

奇子と書いて「あやこ」と読む。
手塚版『カラマーゾフの兄弟』と聞いて読み始める。
確かに影響は顕著だがやはり奇子の存在はオリジナルで、かの『死靈』とも違う。
舞台は戦後間もない日本。
狂言回しは奇子でなく、淀山地方の大地主天外(てんげ)家の次男・仁朗(じろう)。
僻地の因習で腐りきった人間関係を唾棄する仁朗もまたGHQの手先となり、現実の下山事件に酷似した轢死事件に手を染めることとなる。
こんな出だしで見通しが明るいはずもなく、やがて一族内での殺人に近親相姦と、各人の欲望が剥き出しに。
時代の暗部と狂気の重苦しさ。
尻切れトンボな終わり方は、あとがきによると「やむを得ぬ事情によるもので、話がつまったとかいやになったわけでは」ないとのこと。
実際に続編の構想はあったようなので、筋書きだけでも知りたいとは思うものの、天外家は老婆を残してほぼ壊滅状態、その後を描くとなると奇子の数奇な人生を辿るわけで、自分が求めるようなカラマーゾフ的なものではないのだろう。










