ワフードさんの協力によってようやく試作機が完成した。操縦系統や計器類はネコさん謹製だ。
試作機の動力は、二種類搭載されている。一つは魔力によるもので双子の魔人セーレ二組の力を使用している。
地上から発射シーケンスに入ると、銀色に輝く宇宙船は偽装されたジェットコースターのコース上を四体の魔人セーレの力で加速され最初の頂点を超えた所で、ジェットコースターであれば下降するところをコースから離れて飛翔を開始する。
もう一つの動力は、宇宙空間に到達後使用する予定だ。
「ご主人、きょ、今日は止めるにゃ。なんか嫌な予感がするにゃ」
「ふっ、大丈夫だ。ネコ、お前はやれば出来る子だ。あとな、お前には黙っていたがお前にも既に特殊な能力が宿っている」
「特殊能力にゃ?」
『詐欺(スキャム)!』
俺は、ネコに聞こえないように小声で呪文を唱えた後、声を普通の音量に戻してネコに説明を続けた。
「ああ、要するにお前はたとえ死んでも一日に七回までは消滅しないで生き返ることが出来る。それが生き残る力、生存《サバイブ》だ!」
「生存《サバイブ)》!そ、そんな力があったのならもっと早くに教えて欲しかったにゃ。あの森で無謀な狩りのため魔物を誘き寄せる囮になった時は、もう死ぬほど怖かったにゃ!」「それに、今回のパイロットの訓練なんか何度死にそうになったことか数えきれないにゃ」
「まあ、それはお前の成長のために必要なことだからな。仕方なかったんだよ」
「もうにゃ」
よし、ちょろい奴だ。これで、テスト飛行も出来るだろう。
あとは、ナルシュとタイミングを合わせて例の作戦の決行だな。
- 翌日 -
「竜さん、モニター状況良好よ。いつでもカウントダウンを開始していいわ」
「了解。ネコ船長、カウントダウン開始します。十、九、八」
「メータ値、全て正常《オールグリーン》」
「三、二、一、発射《エンゲージ》!」
ネコさんはモニタの前で、計器のチェックを行っている。研究室兼指令室でネコさんの隣の席で俺はカウントダウンを始めた。宇宙船の中で船の動作チェックを行っているのは優秀な俺のホムンクルスだ。俺の経験を物にしているため、ぶっつけ本番でテスト飛行に臨んでいるというのに特に臆した所が見られない。大したものだ流石に俺だな。
ナッキオ群島の北部の豊富な漁場は、今や命懸けの戦場と化していた。それは一隻のオンボロな海賊船がもたらしたものだ。
その船は髑髏の旗を風になびかせ、花王国の漁船の近くに突如として現れ一方的な砲撃で見つけた漁船を沈めていく。
だが、この日海賊船は新たな生贄を見つけることが出来ずにいた。
「おい、鼻ったれの漁船が見当たらないよなあ。別に鼻ったれの軍船でも構いやしないがよう。まさか、見張りの奴がサボってるんじゃないだろうな?ええ、どう思うよ?お前だよ、お前に聞いてるんだよ!」
「いえ、見張りはちゃんと任務をこなしています。ですが、きっと腰抜けの鼻ったれ漁船は巣に籠って出てこないのかと思います」
「おお、そうか。腰抜けが巣に籠って丸まっていると言うんだな?ようし、じゃあ。そういう時はどうするんだ?ああ、今度はお前に聞いているんだよ!」
獲物が見つからずにイライラを部下にぶつける船長に、指されて若い士官は口ごもりながら答えた。
「しばらく、こちらは姿を隠して奴らを泳がせて安心して出てきたところを一網打尽にするのが良いかと・・・」
「馬鹿野郎!」
若い士官は船長Jに殴り飛ばされた。
「こういう、獲物が居ないときはこっちから焼き払いに行くに決まってんだろうがよお。お前は士官学校で何を習って来やがったんだ!
よーし、今日の作戦はこうだ。奴らの港に入って艦砲射撃で漁船と街を焼き払う。これで、この糞ったれな作戦も終了だ。いいか、容赦するなよ。戦場で情けを掛けたら、そいつはおしまいなんだからな。野郎ども、解ったか?」
「おう、J船長万歳、ペンタクルス号万歳!」
「ようし、持ち場に着け。目標鼻ったれの港、全速先進!」
「アイサー」
「ふふ、弱い奴には目一杯強気に出る。ホントに小物なんだからねえ」
船長室で、紅茶を飲みながら金髪碧眼のビスクドールは謎めいた笑みを浮かべていた。
「船長、鼻ったれの港が見えて来ました」
「ようし、砲撃用意!」
「準備、よし」
「撃てー!」
ドーン!、ヒューン!
砲弾が命中するたびに漁船や、人家が、町が炎に包まれていく。