最近、奇妙な噂があちこちで聞こえるようになった。
昨日、どこかの街が一人の少女によって消し飛ばされたとか。
もう、何年も前に生き別れの親子が死の街で再会を果たしたとか。
突如、死の砂漠に緑のオアシスが誕生し今もなお緑が広がっているとか。
漆黒のマントを着た男と可憐な少女が現れる所には、不吉な死が齎されると。
うす暗い魔道の光の中で、血のように赤い古代文字が少女の現状を事細かに映し出していく。それを見て、『ソローンの造り手』は満足げに微笑んだ。
「ふふっ、魔力の上昇値もかなりのものになったな。そろそろ、闇の神髄、ダークマターを培養液に混ぜてみるのも面白いかも知れぬ」
赤い女が、狂おしく叫ぶ。 「出せ!ここから出せ!」 赤い女の悲痛な叫び、怨嗟の叫びは闇に飲み込まれていった。
ソローンは、今日も目覚めた。保育器《インキュベータ》はソローンの覚醒を感知すると自動的に培養液等を吸収、収納し静かに蓋を開いた。
「おはようございます、マスター」
「うん、ソローン。魔力も順調に向上しているぞ。今日は使い魔の召喚を試すか。早く七十二柱《しんちゅう》の使い魔をフルコンプしてみせい!」
ソローンは、『ソローンの造り手』の言葉に触発され瞬間的に恐ろしい悪魔のようなモノたちを脳裏に浮かべて身震いした。
少し、時間が経過しソローンのバイタルサインが安定したのを確認すると黒衣の男は静かに開始を告げた。
「では、手始めに北の魔人を従えてみるか?」
ソローンと黒衣の男は、北の大地で凍てつく風をものともせず無言て立っていた。 ソローンは、青く輝く短剣で自らの左腕を切り裂くと氷の大地に血文字を描いていく。
いつしか、ソローンは魔法陣を完成させていた。その魔法陣からは不可視の力が氷に覆われた大地に楔を打ち込み何者かを引きずり出す。
「我の眠りを妨げるのは何奴?」
「私は、『ソローンの造り手』様に作られしもの、ソローンなり。我が名に従え、下賤の悪魔め!」
巨大な蛇を抱えた人の姿をした悪魔は、久しぶりの獲物を見た狩人のように嬉しそうに微笑んだ。
「笑止、だが我を従えることが出来たなら巨万の富を与えよう。だが、失敗した時の代償は覚悟しておるのか?」
「むろん、その方のような下賤の悪魔などものの数ではない。故に我が名に従え、ソローンの下僕となれ!」
ふっ、もう勝負はついておるというのに、下っ端が何をほざいているのか。
黒衣の男は、アンドロマリウスを蔑むように笑った。