19歳の時。
俺は、バイクが好きで色々な改造に凝っていた。
乗っていたバイクは、250㏄の初代「V-Twin マグナ」というバイク。
1番大掛かりな改造をした場所は、特注で作った部品が付いていた。
それは、バイクのボディーと後輪をつなぐ「スイングアーム」というもの。
これは、バイクの改造車専門の「ホワイトハウス」と言う工場で作った。
この部分を、10㎝伸ばす改造をしていたから、バランスなんて皆無だった。
全長が伸びた分、直進性は良いが、曲がる時に後輪が軽く滑る。
でも、俺はこれでも良かった。
何故なら、バイク性能なんてないも等しいアメリカンバイクだったからだ。
バイクの性能を求めるなら、最初からレーサータイプを買う。
でも俺は、かっこよさ重視で選んだのでこの走りで満足だった。
更に、特注のインディアンフェンダーをつけて、色もシルバーにしていた。
街中で走れば、目立つことこの上ない。
当時の俺は、この目立つことが好きで、バイクを斜め上に改造していった。
ある時、サイドバッグを付けたくて上野のバイク屋に買いに行った。
この時、色々なサイドバッグを見て回ったが気にいる物がなかなかない。
俺のバイクのサイズには、小さくてバランスが取れない物ばかりだった。
しばらく探していると、1つだけ凄く巨大な皮のサイドバッグがあった。
そのサイズは、横幅60㎝、奥行き40㎝、高さ40㎝。
申し分ない大きさだった。
俺は、もう気に入るバッグはこれしかないと思い、即買ってしまった。
値段は、10万円。
凄く高い買い物だったが、それより満足度の方が高かった。
早速自分のバイクに取り付けたら、丁度良い大きさ。
俺は、超ご満悦になり、まるで自分の子供を手に入れた様な喜びに満ちた。
そしてここから更に、変な改造をしまくって行く事になる。
ヘッドライトの横に、大きなホグランプを左右につけたり。
ウィンカーをロケット型に変えたり。
座席のシートを、大きいものに変えたり。
ただ目立つだけの、あほな改造を施していった。
俺は、一通り改造も終わり満足していた。
でも、ふと上野のバイク屋に立ち寄った時、気になるものが目に入った。
それは、ツールバッグ。
しかも、革製のバッグに絵が彫られていた。
皮製品は元々好きだった。
でも、この絵が彫られていたバッグを見たら、猛烈に欲しくなった。
でも、価格は15万円。
キチガイの様に高い。
絵が彫られていないツールバッグは、1万円くらいで買えた。
絵が彫られただけで、こんなにも値段の差がでるなんて、正直驚いた。
このバッグを手に取ってみたら、更に欲しくてたまらなくなってしまった。
このずっしり感、この彫られた絵、この皮の質感。
どれをとっても、最高に感動した。
でも、15万は高くて買えない。
でも欲しいと思いながら、30分くらい眺めてしまった。
俺が永遠このバッグを眺めていたら、店員が話しかけてきた。
そして、そんなに欲しいならローンでも良いよと言ってくれた。
でも、ローンでも高いから断ってしまった。
そして更にしばらく眺めていると、だんだん作りの細部が見えてきた。
確かに作りの細部は細かく作られている。
でも、もしかしたら、これ位自分で作れるのではないかと勘違いし始めた。
試しに作ってみようと決意し、早速皮と道具を手に入れ作る事にした。
しかし、皮と道具は手に入ったが、作り方の本がない。
そして俺は、必死に探してやっと本を手に入れた。
その本を見ながら、たどたどしい手つきで作ってみる。
そして1月位かかり、とうとう完成した。
正直、下手くそだったが、作れた事に大満足だ。
この時、もしかして俺って天才かもしれないと大きな感違いをしていた。
そしてこのバッグをバイクに取り付け愛用する事になる。
俺は、この時から革細工に目覚め、今でも革細工をやっている。
大した金額じゃないが、作って販売したものは全部売れた。
そして俺は、革細工という大きな趣味を手に入れる事が出来た。