馬鹿ね・・・
遠いような近くで聞いたような、ネコさんの声で俺は目覚めた。時間にして一分くらいだろうか?仁王立ちで怒りに震える不思議な青いドレスを着た美少女が、俺のことを睨んでいた。
「くっ、こんなことなら魔力に全振りしないで筋力にも少し位は割り振っておくんだったわ。そうすれば、不可抗力で無効試合《ノーコンテスト》になって、アンを貸す必要もなかったのに・・・」
「何を往生際の悪いことを言ってるの?試闘に勝った竜さんを傷付けた落とし前はどう取るつもりなの?」
くっ。
「ああ、ネコさん。ありがとう、俺の為に怒ってくれて。だが、いいさ。俺もまだ未熟だったんだからな。だが、勝負は勝負!お前の使い魔も負けを認めたんだ、だからしばらくアンドロマリウスを借りるぞ。いいな、下僕一号!」
「あ、あんな騙し討ちをしておいて、どの口が言うのよ?」
「戦闘中、いや試闘中に言ったはずだぜ、それが人間風情の闘い方さ。か弱い人間風情が、強大な魔力を持つ魔人様に普通にやって勝てる訳ねえだろうが!
まあ、中には俺の詐欺《スキャム》が掛からない奴もいるんだってのが判ったから、これからは気を付けるよ。しかし、痛てえなあ。お前らに本気で殴られちゃ内臓破裂で死んでしまうだろうが!」
そう、俺がネット通販で用意した甲冑は見かけは凄いがちょっとした熱で溶けるように細工された映画の小道具に光線が当たると発火する的まで付けたガチの偽装《フェイク》仕様だ。そしてもう一つ、光線銃の外装もネット通販でやたら音と光で威嚇するものだ。これに、ワフードさん謹製のレーザー発振装置を仕込んだのが今回の俺の最終兵器《ファイナル・ウェポン》だ。
だが、そんなことを知らないアンドロマリウスは光線銃《レイガン》の威力を過大評価した。そして、俺の詐欺に掛かりやすい状態で光線銃をまともに受けた為に戦闘不能に陥ったと錯覚したというのが事の真相だ。
それをどうやったか知らないが見破った、怒れる下僕一号のパンチというオマケだけは欲しくなかったが。いい報酬が貰えたよ、世の中にはまだ俺の詐欺が効かぬ輩もいるという警告として・・・・・・
「わかったわよ、でもアンは、アンドロマリウスは私の大事なと、とも・・・ごほん、使い魔なの。だから酷いことはしないでね、お、お願いするわ」
「ああ、わかった」
下僕一号の友達を粗末に扱っちゃ、後が怖いからな。俺は後半の言葉は飲み込んだ、主従関係とかいろいろ抱えた奴に巻き込まれる暇はないからな。
『アカウントオープン!』|(こりゃ、ずいぶんと使いこんじまったな。)
ターラ、ターラ・・・・・・
「私よ、竜。相場が大変なことになっているわ」
いきなりスパイ映画で有名な音楽が鳴り響く。スマフォのビデオ通話画面には、真っ赤なライダースーツを纏ったスカーレットが現れた。今日のことは、事前に予告していたから狼狽はしてないようだな。
「まあ、心配するな。暴落前に、空売りは済ませてある。まだ、タイムラグがあるみたいだが、数千億の利幅は取れただろう。ちょっと、こっちの裏ワザを使って、多段階でレバレッジを掛けたからな十掛け、十掛け、十掛け十で一万倍のをタイムラグ付きで決済したからな。落ち着いたら、成果を楽しんでくれ」
「相変わらず、ぶっ飛んでるわね。まあ、いいわ。例の超耐熱樹脂の構造式を入手したからメールしておくわ」
「ふふ、流石だなスカーレット」
「ええ、あなたに送って貰った私の影がいい仕事をしてくれたわ。でもお礼はいらないわね、彼女はもうこの世には居ないのだから」
「そうだな、いつもながら助かったよスカーレット」
「ふっ、罪作りね。あなたって」