16歳の時。
湯島にあるコンビニエンススーパー「宇野」と言う所で働いていた。
ここは、家族で経営しているコンビニエンスストアーだった。
フランチャイズではなく、完全な個人経営のお店。
当時の時給は「650円」
物凄く安い。
でも当時は、これ位が普通の時給だった。
今、東京の最低時給は「1056円」
それを考えると、あり得ないほど低い時給だ。
当時の俺は、社会経験が無く、こんな低い時給でも不思議に感じなかった。
時給が低いとか関係なく、ただがむしゃらに必死に働いていただけだった。
そして、このお店には、1つ特殊な事があった。
このお店にあった特殊な事。
それは、もの凄く超絶美女のバイトの女性が働いていた。
この女性の年齢は「22歳」
名前は「奥田さん」
このコンビニは、会社のオフィス街の中にあった。
その周りにある会社の人達の中でも、凄い美人で有名だった。
その女性は、まさに看板娘というか、看板アイドルだった。
奥田さんは、当時大学生3年生。
しかもこんなに美人なのに恋人もいない。
学校では、1回だけ告白されたそうだが断ったみたいだ。
理由は、なりたい職業があってそれに集中したい為だったらしい。
なりたい職業は、聞いてないから不明。
小説が好きだと言っていたから、小説家だったのかもしれない。
この奥田さんがいるおかげで、会社が終わる夕方には、凄く込み合った。
そんな中、美人があるが故の、とある事件が起きてしまった。
会社帰りのピークが過ぎた頃の時間。
1人の若い男性が、店内に入ってきた。
そして、売り場の方に行かずいきなりレジに来た。
そして、奥田さんを指名して呼びつける。
その男性は、奥田さんに何やら話しかけていた。
俺は、近くに行き耳をダンボにして聞いてみた。
そうしたら、食事に誘っている会話をしている。
どうやら、ナンパというか本気で口説いているようだった。
その男の人は、ナンパをする様な、チャラい見かけではなかった。
凄く真面目そうな、若い好青年。
俺は、その会話をしばらく聞いていた。
そしたら、奥田さんの方から「ごめんなさい」という声が聞こえた。
どうやら、口説きに失敗してしまったようだった。
社会人の若い好青年は、完全に玉砕されてしまったようだった。
でも俺には、その好青年が勇気ある勇者に見えて凄く立派だった。
こんな事があり、この好青年は、店に迷惑をかけた気持があったようだ。
その気持ちからか、毎日何かを買いに来てくれた。
その姿を見ていると、同じ男として何か切ない気持ちになってしまった。
あの玉砕事件から時は過ぎ、バレンタインの日。
俺は、生まれて初めて1人の女性から手渡しでチョコを貰った。
それは、あの奥田さんからだった。
当然そのチョコは、義理チョコなんだけどね。
俺は、あまりの嬉しさに家に持ち帰っても食べる事が出来なかった。
そしてどうしたかというと、棚の上に飾ってしまったのだった。
チョコを棚の売りに飾るなんて、今思えばバカな事をやったものだ。
それから1年後の事。
奥田さんは、就職する為にバイトをやめる事になった。
それを聞きつけた周りの会社の男性達が、続々卒業祝いを持って来ていた。
多分30人位から卒業祝いを貰っていたと思う。
レジの後ろにプレゼント入れの段ボールがあった。
その段ボールからプレゼントが溢れていた。
凄い大人気な女性だったんだなと、改めて感心した。
そしてお別れの時。
俺は泣いちゃいそうだから裏方に逃げていた。
そこで、俺の知らないうちに帰ってしまってくれと思っていた。
そうしたら奥田さんがわざわざ裏方に挨拶しに来てしまった。
俺は、仕方なく泣くのを必死にこらえてお別れをした。
今思えば、子供の頃からの泣き虫が未だに治ってなかったのかもしれない。
そして家に帰っり、棚をふと見た。
そうしたら飾りっぱなしの奥田さんから貰ったチョコがあった。
俺は、そのチョコを眺めて、もういい加減食べることにした。
そして中を開けてみたら、砂の様にカラカラに干からびていた。
もうチョコの原型が無かった。
口に入れてみたら、カカオの苦みだけの味がしてまずい。
でも捨てる気持になれず、この苦いチョコを全部食べてしまった。
蚊占めてもらったバレンタインのチョコの味は、凄く苦かった。