ち止まる。
毎日通っている場所だ、道がわからないわけじゃない。
近づけないのだ。
見慣れた入り口は、デモ運動をする学生たちで占拠されていた。
(前の話:衆愚の王に虐げられて)
当選前から、そして当選後も、トランプ政権への反対デモは続いた。
街を歩けばデモにぶち当たる、そんな日が続く。
無理もない。
赤い男が政権に就いて以降、街の空気は明らかに変わった。特に政権発足と同時に「狙い撃ち」になったイスラム教徒たち。中東出身の学生の中には、悪質な嫌がらせや脅迫を受けた者もいた。
イスラム系学生によるクラブでは、部室に人種差別的な落書きが見つかり、部員たちは恐怖に陥った。
こんなの間違ってるーー。
皆なんとかしたいのだ。デモを行うことで、安心してほしい、味方はいると伝えたい、赤い男は倒れるべきだと叫びたい。
今こそ立ち上がるべきなんだと。
「私は若い世代に希望を持っているよ」
カンファレンスでお会いした政策専門家がおっしゃっていた。今のアメリカの若者は、経済的な成功よりも社会的な貢献を目指すと。世界を変えるために何ができるか、本気で考えている彼らがいる。
だから、あと数年すればーー。
確かに。
私の周りの学生も社会貢献に熱心だ。
デモにボランティア、NGOでの活動。彼らを見ていると、アメリカの未来は安心だって信じられる。
でもさ、
彼らは選挙に行かなかったんだよね。
「少なくとも2期はないよ」
「すぐにでも弾劾されるさ」
そう、誰もがそう思ってたんだ。
あんな大統領に人がついてくるわけがない。セックススキャンダルにロシア疑惑、TPPも破棄だって?赤いチームだって、さすがに望んでいなかったはずだ。
なーんて。
そんなピュアな議員ばかりじゃないよね。
赤い人たちは知っている、赤い男じゃなきゃ勝てなかったって。
赤い人たちは思っている、女の大統領じゃなきゃ誰でもよかったって。
だから、赤い男は救世主だったんだ。方向性を見失い、没落する赤いチームをもう一度ホワイトハウスに導いてくれた。経済だって上向きだ。俺たちの選択は間違っちゃいなかったーー。ほら、大統領選でトランプと戦ってたあいつ、選挙が終わったとたん靴の裏舐めるかのごとく媚びを売り出したよ。
前よりはまし、女よりはまし、、、負けるよりはまし。
ましと思う方を選んでいるうちに、
大切なものを置いてきてしまったんだ。
人は愚かだ。
ニュースの真偽なんかどうでもいい。自国軍の爆撃で子供が死のうが、1セントでも安くガソリンが買えたほうがいいんだ。
赤い男は鏡だ。
陣営の分析よりテレビを信じる。
だって、俺のサポーターはそんな分析見ないだろ?右?左?興味なんかないさ。俺はサポーターに寄り添うだけ。選挙で選ばれたんだから当然だろ?
モニターをたくさん持ってきてくれ。
ずっとテレビをみていたいんだ。
みんなが望む言葉を教えてくれ。
さて、そろそろツイートしてみようか?
ほら、真実ができあがった。
今日も鏡は、愚かな人々を反映する。
絶対に焦点を外さないその男が、
今日もアメリカを映し出す。
それでも、
小さな声が聞こえる
「アメリカは世界のルールを作ってきた国なんだ」
ほんのわずかだけど
「仲間を裏切るのが当然だなんて、そんな国にしないでくれ」
光が差す
「誇りだけは、どうか捨てないで」
この鏡を割るのは、誰だ。
(完)
gaxiiiiiiiiiiiiさんに捧げすぎた!
MALIS