『・・・・・・ ムガット』
「おう、待たせたなムガット。それにネコさんもこれから新しく手に入れた船に招待するから、あんまりむくれるなよ」
胡散臭そうな目で、俺の変化を探るようなネコさんはやがて腕のブレスレットに気付いたみたいだ。
「ふーん、竜さん。もしかして大変なものを手に入れたのかも知れないわね。後学のためにお邪魔するわ」
「ああ、じゃ俺に掴まってくれ。アルド、船に戻るぞ!」
俺のズボンの裾をネコさんが咥え、ムガットが定位置の右肩に飛び乗った瞬間、虹色の光が視界を染め俺たちは船の制御室に移動していた。
「ご主人様、お帰りなさいませ」
「ふーん、月に居たのと似てるわね」
アルドの姿が、月の女王の配下であるアラク・アウカマリに似ていることに気付いたネコさんが不審げに値踏みしていた。
「アルド、こっちはネコさんだ。俺が向こうの世界で色々とお世話になっている人だ」
「アルドと申します」
「・・・・・・ よろしく」
二人とも必要最小限の挨拶しかしないか、なんか緊張感が漲って来たな。
「とりあえず、旅の初めはこの天の川銀河の中心を目指すとするか。アルド、出航までの時間は?」
「久しぶりの航海になりますので、少しお時間を頂けたら。二十四時間で点検及び航行モードへの移行を完了します。よろしいですか、ご主人様?」
「うん、わかった。じゃあ、準備ができるまで俺たちを月に送ってくれ。アラクから姉さんを貰い受けに行くから」
「わかりました、転送致します。アラクにはよろしくお伝えください」
俺たちは、月面の裏側にある基地に移動していた。
「ようこそ、おいで下さいました。リュラーン皇子、我が主がお待ちかねです」
「ふっ、アラク。賭けは俺の勝だな」
「心得ております。さあ、こちらへ」
機嫌良さげな、月の女王が俺たちを迎えてくれる。
「おお、リュラーンよくぞアラクの悪辣な賭けに勝利して私を救い出してくれました。お礼を申しあげます。ささ、こちらへ。お客様もお茶など、どうぞ」
『・・・・・・ ムガット』
「・・・・・・ いただくわ」
相変わらず、月なのに極上のお茶が飲めるのは嬉しい限りだな。
「姉さんのことだから、知ってると思うけど。地球で船を手に入れたんだ。記念に銀河の中心に向けてクルージングだ、そのお誘いに来たよ」
「そう、漸く動き出したのね。いいわ、行きましょう」
「まあ、と言ってもあと二十時間以上準備に掛かると思うけど」
「確かに。点検や防衛システムとして月の分割、再配置にはそれなりの時間が掛かるでしょう。今頃アルドも張り切っていることでしょう」
「ああ、アラクによろしく伝えてくれと言っていたな」
モニタにアラクが宇宙船の変形後の予想完成図を表示してくれた。
「これは・・・・・・ なかなか思い切った設計だなあ。太陽系そのものが燃料や生命維持環境システムになっているんだから」
「大昔の設計ですからね。とても昔の・・・・・・」