さてと、防寒具の準備を怠ると死ぬ目に遭うからなあ。
「ちょっと、こんな所で海に入ったら寒くて凍っちゃうよ。駄目だよ、北の大地で凍死とかべた過ぎてヒロインの仕事じゃないよ!」
「誰がヒロインかは置いとくが、大丈夫ちゃんと水陸両用防寒着を着こめば氷点下五十度でも活動できるから安心しろ。
アイドコ大陸の防寒技術、舐めるんじゃないぞ」
「そうだよ、お嬢さん。あんたらが死ぬとしたら、凍えて死ぬんじゃなくて『碧《みどり》の洞窟』の呪いによって死ぬんだから安心しなよ」
現地ガイドに雇った漁師のおっさんが自信ありげに言うと防寒装備の装着をぐずるリサを手伝ってくれた。
「え?その呪いって何なのよ、聞いて無いわよ私は!」
「まあ、言ってないから大丈夫。忘れた訳でもない」
漁船が洞窟の入り口に着くまでの間に俺はリサに『碧の洞窟』の呪いについて教えてやった。
「え、じゃあ。あんたが狙ってる宝を盗みに来た者は、宝物を守る呪いの力で粉々に砕かれて洞窟の周りの海を漂い続けると言うの?」
「ああ、それが光に反射して洞窟の周りが碧色に見えるって寸法さ」
「よしっと、さあ着きましたよ。そこから下に降りられるようになっているから。ただ後二時間もしたら満潮で海の底に沈むからそれまでに帰って来いよ」
洞窟に漁船が入って行くと、洞窟の隙間からの光の加減か海水が碧に揺らめいて見える、不気味な碧の手が新たな犠牲者を招く様にも見えた。
「もし、帰って来なかったら?」
「それは、わしにも助けることは出来ないから。さっさと置いて帰るよ。下手なことして呪いに捕まると大変だしな・・・・・・」
「・・・・・・ まあ、それまでには戻って来るさ」
キールとリサは漁船から降りると、下に向かって伸びる自然の階段を下りていった。通路は体感で三十分くらいすると下りから水平になったと、大きな空洞に出くわした。
そこには大男が人形遊びをしていた。胴体、腕、脚をああでもない、こうでもないと引っ付けては首をかしげてまた、バラバラにしていく。
「おい、お前は人間の身体で何をしている?」
キールの呼びかけにようやく侵入者に気付いた男は振り返った。その顔には目が一つだけあった。鼻の上、額の辺りに大きな真っ赤の瞳が禍々しく輝いた。
「一つ目の化け物、サイクロプス?」
リサが悲鳴混じりに短剣を構えた。
「ああ、新しい身体が来てくれた!」
サイクロプスが、歓喜の声を上げ、持っていた女性の脚の肉と骨を食い千切って即席の剣を作るとキールに斬りかかった。
キールの身体が袈裟懸けに斬り裂かれた。血しぶきが洞窟の天井まで飛び散る。 「きゃあ!」
悲鳴を上げるリサの面前で、キールがサイクロプスを袈裟懸けに斬り捨てていた。どっと、音を立てて頽れるサイクロプスの身体はやがて光の粒子になって消え去った。
「ええ? ・・・・・・ ふう、毎回毎回、驚かせてくれちゃって。吊り橋効果なんか、掛かってやんないよ。ふんっ。お疲れ様、キール」
キールの目は、サイクロプスが弄り倒していた額に焼き鏝で醜く文字を刻まれた美貌の生首に釘付けになっていた。