何千年、いや何万年も前にあった異種族間の醜い争いだったか、未知の病原体による影響だったかでこの星の知性を持った種族達は子孫を残すことが困難になった時期があった。衰えた繁殖力を回復させるために、考案されたのが三体有性生殖である。
この三体有性生殖は、通常の有性生殖が雄雌の二つの個体間で行われるのに対して雄雌を含む三つの個体間で行われる。
しかし、この三体有性生殖は繁殖におけるコストが非常に高いという欠点を持っている。単為生殖に比べて三倍、通常の有性生殖と比べても一.五倍のコストが掛かってしまうだ。それでも、繁殖能力が著しく低下したこの惑星の知性ある者たちは藁にでも縋る覚悟で三体有性生殖を選択した。
そして、あるとき三体有性生殖のコストを低減する手法を見出した。それは、他種族を巻き込んで遺伝情報の高速書換えを可能にした、それはたかがコストの三倍程度を支払うことなど問題にならない位の生存競争における凄まじい|優位《アドバンテージ》を示したのだ。これによって、現在に至る例えば人間、虎、蛇などの遺伝情報を混合した新たな生命を生み出した ・・・・・・
「ところで、αβ《アルファ・ベータ》そろそろ茶番は終わりにしてくれないか?俺には無限の寿命なんか無いんでな、年寄りの暇つぶしにそうそう相手もしてられないんだが」
『・・・・・・ ふう、何のことですかな?遠方からのお客様、我々は実に良い商関係を築いたのでは無かったのですかな?』
αβはスクリーンの中でとぼけたように答えた。
俺は、洞窟の中でうたた寝からたった今目覚めたような表情をしたαβに向かって言葉の劔を向けた。
「まだ、続けるのかなこの茶番を?知っているよ、この惑星そのものが、仮想現実《VR》だったんだろ?」
俺の指摘に、量子コンピュータαβは乾いた声で笑った。
『流石に銀河を旅する御仁は鋭いなあ、ふぉっふぉ』
「まあな、何故か俺の専用スキルであるはずの詐欺《スキャム》をこいつε《イプシロン》が使えたからな。普通のコンピュータ・シミュレーションでは有り得ないことだ。だが、それが起こった。ならば何故なのか、考えればわかることだ。だが答えは簡単なものだったが」
『それで、どうしたいというのですか。この星が虚構の産物だとして、取引は無効だとでも、それとも値を吊り上げますか?』
「いや、ついでだから昔話が聞きたくなってな。ほんの一ミリくらい、この星の昔の住人について聞いてみたくなっただけだ。人間なら、有るんだけどな叶わぬ望みでも話すだけで心が軽くなるとかな。αβ、お前くらい人間らしさがあればと思ってな」
その後、かつてこの星に住んでいた住人の昔話を暫く聞いてやってから俺は通信を切った。
まあ、いいお得意さんが出来たのには変わらないがな。取引の度に、昔話を聞かされるのが少々、面倒くさいけど ・・・・・・