中でも、僕が最も心惹かれた書店を紹介しよう。
左転有書×慕哲珈琲
https://www.facebook.com/touatcafephilo2016/
電動車椅子ひとり旅の私がこのブックカフェに入ると、正面すぐの本棚のど真ん中に平積みされていたのが『無障礙旅遊』という本であった。
車椅子で障礙なしに台湾を旅するためのガイドブックである。
これがこのブックカフェの中で、最も目立つ場所、一等地に平積みされていたのには、驚かされた。
それは一般にはマイナーなテーマにも見える。
しかし、それを正面に据えることで、この書店が何を大事にしているかが、痛いほど伝わってくる。
参考 障礙という言葉については次の記事を参考にしてください。
https://alis.to/abhisheka/articles/3bNpRPzYjxBo
そしてその左隣には、『民主国家はいかにして死亡するか』となんとも意味深なタイトルの本が置いてある。
これが二番目に目立つ位置だ。
なんというセンスだろう。
しかもこの本については近々読書会を開催するという。
そのようなイベントスペースが地下にあるようなのだ。
そしてレジ台には「反核」の垂れ幕。もうひとつの台には「台湾独立」とある。
書店が、ひとつのはっきりした思想的主張や政治的主張を持っている。
昔は京都にもたとえばマルクス主義に特化した書店などがあった。
だが、それとはまた少し雰囲気が異なる。
何らかのイデオロギーに基づくといった雰囲気ではなく、民主的に話し合い、よい方向を探り合うためにこそ、書店がありカフェがあるといった佇まいなのだ。
アメリカ、サンフランシスコで僕がよく通った書店は、ひとつはCITYLIGHT BOOKS。ひとつはEVERYBODY’S BOOKSHOPだった。
前者はビートジェネレーションなどのヒッピーのさきがけとなった詩人などの本を中心にしたものであり、後者はマルクス主義に特化した書店で中国語の書物も多々あった。
ある朝、僕はEVERYBODY’S BOOKSHOPを訪れたとき、壁や前の道路に「アメリカから出て行け」などの落書きがされているのを見た。
店員がデッキブラシで一所懸命、消そうと磨いていた。
僕は両方の書店の意義をそれぞれ認めていたが、今、この左転有書×慕哲珈琲で感じたのは、どちらかというと、CITYLIGHT BOOKSの方の雰囲気だった。
カフェの方では台湾人だけではない、色々な人々が考え事をしたり、語らったり、本を読んだりしている。
尋ねると、カフェの奥の方の本棚は図書館であり、自由に読んでいいということだった。
僕は書店文化だけではなく、うらやましいカフェ文化もここに息づいている気がした。
それはたとえば僕の学生時代、京都にもあったものなのに。
今の日本はいつからそういうものを失ってしまったのだろう。
ちなみにこのブックカフェの左転有書という書店名には、MRT(地下鉄)の駅から左に曲がると本があるという意味もあるが、この左というのにはいわゆる左派という意味もかけてあるそうである。
複雑だが、台湾で左派というとき、それは中華人民共和国のシンパを意味しない。
むしろ台湾人としてのアイデンティティを重視し、台湾が独立し、民主化を進めていく、そのような意味合いがある。
そのためにはどうしたらいいのか。
『民主国家はいかにして死亡するか』の読書会の案内に書いてあった「民主は傷害を受け容れない」という言葉が、暴力革命ではない民主化への切なる希求を求めているようで、このブックカフェはその一つの拠点でもあるように感じた。