その集団は、他の住民とは一線を画すが、統一性を持っていた。全員黒のスーツで黒の手袋をはめ、顔にはサングラスを決めていた。
「じゃあ、そろそろ次の段階へ進むか?「7」、儀式の用意を、今宵は血のサバトだ、若い女を用意しろ、雌鶏と豚の生きたのもな」
リーダー格らしい男が、手近な者に指示を飛ばす。この男は、他の者と違い黒のジャケットを羽織っていた。そこ胸のエンブレムは、杖を象ったものに血のような赤色の文字で「K」が描かれていた。
グループ杖《ワンド》と呼ばれるこの集団は、遺跡の盗掘、売買などを行っていたが、いつの頃からか発見された遺物を使って怪しげな儀式を行うようになっていた。
Kの手には、一冊の本があった。羊皮紙で作られたかなり古い物のように見える中には不思議な文字で様々な魔道の儀式について書かれていた。グループ杖の中で、この本のを読める者は、Kしかいなかった。このことが、Kに悪魔召喚儀式が本物であると信じさせた一つの理由だった。
深夜、打ち捨てられた教会にグループ杖のメンバーが集まっていた。周囲には、名も知れぬハーブの匂いと、獣の血の匂いが立ち込めていた。
グループ杖の中心には、祭壇が置かれ全裸の少女が縛り付けられていた。祭壇から直径十メートルの大きさで不思議な文字と図形が雌鶏の血で描かれていた。
「儀式を始める。我の求めに応じよ、四十の軍団を従える序列二十九番目の地獄の大侯爵アスタロトよ。我にその力を与えよ、さればこのいけにえを捧げん」
Kは、雌鶏の首を掻き切ると血を祭壇の少女に掛けていった。周りにいたグループ杖のメンバーは、雌鶏の血を少女の若若しい肉体の隅々に塗りたくっていった。
メンバーの誰もが自分が知らないはずの悪魔との契約のための呪文を呟き始めた。皆既にトランス状態に陥っているようだ。
「さあ、その姿を現せアスタロト、そして我が命に服せよ!」
Kは、先ほど雌鶏の首を掻き切った短剣を振りかぶると精一杯の力で、祭壇に横たわる少女の心臓を貫いた。
「ぎゅ、ぎゃー」
少女の断末魔の悲鳴が轟く、メンバーたちの呪文の声が一際大きくなった。
どご、どごーん。
教会の庭の大木に稲光が走った。
祭壇に横たわる少女の目が開くと、その身体が空中に浮かび上がった。少女の後ろには竜に跨る、右手に大蛇を持った天使の翼を持つ女性の姿があった。
「我を呼んだのは、お主か?」
「おう、アスタロト我が願いに応え、顕現したか。その力を俺に貸せ、アスタロト」
天使の翼を持つ女性は、しばし瞑目すると右の口角だけ上げてずるそうに見下しながら誓いの言葉を呟く。
「まあ、しばしの間、Kとやら力を貸そう。どの道そなたの命運長くないからな。だが、魔力が足りぬな。少し、省エネモードに移行するか。その者をもらい受けるぞ」
天使の翼を持つ女性が少女と融合し、輝きながらその大きさが小さくなっていく。やがてそれは、身長六十センチの陶器の肌を持った人形へ変化していった。
「なんと、ビスクドールか。こんなちっぽけな人形、こんなもので我が野望が叶えられるのか?」
「心配せずともよいぞ、K!この世界での姿がどうであれ、我はアスタロト、地獄の大侯爵、この世界を牛耳るなど何ほどのこともないわ」
青い瞳のビスクドールは、尊大に笑った。