「我、乱導竜が命ずる、出でよアンドロマリウス!」
いつものネコさんの研究室にて俺は専属コピー係を呼び出した。たとえ二十四時間休憩なしで働かせたとしても何処からも文句が出ない、極めてブラックな職場だな。
左腕に装着した腕輪の真鍮の壺から白とピンクの二色の煙が、白い服を纏った美人さんの姿となって現れる。
部屋の主であるネコさんは、測定器の調整を手早く済ませると俺に早くやれと合図を送ってくる。すなわち、大きな欠伸をした。
「お呼びにより参りました、ご主人様」
「ああ、早速で悪いが例の双子の魔人をコピーしてくれ」
「お言葉ですが、ご主人様。如何に仕事の出来ない駄目で愚図な魔人といえども魔人は魔人、複製するにはかなりの魔力を消費しますがよろしいですか?」
アンドロマリウスは、俺に確認するかのように冷ややかな視線で見つめて来る。通常使い魔を召喚したり、使い魔が魔法を使うときはその召喚した魔導師が魔力を供給してやる必要がある。だから、魔導師は強い使い魔を使いこなすために自分の魔力を貯めておくものだ。
俺の場合は魔力の替わりに財力、仮想通貨の残高が一般の魔導師の魔力保有量となる。
だから、先ほどのアンドロマリウスの確認の意味には『あんた、高いスポーツカーを乗り回したいって言うけどお金はあるのかい』という意味の嘲りが暗に含まれている。
まあ、仮初の主従関係を結んで日も浅いことだしここは舐められたらおしまいだな。
「ああ、かまわんよ。いくらでも俺の力を使ってかまわん」
「では、そのように。複製《デュプリケート》、魔人セーレ!」
「さて、いくらしょぼい役立たずの魔人とは言うものの。本当に魔人すら複製できるのかしら?とても興味深いわね」
俺とネコさんが見守る中、暗い色の煙が徐々に人型に集まってくる。通常の召喚よりは時間が掛かるみたいだな。
しばらくすると、双子の美男子な魔人が現れて愚痴りだす。ここまでのクオリティがあるとは期待できるな。
流石に、口座残高の減少具合もシャレになってないが。
「ここまで、愚弄されるとは。何で俺はいつもいつもこんな貧乏くじを引くんだ」「これほど、ののしられるとは。何でオレはそんな役回りばかりなんだ」
「まあ、セーレ愚痴はその位にしておけ。では、セーレこの星を出来るだけ速く回って戻って来い、手を抜いたりするなよ」
「何をさせるつもりだ、ご主人様よ」
「どうするつもりだ、ご主人様」
「ええい、つべこべ言わずに行ってこい!」
双子の魔人セーレたちは、大慌てで空を駆け上ると西の方へ飛び去って行った。
「へー、結構速い物ね。今アンドロマリウスの索敵能力で高速で移動する物体を映したのがこの画面ね。空を飛ぶものが、無数の光点として表示しているの。
待ってて、これだとセーレがどれだか判らないから鳥とかの遅い物は全て排除するとこうなるの。そう、この光点がセーレの位置ね。だいたい一秒で8kmくらい移動してるようね。しばらく帰って来れないだろうからお茶でも飲んで待ちましょう。お願いできるかしら?」
「うん、それくらいなら。わかった」
俺たちは、アンドロマリウスが淹れた紅茶を飲みながら双子の魔人の帰りを待っていた。
「セーレの速度なら衛星軌道までは、宇宙船を運べそうだな。これなら最悪の場合衛星軌道上から核燃料ロケットで更に加速して月へ旅立つことも可能だろう。ところでネコさん、例の地上で核分裂させた場合の影響予測は出ましたか?」
「そうね、九九パーセントの確率で問題は無いわ。竜さんの居た世界のように放射性物質が長期間残存することはなく、長くても数秒で安定していくわ。
詳しい原理は不明だけれども、核分裂後の大気中の魔力濃度の上昇からも推測されるとおり放射性物質は魔力に変換されて存在するみたいね」
「そうか、じゃあ地上発射から使用しても問題ない訳だ」
「そうね、確率的には一パーセント程度問題が発生するけど。それをどう捉えるかね。まあ自国内での使用はお勧めしないわね」
「そっか、なら潜在的敵性国家の多いユスキュー大陸の荒野でも買い叩いて発射場にする方向で進めるか。ナルシュからもちょっかいを出されて困ってると言っていたしな」
ナルシュはナッキオ群島を治めるハナ王国の第二王子で仮想通貨イージェイ(EJ)の運営を任せている、言わば俺の弟子で隣のユスキュー大陸とは対立している。
万一環境に影響が出れば、ユスキュー大陸の力を削ぐことが出来るので一石二鳥となる。
ド、ドドーン!
「ご主人は、ホントに魔人遣いが荒いなあ」
「ご主人は、血も涙もないなあ」
「一時間二十七分ね。まあまあ合格で、いいんじゃないの竜さん」
「ああ、ご苦労だった。じゃ、退がれセーレよ」
「ふう、また貧乏くじかあ」
「うう、こんなんばっかだよな、俺らの魔人生は」
セーレは煙となって消えていった。