少し傾けた製図台の上に大きな羊皮紙を置いて、俺は書き物をしていた。正確にはスカーレットが集めてくれた宇宙ロケットの設計資料を基にこの異世界で製作可能な部品に落とし込む作業だ。
「うーん、固体燃料じゃきめ細やかな制御はやはり無理だよな。やっぱり液体燃料か。こっちで液体水素と液体酸素を上手く扱えるんだろうか?
まあ、やらなくちゃ始まらないか、じゃあ燃料ポンプと、冷却システムが必要だな」
うーん、面倒だな。これは、ある意味新設計と変わらないんじゃないか。基礎技術の検証は元の世界である地球で終わっているにしろ。
こういうのは、異世界特有の魔法技術でちょちょいのチョイで複製できるとかないのかなあ?
「ご主人、心の声が駄々洩れですにゃ。お疲れですにゃ。こういう時は、人間貯め込まずに相談すればいいにゃ。ここに頼りになる相棒がいるにゃ」
黒いシャム猫のような下僕が、信頼度ミニマムの分際でほざいている。だが、しかし確かに百万分の一理くらいはあるよな。ならば、あの人に連絡だ。だけどなあ、資金が枯渇しちゃ意味が無いんだけどなあ。最近料金が必要になったからなあ・・・・・・
「とりあえず料金交渉は、後にして聞くだけは只にしてもらおう」
「あるわよ。ある物とそっくり同じ物を創り出す魔法は、確かにあるわ。でも、あまりお勧めしないわね」
ネコさんは、尻尾を激しく振って言葉を切った。たぶん、嫌な奴のことを思い浮かべているのだろう。
たとえば、ジョージさんが創ったホムンクルスの少女とか・・・・・・
「うん、何か言いたいみたいね。まあご想像のとおり、あいつの使い魔の中にそういう力をもった魔人がいるわ。それも、かなりあいつのお気に入りだから貸してくれるなんて思わない方がいいわ。あの太っちょのセーレとは違うのよ」
「そうか、下僕一号の使い魔に複製《コピー》する能力を持った奴がいるのなら、俺の目的を果たすためにその力を手に入れるしか、俺には道がない!」
俺の決意を見たネコさんは、どうでもいいようにそっぽを向くと。
「なら、勝手になさい。たしか、アンドロマリウスとか言ったわね、それが使い魔の名前よ。やるからには、ものにしなさいよ。私もこれで竜さんには先行投資しているんだから。こんな所で、塵芥《ちりあくた)》に成られでもしたら、元も子もないとんだ不良債権よ。
あなたの魂くらい貰い受けてでも損失は補填させて貰うから覚悟しとくのね」
うっ、あれはネコさんなりの励ましだよな。冗談にもなってないからなあ、最近はもう。と、いうことで気が重くなるようなやりたくないことはさっさと終わらせるべく俺は中庭で下僕一号の使い魔と対峙していた。