「もう、損な役目ばっかし吾輩に回ってくるなあ、この間の大戦でも撤退するときの殿を任されて命からがら逃げたけど。敗戦の責任まで取らされて領地の三分の一も減らされたりしてさあ。もう、ほんと勘弁してほしいよ」
元クレアパレスにたどり着くまで延々と愚痴を零していたセーレだったが、漸く目的地に到着すると街の門に向かって魔法で攻撃しだした。
「ふう、吾輩はアンドロマリウスに不意打ちを掛けられて後れを取ったこと、一生後悔するであろう。ならばこの怒り、悔しさをバネに吾輩は成りあがるのだ!その進撃ののろし代わりに、八つ当たり気味に弱い奴らを懲らしめてくれる。さあ、腸引きずり出してやる。体中の血を沸騰させてやる。覚悟しろ!」
「ああ、あ。偵察だというのにいきなり攻撃だと。ほんとに三流貴族は使えんなあ、でございます。後でソローン様にお仕置きしてもらうのでございます」
ロノヴェはセーレの陰に隠れたまま溜息を吐いた。
ドガーン、ガシャーン!
「うぉ!なんだ?8エイト、何があったんだ?」
「Kケイ、街の城門に攻撃が、多分あれは魔道ですぜ。普通じゃ、ありえねぇー、ことになってやす。すぐに、討伐隊を出しやすんで吉報をお待ちなせぇ」
「ふ、そんな木偶の坊が行ったところでどうにもなりはしませんよ。くくっ」
青い瞳のビスクドールが、可笑しそうにつぶやいた。
しばらくすると、銃声や砲声が鳴りやんだ。
「ふふ、俺が鍛え上げた親衛隊に敗北はあり得ぬ。さて、どんな阿保ずらが現れるか楽しみだな」
「ふぉっ、ふぉっふぉ。吾輩に盾突くやから、Kと言うのはその方か?部下に恵まれぬとは気の毒だが、ここで死ぬ分には逆に慈悲になるかものう」 禿デブ親父が、現れるや妙なポーズで右手の三本指をKに向けた。
「ふふ、魔族が人間というか人間風情が作ったまやかしの人形に隷属する魔族とは、傑作だな。久しぶりに面白い物を見れた、ならばそちに褒美を与えようか。そちは、ずいぶんとこの上級魔族に虐められていたようだのう。どうだ、好きにしてよいぞ、褒美だからな。こやつは、もうそちの命令に逆らえぬからな。そちの陰に潜みし故、そちに隷属させるのは赤子の腕をひねるよりも簡単だったわ」
セーレの陰から上半身を突き出して、妙な具合に身をくねらせる美麗な女性の姿が突然Kの城に現れた。
「うっ、なぜ、ここから出られぬ。この三流魔族の陰から抜けられぬはずが、この私の力を持ってして、成しえぬことなど何もないのでございます!」
ロノヴェは、身体を激しくのたうたせているが、一向に影から抜け出せなかった。
セーレは、ネズミをいたぶるネコのように、目を輝かせてロノヴェのスカートから零れる白い素足を視線で嘗め回した。
「ところで、アスタロトよ。うちの城門を破壊し、親衛隊を葬ったこの醜い禿デブ親父は何者だ?」
「そうね、下級魔族のセーレというケチなやつさ。それより、おまけでついて来たロノヴェは結構な実力があるが、なんの因果かこの禿デブの陰に潜んで我らを監視していたのが運の尽き、こやつのどす黒い欲望に塗れて、禿デブ諸共、我が軍門に下ったのよ」
「なるほど、ちと間抜けだが結構綺麗な顔をしているな。これは、夜が楽しみだなあ」
「ひひ、好機がやって来おったわ。これで、生意気なロノヴェを吾輩のモノにしてくれるわ。復讐は我にあり、寝る間も与えずに奉仕させてくれるぞ!」
「くっ、なんでこんなことに?」
「ところで、そこの人形さんは、まさかあの地獄のアスタロト様ですか?」
「くく、今頃気付きおったか。まあ良い。今宵は機嫌がよいから、その方思う存分そのロノヴェを好き放題嬲ってやりな。そのかわり、これからはちゃんと働いて貰うからね!」
「ははあ、アスタロト様」