9歳の時。
埼玉県の三郷団地に住んでいた。
俺と弟は、母親に連れられて「イトーヨーカドー」に買い物に行ってきた。
弟は、6歳。
「イトーヨーカドー」は、三郷駅の駅ビルだった。
その頃は、まだ新三郷駅は無かった。
三郷駅に行くには、バスを使わないとならなかった。
歩くと30分以上かかる。
子供の足だと、1時間位かかる。
かなり遠い所だった。
俺と弟は「イトーヨーカドー」に行くと、毎回屋上の遊技場で遊んでいた。
そこには、タダで乗れる足こぎのゴーカートがあった。
俺は、いつもここに来ると弟とそれで遊んでいた。
その間に母親が買い物をしてくる。
しばらくすると、母親が迎えに来て帰る事になった。
その帰りに、いつも遊技場にある綿菓子を母親にねだる。
ここには、50円で綿菓子を作れる機械があった。
この綿菓子作り機で、綿菓子を2人分作ってくれた。
しかも、50円の1回で2人分作る。
量は少なかったが、母親は1回で2人分作るのが、お手の物で上手かった。
その綿菓子を食べながら、俺と弟は出口に向かった。
途中、おもちゃ屋の前を通って…。
階段を下りている最中、俺と母親は、弟がいない事に気が付いた。
周りを見渡してもどこにもいない。
どうやら弟は、迷子になってしまったようだ。
俺と母親は、一緒に店内を探し回った。
だけど、どこにもいない。
30分位探し回った後、母親が店内放送で弟を呼び出した。
でも、いつまでたっても弟は見つからない。
1時間位待っても、弟は現れない。
俺と母親は、もしかしたら歩いて家に帰ったのかもしれないと感じた。
そして、我々は急いで家に帰ってみた。
誘拐されてない事を願って…。
そして家に付いたら、弟は家の前で泣いていた。
この時見つかって本当にホッとしたのを覚えている。
弟に事の経緯を聞いてみた。
弟は、帰る途中おもちゃ屋があり、そこに勝手に入ってしまったようだ。
そして気が付いたら、我々が居なくて先に帰ったのかと思ったみたいだ。
その後、弟は歩いて家まで戻って来たと言っていた。
6歳の子供の足で、三郷駅から帰るなんて1時間以上かかる。
俺は、弟を「凄い奴だな」と、感心した。
それから俺は、弟には一目置くようになった。
あの長い距離をまだ6歳の弟が1人で歩いて帰ってくるなんて大した奴だと。
ここの「イトーヨーカドー」のおもちゃ屋には、危険なトラップがあった。
それは、ガラスの存在が解らない程透明なガラス。
このガラスは、おもちゃのショーウィンドウのガラスだった。
俺は7歳の時、このガラスが見えずに突っ込み、頭を強打した。
そして、後方に吹っ飛んだことがある。
弟も5歳の時、このトラップに引っ掛かり、頭を強打して泣いていた。
当然、後方に吹っ飛んでいた。
このガラスは、大人には見えたようだが、なぜか子供には見えなかった。
学校で友達にこの事を話したら、みんなこのトラップに引っ掛かっていた。
子供たちの間では、恐怖の悪魔ガラスとして有名だった。
この悪魔は、子供にしか見えない不思議な悪魔だった。