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魂の螺旋ダンス 改訂増補版 (17)空海と親鸞

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  • あび(abhisheka)
  • 2019/09/20 05:12

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(17)で扱う節
・ 日本における超越性宗教
・ 親鸞の神祇不拝・国王不礼
・ 空海における即身成仏
・空海の蝦夷観
・ 親鸞の蝦夷観



・ 日本における超越性宗教

ここで今一度日本における「超越性宗教」について観察しておきたい。

見てきたように、インドにおける仏教は、既に早い時期から超越性宗教の精神宇宙を開いてきたと言える。
だが、その仏教が日本に伝来したとき、その最初の時点から、超越性宗教としての仏教が日本に根づいたと考えることはできない。
伝来した仏教はまず当時の国家体制と結びつき、鎮護国家の国家仏教として、その歩みを始めたのである。

一方、仏教芸術の発達は早くから見られ、このことは日本人の芸術的感性の豊かさを表している。
が、そのことがすなわち、超越性宗教の誕生を意味しているわけではない。

二十世紀を代表する世界的な仏教者のひとりである鈴木大拙は、その著『日本的霊性』の中で、日本的霊性の目覚めを鎌倉仏教に見出すべきだと述べている。
日本の大地性と外来思想の超越的な次元が統合を果し、日本的な土壌の上に真の霊性(超越性原理)の花が開いたのが、鎌倉仏教であるという見方である。

私の言葉に言い換えるなら、日本における真の超越性宗教の誕生は、鎌倉仏教において成就したと言えよう。


即ち、個が直接的に超越性原理につながる回路を開き、地上の権威を徹底的に相対化していったという意味で、これまでに述べてきた超越宗教の特質をいかんなく発揮している宗教思想は、日本では鎌倉仏教においてはじめて観察されるのである。

鎌倉仏教の各開祖(法然、親鸞、道元、日蓮、一遍・・・)は、裸の個人=探求者として、それぞれの側面から超越宗教の次元を見事に花開かせた。

殊に、「個と超越性原理の直接的回路」という面では、いずれの開祖も、他に引けを取らない。


だが、「地上の権威の相対化」という面では、親鸞思想に私はその最もラジカルな様相を見てとる。そこで、やはり、親鸞思想に日本における超越宗教を代表させつつ、論を進めていきたい。

鈴木大拙は『日本的霊性』において言う。
「いかなる罪業も因果も悉く絶対者の大悲の中に摂取せられていくというは、彼の超個霊観である。かくの如くに超個己の霊性を体得した親鸞一人こそ、日本的霊性の具現者であると言って甚だ妥当であると、自分は信ずるのである」

ここで親鸞一人というのは、鈴木が親鸞を絶対視していたことを意味しているのではない。
ここは、歎異抄の「弥陀の五劫思惟の願をよくよく案ずればひとえに親鸞一人がためなりけり。されば、そくばくの業をもちける身にてありけるを、たすけんとおぼしめしたちける本願のかたじけなさよ」という親鸞の言葉を連想する場面である。

つまり、「超越性原理」から「個」に向かって直接開かれてある「解放への回路」を「一人がために」と表現しているのである。
そして、その回路は、同じ直覚を持つすべての個に向かって、「一人がために」「直接」「無条件で」開かれてあるというのが、超越宗教の根本原理だと言わなければならない。(イエスが神のひとり子であるという言明も、この次元で捉えることができると考える。)

同じ著の別の箇所で、鈴木は次のように述べている。
「霊性的直覚なるものは、まず個己の霊において可能である、即ち一人の直覚である。ところが神道には、集団的・政治的なものは十分にあるが、一人的なものはない。感性と情性とは、最も集団的なるものを好むのである。それは集団の上にみずからを映し出すことによりて、みずからの存在が最も能く認められるのである。霊性的直覚は、孤独性のものである。」

ここで鈴木は、民族宗教と創唱宗教の相違について、ある光を当てているわけである。
私なりの言い方に換えるなら、個的で直接的な回路を通じてのみ、単なる情緒的な次元を越えて超越的な精神宇宙が明らかにされうることを述べているのである。

そういった意味では、教派神道は、その創唱的な性格において注目される。
が、その提示する世界観が、超越性の次元に達しているものなのか、部族シャーマニズムや国家宗教の枠組の中にあるものなのかは、各個別に検討が必要であろう。

鈴木の神道批判は、この『日本的霊性』のほか、戦後に書かれた『霊性的日本の建設』にも、より顕著に見られる。
(ただしジョアキン・モンテイロなどの論者は、鈴木の論には象徴天皇制を華厳思想に基づいて支える側面があるとし、その不徹底を批判している。『日本的霊性からの解放 -信仰と歴史認識・菩提心の否定と浄土真宗』)

鎌倉時代という時代を精神文化史の文脈から見るとき、「東日本の大地性の復権」という側面に目が行く。
日本の歴史を大雑把に、「西の弥生文化が、東の縄文文化を侵食していく過程」と見るとき、鎌倉時代は、東の縄文文化復興の時代であるとも言える。
この時、仏教思想と大地的な要素のぶつかり合う強いスパークの中に、鎌倉仏教の星たちが誕生したのである。
 

・ 親鸞の神祇不拝・国王不礼

さて、親鸞思想は、超越性原理において地上の権力を徹底的に相対化した。シャーマニズム的なるものも、国家宗教的なるものも、もろともに超出する立場を、鮮明に表現している。

例をあげよう。

 

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10代より世界放浪。様々なグルと瞑想体験を重ねる。53歳で臨死体験。31年の教員生活を経て現在は専業作家。https://note.mu/abhisheka

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