「ふん。人間風情が、たまたま超激弱のドジな魔人に勝ったくらいでまた調子に乗って勝負に来たようね。マスターからお客様に協力するように申しつかっているから一応は、希望だけ聞いてあげるけど。今度は厚かましくも、どんな力を借りたいと言うの?」
俺が中庭に来ると、いきなり嘲笑と挑発を投げつけてきたのは表面が流水のような青いドレスを纏った、黙っていればそれは美人さんの下僕一号だった。
事前にネコさんが根回しをしてくれていたので、俺は下僕一号を探し回ることも細々とした説明の労を取る必要もなかった。やっぱ、日本的な根回しは異世界に居ても力を発揮するんだなと思う。
「まあ、そうカリカリしなさんなって。ちょっと失せモノ探しが上手くて、あらゆる物の複製が出来るって評判の魔人さんの力が借りたい」
「失せモノ探し?どんな物でも複製する力?
ちょ、ちょっと。それって盗賊から神と崇めれれていたアン、アンドロマリウスの事じゃない。いやよ、あの娘は貸さない。私のお気に入りなんだから。誰があんたなんかに、お客様」
「そこをなんとか、そんなずうーっと借り放しで返さないってんじゃないからさ。俺もホントに困ってるんだ」
しゃー。蛇を腕に巻き付けた女性がいつの間にか下僕一号の後ろに現れた。
「よいではありませんか、ご主人様。私がお客様に勝てば問題の無いことです。私はあのセーレのような不甲斐ないことはいたしませんわ」
「それもそうね、あのドジでどうしようもないセーレとあなたを同じに思うことなどできないわ。ではアン、済まないけど少しの間お客様のお相手をして差し上げて。勢い余って殺すようなことになっても何も問題は無いわ、ふっ」
「かしこまりました、ご主人様」
おい、殺していいとか簡単に言うなよ。あと魔人さんよう、それを鵜呑みにするなよ、本当にもう。
「じゃあ、用意はいいわね。死んでも恨みっこ無しよ。試闘、始め!」
中央に立つ、下僕一号のなんだか気合の入った合図で俺と魔人との試闘が始まった。
俺は、目の前のアンドロマリウスの力量を読み取ろうとした。周りの雑音や雑念を消し去り相手の出方を窺う。
「行きます!やー、とりゃー」
アンドロマリウスは、右手に巻き付けた蛇を複製させると、次々に振り回して俺に投げつけてくる。俺は前後左右に避ける。が、蛇がかすった服は変色してボロボロに崩れ去っていった。
「セーレ、力を貸せ。十万霊子《レイス》、二十倍速《トゥウェニーフォルド》!」
『わかりました、ご主人様』
俺はセーレの力を借りて、速度を二十倍に上げた。こうなれば、アンドロマリウスの投げる蛇になど当たるはずもない。今度はこっちの番だ。
「一万霊子、銭投げ《スピンターン》、銭投げ、銭投げ!」
黄金のコインが、アンドロマリウスの眉間、喉、丹田などの急所に迫る。
「甘い、少々攻撃が速かろうが私には敵の攻撃が見える、見えるなら避けられるのが道理」
俺の攻撃がアンドロマリウスに避けられてしまう。
「ふふ、私のアンの索敵能力は魔界一よ。その程度の攻撃が当たるはずも無いわ。驕ったわね、人間!」
「たしかに、セーレの力も使い人間とは思えぬ速さ。でも、いつまでもそんな借りものの力を使い続けられるはずはない!」
アンドロマリウスの右手の蛇が毒液をまき散らし、複製した蛇を左手で次々に投げつけて来る。
俺も、銭投げで応戦しているがお互いに有効打が出ない有様だ。
くっ、凄まじい高速の闘いが両者ともに当たらないとは。しかし、俺はいつまでも最大戦速で戦う訳にもいかないからな。命も大事だが、金も大事。俺が魔人を使役するのも魔法を制御するにも金がいる。このままでは、力尽きる前に金が尽きる。
どうすれば、いいんだ?