天の川銀河(昔は、銀河星雲とも言われていたが)の中心に俺たちはようやくたどり着いた。途中幾つかの知的生命体が住む惑星と交易を重ね利益は積み上がっていたがその分直通での行程よりは二か月ほど多く掛かってしまった。
「ご主人様、銀河中央部の様子をご覧になられますか?少々、変ったものをご覧に入れたいと愚考いたします」
俺たちの宇宙船太陽系:《マンズーマ・シャムセイヤ》の制御AI《人工知能》であるアルドが俺に恭しく問い掛けた。姉さんが居るからと言って、余所行きでかしこまらなくてもいいようなものだが。
「ああ、スクリーンに映してくれ」
「ほう、これが銀河の中心部にあるものとは。一周回って笑えますね、リュラーン」
俺の横で寛いでいた月の女王であるキリュウ《姉さん》・グツチカ・シトゥールが鷹揚に笑って見せた。
確かに、銀河の中央部にあからさまにメタリックな材質の巨大な立方体が浮かんでいるとか、真面目な天文学者なら卒倒しそうなものだ。
しかも、その六面には一つずつ異なるデザインが施されている。各面には塗りつぶした円が一個から六個まで描かれている。
なんで、銀河の中央にサイコロがあるんだ?
「アルド、あのでっかいサイコロの大きさは?」
「一辺の長さが一万二七00キロメートル、五.九七掛ける十のニ四乗キログラムです」
「わかった、地球の直径、質量とほぼ同じだと言うんだろ?」
「ご主人さま、正解です」
「ほお、流石は最愛の夫にして弟リュラーン、褒めて遣わす」
「ふん、こんな冗談が好きそうな奴を知ってただけさ。だよな、アン。お前の仕業なんだろう?」
豪華な衣装を纏った巨大な女性が手の平で、サイコロを弄びながら叫んだ。
「だから、アンて誰さ?私は美の象徴、富の女神、エンドロ・ペニーさ。何度言えば覚えるのさ鳥頭にもほどがあるでしょうが、乱導竜!」
(・・・・・・ これは、見ものね。竜さんがあの天災をどう処理するのか。ついでに、目の上のたんこぶ、下僕一号もついでに葬ってくれないかしらね)
自室で呑気に欠伸しているシャム猫が丸くなる。
「で、エンドロ・ペニー。勝敗を決めるルールは?まさか、ダンスで勝負とかじゃないだろうな?」
「ふふん、ダンスじゃ竜の勝ち目はないでしょ。ここは、古からのしきたりに則って賽の目勝負よ!」
エンドロ・ペニーが出した勝負のルールは、単純明快。お互いにサイコロを一回振って出た目の大きい方が勝ち、同数の場合は再度振り直すというもの。
「じゃあ、先制攻撃は一流の証、私が先に引導を渡してあげるわ。入ります、エイっ。ふふふ ・・・・・・ 見なさい、最高、至高、最大の六よ。既に私の負けは無いわね」「くっ、たかだか負けが無くなった程度で女神がはしゃぐとは。お茶が臍を沸かすぜ」
「ちょ、ご主人。プレッシャーに負けて言葉の意味が滑ってますにゃ」
(ふう、深呼吸だ、血中のセロトニンを少し増やして心を落ち着けるんだ。まだ、負けた訳じゃない。俺が負けるようなルール、そんなもの認めない、壊してやる! ・・・・・・)