さて、困ったなどうしたらいいんだろうか。どうやって彼女をこちらに呼べばいいのか、難しいなあ?
「うーん」
「ご主人、どうかしたのにゃ?ふぁー、困ったらいつものようにあの人に連絡すればいいにゃあ」
自室で思案に暮れていた竜にペット《手下》の黒いシャム猫があくび交じりに提案する。それもそうかと、思う一方でだが、ことがことなだけに慎重を期す必要がある。しかし、代案も考えつかない以上相談するしかないかと諦めて部屋を出た。
「ふーん。竜さんがいた世界からその、なんとかアドバイザーを呼びたいということでしたね?なら、簡単でしょ。竜さんが、アドバイザーさんを買ってしまえばいいだけですよ。この前貰った雑誌みたいに」
俺は雑誌を読んでいたシャム猫を探し当て、応接室で相談に乗って貰っていた。仮想通貨による決済でなら元の世界の物をどういう手段かは不明だが届けさせることができる。
エンドロ・ペニーが作り替えた俺のスマートフォンを使って、科学雑誌もそうやって手に入れた。
「いや、こっちの世界では合法でも、人買いとかは問題がありすぎるよ、俺の世界では。それにここにずっといるわけじゃない、まだまだ向こうの世界で彼女にはやって貰うことがあるからな。元の世界に帰す手段がない以上、彼女そのものを連れてくる訳にはいかないよ」
「では、あきらめましょう。要件がそれだけなら失礼させていただきます」
「待ってくれ、ネコさん。また、ダミーの身体を作ってくれ。スカーレットのホムンクルスを」
シャム猫は、やれやれというように器用に肩を竦めて見せると仕方なさそうに必要な物を提示してくれた。
「ありがとう、ネコさん」
「マスタから頼まれていますからね、竜さんのことは。あと、M78号と同様に二十四時間しかありませんからね。こればっかは、即製の宿命です。手に入ったら作業に入ります」
俺は、スカーレットに通話した。
「はい、竜。今日はどんな無理難題かしら?ええ、本当にそっちに行ける目途がついたのね。ええ、売って欲しい物がある?はあ?この変態!」
「いや、待て。スカーレット、これは是非とも必要なことだから。決して君が疑う様な変な意味は無い!」
「だったら、私の髪の毛と唾液を何に使うのよ!」
俺に対する不信を顕わに怒りまくる彼女を宥めて、なんとか材料提供を承諾させるのに三十分を要した。
そして、トレードが成立しスカーレットの金髪数本と唾液を俺は入手した。
数日後、異世界の街ジョージタウンを俺はスカーレットと歩いていた。
彼女の衣装は、少し大人しめの赤いワンピースで街を行き交う人々の中でそれほど浮いてはいない。いや、落ち着いた服を纏っても彼女の美貌は隠せず通り過ぎる人々は皆立ち止まり振り返っていた。
「へー、街並みは中世のヨーロッパみたいな感じね」
「ああ、電気とか車はないしなあ。」
「その替わり、魔法があるのね。正直驚いたわ。見るもの触れるもの全て本物みたい。石畳を歩く感触までが本物そのもの」
「たぶん、あれを食ったらもっと驚くだろうな」
「え?物も食べられるの?」
「まあ、試してごらん」
「おっちゃん、魔物串を二本」
「へい、まいどあり」
恐る恐る、スカーレットは屋台で売られている肉を焼いたものを口にした。
「あ、熱い。ああ、肉汁が、美味しい」
「ま、向こうの世界にはない魔物の肉だからな。しかも、君に限ってはカロリーゼロの超ダイエット食品だ。太るのはあくまでもこの娘だけだからね」
「うーん、その替わりずっとこの生活をしていたら。餓死するわね」
「まあ、時間制限があるからそこまで気にするほどでもないだろう」
「じゃあ、今度は魔物とか見て見たいな」
スカーレットのリクエストに答えるため街の中で馬車を拾うと、俺たちは森を目指した。