皇女といえば数々の伝説を後世に残したロマノフ朝最後の第四皇女アナスタシアが有名だが、ここではその姉であるタチアナを指している。ロマノフ朝の最期を史書の如く淡々と描く第一部(怪僧ラスプーチンも登場)に対し、パリに住むレミュ青年の眼を通して謎の外国人姉弟が描かれる第二部では、物語との距離感がぐっと近くなる。ドストエフスキーの引用によるロシア人の虚無的な思想。十蘭がこれを記したのは戦後のことだが、巷間に蔓延する虚無感は現代のほうがよほど色濃いのでは……。