とりあえず?銀河の中心を目指すことにした俺は、制御システムを管理するアルドに準備を任せると愛しの姉さんに逢いに来た。今はアラクが淹れてくれた紅茶を飲んで勝利の美酒に酔いしれるがごとき心地だったら良かったが・・・・・・
「もう、リュラーンったら。そんなに敗北者のアラクに気を遣うことなんてありませんよ。これからは気兼ねなくわたくしに、甘えてもねだっても、なんなら虐めてくれてもいいんですからね。全ては、リュラーンの物よ」
月の女王キリュウが、マロングラッセのような甘い笑顔で宣う。
「ふむ、これほどの質量を動かすとすればどれほどの生贄が必要か?いや、魔人に重さを軽くさせ、速度を上げさせれば・・・・・・」
ネコさんは、宇宙船の変形シーケンスをモニタ表示から探り出そうと眺めながら、魔導で実現するにはどう工夫すればいいかのを検証するように呟く。
「そう言えば、ネコさんは館に帰らなくていいのかい?ジョージさんも下僕一号も心配するだろ」
「ふふ、ありがとう。でも、私の心配など誰もしてくれないわ」
「ああ、リュラーン。船が航行するときは向こうの地球も一緒よ。そうね、例えるなら光と影、重なるようなだぶつくような関係だからいつもいっしょの仲良しさんよ」
くくっ。
「ならば、この圧倒的な力を研究して、あ奴に勝つための手段を掴んでみせよう」
寂しそうに下を向いたネコさんが、なんかやる気を出してきた。
「じゃあ、約一か月後に一度向こうに帰ってジョージさんに今までの経過を報告しようか」
「うん?リュラーン、報告だけなら別にここから向こうの世界に行けるわよ。直接光と影の世界の行き来は出来ないけど。この月からならいつでも転送出来るわよ」
「へー、そうなのか。また新月が来るのを待つのかと思ってたけど、ならば早速行って来るよ。アラク、向こうの地球に送ってくれ」
「せっかちさんね、リュラーンまたね」
「ああ、姉さん」
館で、ジョージさんに今までの経過を説明した。
「ふむ、あの女のことは残念だったな。しかし、この世界がそっくり移動することになるとは思わぬ機会が廻って来たのかも知れぬな。魔導の発展のため、お前もしっかり竜を見張って報告を絶やさぬようにな」
「はい、マスタ・・・・・・」
これで、ネコさんが俺と一緒に行動することになった。
「ご主人様、発進の秒読みを開始します。五、四、・・・・・・二、発進」
「しかし、秒読みとか必要なのか?」
「ただの雰囲気作りで意味は無いですよ、ご主人様」
「アルド、お前・・・・・・」
「ご主人を手玉に取るとは、アルド恐ろしい娘」
ネコが何やら悟ったような顔しているし。
「当機は間もなく光速に到達いたします、ご主人様。シートベルトお締めて下さい」
「だから、なあアルド昔のキャビンアテンダントの物真似なんかしなくていいからさあ」
俺は、仕方なしにありもしないベルトを締める振りをしてアルドに付き合ってやる。しかし、太陽が銀河を周る公転速度である秒速二一七キロメートルから光速までの加速に要した時間が三分とか滅茶苦茶速いなこの船は。何だか気分が上がるな。