ガバナンス。ブロックチェーン界隈においてまだこの議論をしてるアプリケーション・プロジェクトは多くはないと思います。今まで様々なホワイトペーパーや記事を読んできましたが、その中でもトークンを用いたガバナンスを実践していてある程度機能している・機能が見込まれるのは僕の中で0x、MakerDAO、Polkadotくらいです。
もちろん、プロトコルレイヤーでのガバナンスは非常に大事であり、ここの議論は何度もされています。マイニングの報酬設計やPlasmaにおけるCryptoeconomicsなどはその最もたる例でしょう。
最近、最先端の議論ではVlad初め、前者のアプリケーションでのガバナンスをDApps Politicsと呼ぶ節があります。
Sgさんに教えてもらったカタルーニャの政治学者Pol TorrentやVladなどが最近この言葉を使っています。
今回は少しアプリケーションレイヤーのガバナンス(DApps Politics)における「投票」ついて考えてみたいと思います。誤解してほしくないので特筆しておきますが、ガバナンス=投票という考え方は間違いです。これは0xのブログなどを読むと良いでしょう。
「投票」により候補者を選ぶ時、おそらく最初に関連付けられるのは多数決でしょう。
しかし、各有権者が投票をして最多数の選択肢を選ぶという日常僕たちがやっているやり方は、時々間違った結果を導きます。
例を見てみましょう。
あるプロトコルの仕様変更に対して、A、B、Cという3つの選択肢があるとします。この時、60人のトークンホルダーがおり、その多数決でどのプロトコルを選ぶかを決めます。(この場合、1人が1トークンを持っていると仮定します。これは強い仮定です。トークンの数が投票権の関数であると定義する場合はラディカルマーケットのQuadratic Voting などを参考にするといいでしょう。)
60人の内、Aが23票、Bが19票、Cが18票を獲得しました。
さあ、勝ったのは誰でしょう?一般的な多数決の場合、これで採択される仕様変更はAです。
今度、これをA対B、B対C、C対Aと言ったように、2つずつ比べてみましょう。もちろん有権者は60人で、以下の結果は上の図から読み取れることです。
BはAよりも強く、CはBよりも強いので、最終的な結果は
になります。
結果が真逆になりました。この投票における真の勝者はどれなんでしょう?
あえて話を広げますが、これはオークションとも近い話だと思います。一位オークションなのか二位オークションなのか、ダッチオークションなのか?などで同じ財に対する選好が表面上変わるというのは面白い結果だと思います。
話を戻して、投票に戻りましょう。これは経済学の世界でコンドルセが発見した「投票のパラドックス」です。各人が投票して最多数で決める誰も疑わない方法は時々困った結果を導く。という良い例だと思います。
この点、社会契約論を書いたルソーは多数決によって得られる全体意志ではなく、一般意志がつねに正しく、つねに公の利益を目ざすと言っているというのでも多数決は完璧ではないことがわかります。
またこのパラドックスを応用した例としてアローの不可能性定理があげられます。これは、
「最低限の民主主義と最低限の平等主義を実現するときに、価値判断の簡素さは大きく犠牲にしなければいけない。」
という定理です。(一般的に社会的選択理論と呼ばれる学問に分類されます。)
これは弊社Staked株式会社のScrapboxでもまとめているので参照してください。
これからDAppsの数が増え、トークンによるガバナンスが今以上に重要になってくると考えます。学問に根ざした投票システムをいかにプログラムに反映するのかは課題です。
ブロックチェーンにおいて今はエンジニアがブイブイ言わせているフェーズですが、あと数年で風向きが変わるでしょう。経済学や政治学といった学問に注目が集まると思います。あえていいますが、ブロックチェーンは公共財です。これを現実世界に落とし込む作業はエンジニアリングももちろん大事ですが経済学や政治学も同等、それ以上に大事です。
Vo_1は以上とします。
この投稿がVol_1と書かれているようにVol_2以降も執筆予定です。
書いた人:渡辺創太
参考:http://www.qmss.jp/qmss/text/supplements/voting-paradox.htm